相次ぐ閉店――ロフトとハンズ、巨大店舗が直面した”壁”とその“打ち手”とは?

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2025年08月22日 05:50  ITmedia ビジネスオンライン

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梅田ロフトが5月21日に移転新装開業した百貨店「阪神梅田本店」

 雑貨大手「ロフト」「ハンズ」の巨大雑貨ビルが相次ぎ姿を消している。


【画像】新生・梅田ロフトは「LOFT市場NEO」をコンセプトに設定。暖簾や提灯、勘亭流書体を用いるなど、既存店にない「和」を基調としたデザインに


 2021年10月には池袋サンシャイン60通りの「東急ハンズ池袋店」(当時)が完全閉店、2025年4月30日には大阪梅田茶屋町の「梅田ロフト」が近隣百貨店「阪神梅田本店」への移転にともない、35年の歴史に一旦幕をおろした。


 記事前編では、ロフトとハンズ、両社の創業の経緯を見てきた。後編では、両社の大型店舗が抱えてきた課題に焦点を当て、これをどう乗り越えようとしているのか、新たな試みを見ていく。


●「床効率の悪さ」課題 小型化に舵切ったロフト


 ロフトは、高度経済成長期に誕生した地域一番店級の百貨店やファッションビル跡に大型店を構えたため、常設店を持たない新興ブランドのPOP-UPや新進気鋭のアニメ・漫画・イラストレーターといった各種IPコンテンツとのコラボを業界に先駆け展開する土壌となり、百貨店同様の館のランドマーク的価値向上、トレンド文化の情報発信館としての確固たる地位実現に貢献した。


 一方、これら大型店の売り場面積は、取扱商品の拡大や他専門店への転貸を進めてもなお過剰であり、先発のハンズを上回る「店舗老朽化」と「床効率の悪さ」の対策に追われることとなった。


 そのため、ロフトは入居施設の建替えや再整備にあわせ、館内や近隣施設への移転をともなう店舗規模の適正化を順次実施していく。


 2004年のJR東日本系駅ビル「ルミネ川越」への既存店移転を機に、小型店を新たに立ち上げ、2007年2月にはミニロフト(300平方メートル級店舗)1号店として「丸の内ロフト」を開店。


 2010年9月には、イトーヨーカドーと共同開発するかたちで新業態「タノシア」1号店を開店(2011年ロフトFCに転換)するなど、グループ内外の企業との提携と、小型店の全国展開による事業拡大に舵を切っていく。


●コスメなど特化型業態に注力 ブランドイメージ刷新したハンズ


 ハンズの大型店も、ロフトと比べて新築店舗主体で他業態からの転換店舗が少なかったものの、創業以来続くホームセンター業態に構造的課題をかかえていた。


 ハンズを含むホームセンター業界を取り巻く環境は、1974年3月施行の大規模小売店舗法(大店法)が段階的に緩和したことで激変する。


 同業のイオン系「ケーヨーD2」「ホーマック」(ともに現DCM)や、ベイシア系「カインズ」といった郊外型平屋建てを得意とする競合が1万平方メートル級の大型店や、衣食住をフルラインでそろえる複合商業施設を立ち上げ、業界再編の主役に躍り出るなど影響力を急速に高めた。


 ハンズの大型店は、都市型としては国内最大規模であるが、成熟したDIY市場で生まれた上級者の資材需要を満たすことは困難であり、ロフトと比べ、消費の主役といわれる女性やファミリー層の獲得にも難航。床効率や仕入調達面で高コスト体質にあった。


 そのため、ハンズは2000年4月の現ららぽーとTOKYO-BAYへの鞄特化型新業態「outparts」の開店を皮切りに「ハンズプロデュースの専門店」の開発を模索する。


 2003年9月の川崎店開店を機に、創業以来続く「全店独立型運営」と、全国チェーン化以来続く全店多層型店舗からの脱却を図り、近隣大型店を母店とする「エリアブロック運営」とワンフロア型店舗を本格展開するようになる。


 その後も2004年11月には提案型ルームセンター「homey roomy」を開店。主力業態に発展的統廃合をするなど、DIY系商材を取り扱わないハンズがみられるようになった。


 2008年6月には、コスメ雑貨特化型業態「hands be」1号店を開店。


 首都圏を中心に増加傾向にあった駅ビル向けに、トレンドに敏感な20〜30代女性や公共交通利用者を主要客層に定めた業態を拡大し、主力業態に逆輸入することで、男性向け都市型ホームセンターとしてのブランドイメージを塗り替えた。


 ハンズは集大成として、2009年6月の新コンセプト「ヒント・マーケット」を掲げて、渋谷店の全面リニューアルを実施。各店舗の販売員が仕入権限を有する仕入販売員制度から本部主導の仕入れに移行し、資材やクラフト系商材の取り扱いを全社的に縮小。ロフト同様に、雑貨主体のセレクトショップへの転身を成し遂げることとなった。


