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ローソンの新たな取り組みが話題となっている。コンビニ初の駐車場を活用した車中泊施設「RVパーク」だ。
約1年間の実証実験として、7月14日から千葉県内の店舗でスタートし、すでに週末を中心に想定を上回る利用率を記録している。なぜ、コンビニが車中泊サービスを始めたのか。
今回の取り組みは、ローソン、日本RV協会、貨幣処理機メーカーのグローリー(兵庫県姫路市)が連携して実施している。千葉県内の一宮東浪見店、御宿新町店、天津小湊店、富浦インター店、南房総岩井海岸店、富津湊店に、8月に館山山本店を加え、計7店舗で展開している。
実証実験のエリアに千葉県の房総半島を選んだ理由は、観光客が多く、車中泊ニーズが高いことだ。また、全ての対象店舗が24時間営業で駐車場に余裕があり、スーパー銭湯や公衆浴場が近接しているほか、民家からも離れているという立地条件も重視した。
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ローソンのRVパークは専用サイトでの事前予約・決済制で、利用料金は1泊2500〜3000円。1店舗につき1日1台利用でき、チェックインは午後6時から、チェックアウトは翌午前9時まで。利用者には許可証、電源ドラム、店内トイレ、ゴミ袋1枚を提供している。
サービス開始の1週目は100%に近い予約率を記録した。2週目以降は落ち着いたものの、週末は依然として高い予約率を維持している。「想定していたよりも利用率は高い」と、ローソン新規サービス部の戸津茂人氏は語る。
●「車中泊」ニーズの拡大と社会課題の解決狙う
ローソンが車中泊サービスに参入した背景には、市場の拡大がある。全国の「RVパーク」(車中泊スペース)の数は、2024年12月時点でで500カ所(日本RV協会調べ)を超え、その多くは道の駅や日帰り温泉、飲食店などの駐車場の一角にある。ユーザーは寝床を確保でき、スペースを提供する事業者は施設の利用促進につながるなど、双方にメリットがある。
また、「車泊サービス」を展開するトラストパークによると、利用者がコロナ禍前の12倍(1071件→1万3234件)に増加しているという。
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車中泊ニーズの高まりは、インバウンド需要による宿泊費の高騰も関係している。日本総研が6月に発表した調査結果では、宿泊費はコロナ禍前の1.3倍近い水準となっている。
加えて、ペットと一緒に過ごしたい、小さな子ども連れだとホテルに泊まりづらいといった旅行ニーズの多様化もある。実際に、ローソンのRVパークの利用者を見ると、ペット連れや家族での利用が目立つ。
利用者からは「子どもが泣いても気を使わなくていい」「犬と一緒に宿泊できるホテルが少ないので車中泊を選んだ」といった声が寄せられている。
全国に展開するローソンは、駐車場を備えた店舗が多い。夕方から朝にかけて、利用客が少ない時間帯に空きスペースを活用できることから、同社にとっても参入する意義は大きい。利用者が店舗で買い物もすれば、売り上げ機会の創出につながる。
さらに、車中泊サービスの運営をグローリーが担当することで、ローソン側の負担は最小限に抑えた。「人手不足の中で新しいことを始めるにはオペレーションが重要。店舗の負荷が少ない形で進めることを重視した」と戸津氏は語る。
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●24時間有人営業と清潔設備で差別化
一般的なRVパークと比べ、コンビニならではの強みは何か。戸津氏は「24時間営業で常に人がいるという安心感」を第一に挙げる。誰もいない場所では防犯面で不安もあるが、コンビニなら店員がいるため何かあったときに助けを求められる。
清掃された室内トイレを使用できるほか、道の駅などでは自由に使えない電源も利用可能だ。また、ローソンは店舗で購入したもの以外のゴミも、ゴミ袋1袋までは回収する。「従来の車中泊ではゴミの処理に困ることが多い」という声に対応した。
一方、車中泊する人が増えるとともに、無断駐車や騒音などのマナー違反も問題として取り上げられている。ローソンでも懸念していたが、開始後の利用者のマナー面は非常に良好だという。「RVパークを利用される層は車中泊に慣れた人が多く、マナーを守って使っていただいている」と戸津氏は語る。
例えば、夏場はエアコンを使うためにエンジンをかけっぱなしにする心配もあったが、ポータブルクーラーを持参する利用者が多いという。また、車外にテントを張ったり、焚火などの火気を使用したりする行為は禁止しており、純粋な車中泊として利用している。万が一マナー違反があった場合には、注意喚起を行うことも検討している。
●四季を通じた検証を実施
実証実験の期間は、2026年6月30日までの約1年間を予定している。その狙いについて戸津氏は、「気候や季節ごとの利用シーンの違いを確認するため」と説明する。夏場は冷房が必要だが、冬になれば暖房が課題となる。虫の発生など、季節ごとに異なる問題が起こる可能性もある。
また、コンビニは24時間営業がメリットである一方、深夜には商品を納品するためのトラックが到着する。現時点では利用者からのクレームはないが、納品作業の音についても今後の課題として注視していく考えだ。
サービスの拡大については「現状では未定」としながらも、戸津氏は条件として「車中泊ニーズのある観光地に加えて、駐車スペースの余裕と近隣に銭湯などお風呂があること」を挙げる。
今回の実証実験で数字の目標は掲げておらず、利用者、店舗、近隣住民が問題なく使えるかどうかを最重要ポイントとしている。1年間の取り組みを通じて、慎重に判断を下す方針だ。
ローソンは、店舗の空きスペースを活用する取り組みの一つとして、店内にクレーンゲーム機を設置している。この3年間で852店舗に導入し、車中泊サービス「RVパーク」と同様に、店舗の負担をできるだけ減らしながら、お客の満足度を高めることを目指している。
今回のRVパークの取り組みも、コンビニにおける新たなビジネスモデルとなるか。
(カワブチカズキ)
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