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「小僧寿しチェーン」のフレーズでおなじみのテレビCMを覚えているだろうか。持ち帰り専業の寿司店である「小僧寿し」は1970年に1号店を出店し、その後瞬く間に店舗数を増やした。1977年に加盟店が1000店舗を突破し、1979年に年商が531億円で外食企業のトップとなった。
【画像】6月にロンドンでオープンした「小僧寿し Japan Centre 店」、店舗外観(計4枚)
その後、最盛期には2300店舗を展開。2000店舗超といえば、現在のスターバックスに匹敵するレベルだ。しかし1990年代から閉店が相次ぎ、8月5日時点では国内に134店舗しかない。小僧寿しの衰退期は回転寿司の拡大時期と重なる。価格や立地戦略で回転寿司と重なる中、商品面で優位性を示すことができなかったとみられる。
●最盛期には2000店舗超も、回転寿司に敗れた
小僧寿しは1964年に持ち帰り寿司店の「スーパー寿司・鮨桝」として創業した。創業者の山木益次氏は寿司店の三男であり、米国のチェーンストア理論を導入して小僧寿しを創業した。当初は資金難やオペレーションの問題で失敗するが、1972年に小僧寿し本部を設立して再起を図り、店舗展開を始めている。直営とFCの両軸で店舗数を増やし、冒頭の通りピーク時には2000店舗を超えた。
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小僧寿しは「徒歩や車で、10分前後で来られる場所」を商圏としており、主に住宅街やロードサイドに出店した。1970〜80年代当時は現在ほど飲食チェーンやコンビニが充実していない時代である。手軽に中食を購入できる店舗として消費者のニーズをつかんだ。
同時期には「ほっかほっか亭」も店舗数を増やしており、同様の理由で伸びたと考えられる。また、現在のように全国チェーンがなく、寿司は個人店が主な時代であり、チェーンとしての画一性や敷居の低さ、そして安さが小僧寿しの拡大につながった。
●すかいらーく傘下でも再生できず、過去には債務超過に
2000店舗台を維持していた1993年当時、3割を占める約600店舗が首都圏にあった。つまり都心に集中していたわけではなく、全国的に展開していた。しかし、1990年代後半から店舗数を減らし、業績も悪化していく。
2006年には、すかいらーくが小僧寿しを買収した。テコ入れを図るも再建できず、すかいらーくは2012年に小僧寿しを売却。食材調達の共有化などのシナジーを狙ったが、そもそもすかいらーくはテークアウト専業店のノウハウを持たない上に寿司業態を展開しておらず、効果が薄かったと考えられる。
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たび重なる赤字や、宅配サービスの「デリズ」買収によるのれん計上などで2018年12月には債務超過に陥っており、債務の株式化やファンドに対する新株予約権の発行で翌年に何とか債務超過を解消した。株価は2004年まで1000円以上を維持していたものの、リーマンショック前後で急落し続け、2016年以降は2ケタ台の超低位株、通称「ボロ株」となった。
●スーパーと回転寿司に押された
小僧寿しから客を奪ったのは食品スーパーと回転寿司チェーンである。食品スーパーでは以前から寿司を販売していたが、共働き世帯の増加に伴い、1990年代から総菜や弁当コーナーを拡充するようになった。ダイエーやイトーヨーカドーなどの大手による画一化も進み、現在のような食品スーパーの商品構成となる。
回転寿司チェーンに関しては、1979年創業のかっぱ寿司が台頭し、より手軽に寿司を食べられるようになった。2000年代からはスシロー、くら寿司、はま寿司も勢力を拡大していく。回転寿司店はテークアウトに対応しているため、中食需要の面でも小僧寿しの優位性が失われた。また、小僧寿しが得意とするロードサイドや住宅地という立地も回転寿司と重なる。
品質や価格帯においても、小僧寿しの優位性はなかった。2000年代の客単価は1000円台前半で、デフレ時代には平日限定で9個390円、14個500円の弁当を販売していたこともある。一方で食品スーパーも寿司1人前は1000円以下が相場。回転寿司の客単価も1000円程度である。価格と品質が相関すると仮定すれば、小僧寿しがスーパー・回転寿司に対して味の点で支持されていたとは考えにくい。
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対照的に前身となる「寿司衛門」を1998年にオープンした宅配専用の「銀のさら」は、客単価5000円超と高価格帯だ。訪問客のもてなし需要を取り込んで拡大し、2025年3月末時点で350店舗を超える。
●「ボロ株」から脱却できるか
小僧寿しを運営するKOZOホールディングスのピーク時売上高は、2002年12月期の369億円だ。業績悪化に伴い縮小し、2016〜19年度は50億円台を推移していた。だがコロナ禍以降、再成長し続けており、2022年度には100億円を突破。
依然として赤字だが、2024年12月期の売上高は181億円である。小僧寿しの縮小が続く一方、M&Aによる多角化を進めているのが増収の要因だろう。2024年度における各セグメントの売上高は下記の通りである。
小売事業:45.5億円
流通事業:103.8億円
飲食事業:53.4億円
小売事業は祖業の小僧寿しに関する事業であり、不採算店の閉鎖やFC店の直営化を進めている。流通事業は、2018年に買収したデリズや2023年に買収した東洋商事が手がける事業だ。宅配に限定したフードデリバリーや食品の卸売などを展開する。
飲食事業は2022年に買収した外食2社を中心とする事業で、規模は既に小売事業を上回る。業態は居酒屋やラーメン店など多岐にわたり、2024年度末時点で直営26店舗、FC239店舗を展開している。比較的認知度の高いチェーンとしてメキシカン・ファストフードの「TacoBell」が挙げられる。
KOZOホールディングスの株価は2025年6月まで20円を切っていたが、7月に40円まで急上昇し、直近では30円前後を推移している。英国企業とフランチャイズ契約を結び、ロンドンに小僧寿しを2店舗出店したことが好材料となったようだ。ゼンショーが欧米を中心にテークアウト寿司店を約9500店舗展開しているように、海外でテークアウト寿司業態のニーズは大きい。
国内の小僧寿しが再成長する可能性は低いため、再成長を図るなら多角化か海外展開が選択肢となる。ボロ株を脱却する日は来るだろうか、KOZOホールディングスの今後に注目したい。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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