限定公開( 10 )
商店街やスーパーの店頭で、風に揺れるのぼり旗。赤や黄色の派手な文字で「本日特売!」「営業中」などと書かれた長方形の布は、どこか昭和の香りがする販促物です。
ところが最近、そののぼり旗が進化を遂げつつあります。カニの爪が突き出し、サバの塩焼きが宙を泳ぐ――。形そのものを商品に合わせた、ちょっとユニークなモノが登場しました。
名前は「変形のぼり・カットビくん(仮)」(以下、変形のぼり)。のぼり旗や横断幕などを手掛けるポップジャパン(広島市)が製作しました。
のぼり旗の歴史は古く、邪馬台国の時代からあったという説があります。起源には諸説あるものの、戦国時代を想像する人も多いかもしれません。武将が自軍を示すために旗を掲げていましたが、現代では「店の存在を知らせるシンボル」として受け継がれています。
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しかし、ポップジャパンの担当者によると「ここ数年、のぼり旗の市場は縮小傾向が続いています」とのこと。背景には、商店街や個人飲食店の減少に加え、コロナ禍でイベントが激減したことが影響しています。
加えて、スマートフォンの普及で販促の主役はSNSやWeb広告へ移行しました。通行人の視線を奪うだけでは、集客につながりにくくなっています。
変形のぼりの開発を担当した酒井護博さんは、こう振り返ります。
「のぼり旗は文字に頼る広告でした。でも、広告としての即効性だけでは限界があります。SNSで写真が拡散するような、“話題になるもの”が求められていると感じました」
発想の原点は、街で見かけたフォトスポットや、アイドルショップのディスプレーだったそうです。ファンが写真を撮り、投稿することで店の認知が広がる――その仕組みをのぼり旗に持ち込みたいと考えました。
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●社内で賛否の声
試作品をつくったところ、社内で賛否が分かれました。「カニやサバをリアルに再現すると、『ちょっと気持ち悪い』という声もありました。でも、そのくらいインパクトがないと意味がない。普通の長方形では埋もれてしまいますから」(酒井さん)
ポップジャパンはこれまでも、牡蠣(カキ)の形をしたクッションやお手玉など、遠目には本物に見える布製品を手掛けてきました。今回の変形のぼりは、そのノウハウを販促物に応用した形です。
現状の課題は、製造コストにあります。変形のぼりは、1枚5500円から(デザインによって変動)。一般的なのぼり旗が1枚1000円前後であることを考えると、5倍ほどの価格です。
理由は、複雑な形に沿った裁断や縫製を手作業で行うため。量産体制はまだ整っておらず、導入は話題づくりを狙う店舗などに限られます。
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「まずは試験的に使ってもらい、反応を見たい。SNSでの投稿や問い合わせが増えれば、次の展開が見えてくると思います」(酒井さん)。複数の会社から問い合わせはあるものの、市場にはまだ出回っていないので、導入効果の検証はこれからです。
また、インバウンド需要にも期待がかかります。文字を読まなくても形で内容が伝わるため、外国人観光客向けの店舗とは相性が良いと見ています。
変形のぼりは、従来ののぼり旗と同じく「店の存在を知らせる旗」である一方、その役割は変わりつつあります。風に揺れるサバの横で、本物の猫がじっと狙っていた──なんて日が来るかもしれません。
(土肥義則)
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