 この過程で渋谷店と同じくスキップフロアを特徴とした横浜店は、近隣のファッションビルに移転。三宮店は完全閉店となり、両店舗跡は独特な構造が災いとなり、築年数20〜30年で解体という憂き目にあったが、ローコスト運営転換に向けた施策が功を奏し、2008年3月期からコロナ禍前の2020年3月期まで営業利益は黒字を維持していた。


 両社による巨大雑貨ビルの縮小移転を始めとする業態改革をめぐって、最盛期には10万近いアイテム数をそろえた旗艦店級の巨大雑貨ビルを支持してきた顧客や識者からは、没個性化を指摘する主張もみられるが、業界再編の動きや価格競争力の高いECとの競合も背景にあることは忘れてはならない。


●百貨店のなかで生き続ける巨大雑貨ビル


 両社は時流を意識した業態改革を進めることで課題を乗り越えたが、移転後の旗艦店はどうなったのだろうか? 


 ここからは5月21日に移転新装開業を迎えたばかりの関西旗艦店「梅田ロフト」を見ていきたい。


 梅田ロフトでは、取扱品目を約6万アイテムから約4万アイテムと「3分の2」に、営業面積を約5273平方メートルから約2222平方メートルと「2分の1」に縮小した。


 一方で、ロフトが「微差商品」と位置付ける機能重複商品の削減をしつつ、ライブ配信やe-Sportsを意識した新編集提案売り場「StreamingNOW!」や、中国・台湾を始めとする中華系フィギュア売り場「LOFTOYSHOW」、サンプル自販機「ロフボ」本格導入――といった初の試みを打ち出すなど、従来以上にバリエーションに幅をもたせた領域横断型の売り場を実現した。


 このほか、旧店舗同様の大規模イベントを開催可能なスペースを館内複数箇所に設け、漫画小説原作のアニメ作品「呪術廻戦」「物語シリーズ」といったIPコンテンツ、阪神梅田本店主導の催事「めんそーれ沖縄」を始め地元大阪の有力ブランドとの連携企画を展開することで、百貨店直営フロアを含めた館内全体の回遊性や情報発信向上、縮小面積の補完をめざした。


 ロフトによる新たな試みや阪神梅田本店への移転は、ロフトと百貨店双方に相乗効果がある。


 ロフトの旧店舗は大阪梅田の外れ「大阪市北区茶屋町」にあったが、新店舗は阪神梅田駅の真上「大阪市北区梅田1丁目」という圧倒的な好立地にあり、公共交通アクセス改善と百貨店が強みとするインバウンド需要の取り込みが可能となった。


 2025年3月より渋谷・銀座で実験導入中だった「ロフボ」は、実店舗や自社アプリの利用促進、サンプル提供メーカーの販売促進やマーケティング分析向上にとどまらない、実店舗のリテールメディアとしての機能強化に結びつく。


 ロフト独自の仕入調達網を生かした台湾・台南屈指の観光型百貨店「林百貨」グッズやIPコラボの専売商品、体験型POP-UPといった取り組みも脱価格競争と支持拡大の材料となり得るものだ。


 従来レジにて対応していた自社アプリ会員向けサンプル配布を担う新たなコミュニケーションツールだ。


 阪神梅田本店としても、長年主要顧客であった60〜70代女性と2018年6月の第1期建替を機に新規獲得を図った30〜40代女性(西梅田OL)に加え、より若い顧客の新規獲得と出遅れていたIP催事の巻返しを図ることができる。


 阪神梅田本店の至近距離に位置する競合百貨店「大丸梅田店」は有力ゲーム関連企業「任天堂」「カプコン」や有力IP「ポケモン」「ワンピース」直営店を擁し関連催事に先行するが、2025年秋よりフロアを低層階に集約する方針が決まっており、高層階に入居する上記直営店の去就に注目が集まっている。


 柏木淳梅田ロフト館長も「前の店の強みはIP催事、キャラクター催事は引き続き行っていく」と評した通り、阪神にとって集客向上が見込める大型専門店という役割にとどまらない、梅田や心斎橋でIPを独占する大丸松坂屋系に楔を打ち込む存在ともいえるのだ。


 ロフト全店舗中9店舗しかない「普通のお店とは違う情報発信の機能を含めた館」という役割と大型店統括役職「館長」の肩書、梅田ロフトを店でなく館と称することにこだわりをみせたことからも、茶屋町時代から続く情報発信館としての役割の継承がうかがい知れる。


 ハンズも2020年2月以降、地方再発見と地域共創を掲げた新業態「プラグスマーケット」(売り場面積1000平方メートル前後)を地場流通大手や地方百貨店とFC契約するかたちで展開しており、自前主義からの脱却、地域との共存や百貨店の課題解決を図るかたちでの再活性化は雑貨大手にとってトレンドとなりつつある。


 文化の香り漂う巨大雑貨ビルという館は姿を変え、百貨店やモールのなかで生き続けることとなりそうだ。


淡川雄太(都市商業研究所)



このニュースに関するつぶやき

  • 都会に大型施設置いても場所代高いし少子化で若者減るし、長い目で見れば中型都市にでっかく置くのがこれからだろうな
    • イイネ!8
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