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仲間から虐待や暴行を受けていた男性がライブ配信中に死亡──フランスで起きた事件が社会に衝撃を与えている。こうした配信が許されるプラットフォームや、過激な「チャレンジ」が横行する現実に対して関係者は警鐘を鳴らしている。
報道によると、ライブストリーマーのジャン・ポルマノーブ(JP)ことラファエル・グラヴェンさん(46)は8月18日、フランス・ニース近郊のアパートの一室で死亡した。グラヴェンさんが動かなくなったことに最初に気付いたのは、配信プラットフォームでライブ中継を見ていた視聴者だった。一緒にいたストリーマーが起こそうとしたがグラヴェンさんは目を覚まさず、配信はそこで中断。その後部屋を訪れた警察が死亡を確認した。
グラヴェンさんは複数の配信プラットフォームでゲームの動画や過酷なチャレンジの動画をライブ配信していて、フォロワーは50万を超えていた。しかし「Naruto」と称するストリーマーなど別の2人と組むようになってからは、「ゲーム」や「チャレンジ」と称してこの2人がグラヴェンさんともう1人の男性を暴行したり、暴言を浴びせたり、屈辱的な行為をさせたりしていたという。
最後のライブ配信が始まったのは8月5日。米CNNによると、Narutoは視聴者に投げ銭を呼びかけて「チャレンジ」のリクエストを募り、12日間にわたってグラヴェンさんが殴られたり首を絞められたり水を浴びせられたりする場面をライブ配信していた。死亡する前日は、屈辱的な格好で外を歩かされていた。
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グラヴェンさんの死亡を受けてニースの警察や検察は捜査に乗り出した。検視の結果、遺体に目立った外傷はなかったことが分かり、検察は、第三者がグラヴェンさんの死亡に関与した形跡はないとの見方を示した。グラヴェンさんは以前から心臓疾患や甲状腺疾患の治療を受けていたとも伝えられている。
●「現実がフィクションを超えた」
今回の事件は、視聴者からの投げ銭を稼ぐ目的で、陰湿な暴行や屈辱的な行為をライブ配信する「トラッシュ・ストリーミング」の実態を見せつけた。こうした行為はロシアやポーランドで2020年ごろから問題になっており、グラヴェンさんとNarutoのグループも、過激さを求める視聴者からかなりの額を稼いでいたらしい。
実はグラヴェンさんのチャンネルを巡っては24年12月、暴行の様子がライブ配信されているという通報を受けてフランスの当局が捜査に乗り出し、グラヴェンさんと一緒に出演していたストリーマー2人を1月に逮捕していた。しかし2人は罪に問われることなく釈放され、問題のチャンネルもそのまま継続していた。
問題の配信プラットフォームは22年、カジノなどを経営するオーストリア人のオーナーが開設した。モデレーターがいない状態でギャンブルや暴力などのコンテンツが横行する状況にあるとされ、フランスのガブリエル・アタル元首相は「何でも許される無法地帯」と形容している。
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グラヴェンさんの死を受けて、フランスのAIデジタル担当相であるクララ・シャパズ氏は「現実がフィクションを超えている。私たちは人が死ぬ場面をテレビチャンネルで見ることができ、人々は何時間も辱めが続くこの種の動画を見ることができる」と衝撃を隠さなかった。こうした配信サイトについては「全てのプラットフォームは、明らかに違法と認識しているコンテンツを削除する法的責任がある」とXに書き込んだ。
一方、プラットフォームだけの問題ではないという指摘もある。極右として知られるマリオン・マレシャル元議員は「拷問に加わった者たちか、それともこの『見せ物』を楽しんだ者たちか、どちらの方により不快感を覚えるのか、私には判断できない」と述べ、「問題の中心はSNSではない。残虐行為、暴力、弱者を辱める文化……そして究極的には、もはや善悪の区別がつかなくなった社会に問題がある」と強調している。
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