
【ブレイクを目指す選手たちが育つ新スタジアム】
球団創立90周年の昨シーズン、4年ぶり39度目のセ・リーグ優勝を果たした読売ジャイアンツ。リーグ連覇と日本一を目指す今季は、監督選抜で初のオールスター出場を決めた2年目の泉口友汰や、プロ7年目で初の4番も任された増田陸など、若手選手の台頭も印象的なシーズンになっている。
今年3月に開業した「ジャイアンツタウンスタジアム」(東京都稲城市)でも、彼らにつづけと言わんばかりに、レギュラー獲得を目指す選手たちが日々汗を流し、虎視眈々とチャンスを伺っている。
7月4日に一軍に再昇格した、プロ入り2年目の25歳、佐々木俊輔外野手も新スタジアムで実力を磨いた。
昨季は俊足と広い守備範囲が評価され、現在チームを率いる阿部慎之助監督以来となる、23年ぶりの新人開幕スタメンを勝ち取った。しかし、シーズン途中に打撃不振により降格を経験。最終的には59試合に出場し、打率.231、0本塁打、6打点と、レギュラー獲得には至らなかった。
「これまで一軍でなかなか結果が残せなかったので、昇格後も活躍できるように意識しながら練習に取り組んでいる」と話す佐々木は、「2ストライクまで追い込まれると、自分が苦しい状況に立たされることになるので、早いカウントから積極的に勝負し、甘い球を仕留められるかどうかが大切です。その点では、まだまだ技術を上げていく必要があると思います」と課題を口にする。
今季からファームが公式戦を行なう新スタジアムは、両翼100m、中堅122m、フェンスの高さが4.24mと、東京ドームと同じ規格が採用されている。選手たちは一軍で活躍する姿を思い浮かべながら、プレーできるように配慮されている。
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「天然に近い素材の人工芝が使われていて、表面の温度が上がりにくく、プレーする選手のコンディションを考えてくださっていることが本当にありがたい。最新の機材を使った練習もできますし、選手に対する思いを感じながら過ごせています」
そう語る佐々木は、東京都日野市の出身。ジャイアンツタウンスタジアムのある多摩エリアで幼少期を過ごした。
「子どもの頃は、夏になるとよみうりランドのプールによく遊びに来ていましたね。遊園地に向かうゴンドラに乗り、下に見えるジャイアンツ球場をのぞき込んで、『誰かいないかな?』と探してみたりして。『スター選手に出会えるかもしれない』というワクワクした気持ちを感じながら、このあたりを通ったことを覚えています」
佐々木は今年の1月に「日野市スポーツアンバサダー」に就任。シーズンオフには、かつて通った小学校を訪問して生徒たちとの交流を深めるなど、日野市とジャイアンツが進めるスポーツを通じた地域活性化に貢献してきた。
多摩エリアのスポーツとエンターテインメントの拠点になるべく建設された新スタジアムは、かつて多くの選手が練習に励んだ多摩川グラウンド(1998年3月閉場)をイメージした、選手とファンの距離の近さが印象的な作りになっている。
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佐々木も「これまでに経験がないくらいにファンのみなさんと距離が近く、驚かされることもありますが、みなさんにさまざまな声援を送ってもらえることがうれしい。多くの若手選手にチャンスがある1年なので、自分もそこに加わり、結果を出していきたい。一軍の勝利に貢献できるように頑張りたいです」と、決意を新たにした。
【新天地で奮闘する秋広も汗を流した】
ジャイアンツタウンスタジアムで実力に磨きをかけていたのは、現在ジャイアンツに在籍する選手ばかりではない。2020年のドラフト5位で巨人に入団し、今年5月12日に福岡ソフトバンクホークスにトレード移籍が決まった秋広優人もそのひとりだ。
身長2メートル、かつて松井秀喜氏が背負った背番号55を引き継いだ秋広は、新天地に活躍の場を移す前にこう語っていた。
「今は打撃成績がよくないし、まだまだ課題があると思っています。ファームで一緒にプレーしてきた選手の活躍を見ると、自分としては悔しさもありますが、焦って結果が変わるわけではありませんから。コーチや監督のアドバイスを参考にしつつ、前を向いていくしかないと思っています」
新スタジアムでは桑田真澄二軍監督からのアドバイスに耳を傾け、自分の打撃を模索していた。
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「(桑田監督は)『もし俺がアキ(秋広選手)と対戦するのなら、こういう配球で抑えるかな』とか、投手目線で話してくださって、僕にとっても新しい発見がたくさんありました。昨年から、『まずは打率.300、20本塁打を目標にしよう』と声をかけていただいたので、そこを目指して頑張っていきたい。
まだ思うような結果が出せていませんが、練習の余地は残されていると思いますし、数字が出てきたら気持ちの余裕も生まれると思うので、まずは根気強く野球に取り組みながら、成長していきたいです。
期待してもらえることは、プロ野球選手として本当にありがたいことだと思うので、本当にまだまだやらなきゃいけないと思いますし、シーズンが終了した時に『よかった』と胸を張れるシーズンにできるように頑張りたいなと思います」
そう意気込んでいた秋広は、トレードでソフトバンクに加入して約1カ月後の6月10日、みずほPayPayドームでの交流戦で古巣巨人との対戦を迎えた。
秋広が入団した2020年に二軍監督を務め、「1対1で打撃技術を教えてもらいましたし、何かと目にかけてくださっていた」と話す阿部監督とも再会。8番ファーストで先発出場した11日の試合では、右中間に二塁打を放った。
古巣に"恩返し"をした秋広は、続く横浜DeNAベイスターズ戦で3試合連続打点を挙げ、自身初の3戦連続のお立ち台に上がるなど、ソフトバンク9度目の交流戦優勝に貢献した。
ジャイアンツタウンスタジアムには、今年6月3日に89歳でこの世を去った長嶋茂雄終身名誉監督のユニフォームや、ジャイアンツを支えたスター選手の若手時代の写真が球場の各所に描かれており、チームの歴史に触れながら試合を楽しむことができる環境が整っている。
新たに誕生したスタジアムとともに、ジャイアンツはどのような歴史を紡いでいくのか。ファンの声援と期待を背負い、新たに頭角を現していくスターの誕生が、今から楽しみでならない。