『チェンソーマン』第二部の盛り上がりが最高潮に！？　“戦争の悪魔”をめぐる衝撃の展開を考察

※本稿は『チェンソーマン』最新22巻までのネタバレを含みます。

 『週刊少年ジャンプ』（集英社）での連載終了後、「少年ジャンプ＋」にて第二部の連載が行われている藤本タツキの『チェンソーマン』。9月4日には最新刊となる22巻が発売されたところだが、その内容が大きな盛り上がりを見せている。

　そこで本稿では第二部の大まかなストーリーを振り返りつつ、今作者が描こうとしている“衝撃の展開”について考えてみたい。

　まずはあらすじから説明すると、物語は自尊心が高く孤独な女子高生・三鷹アサがとある事件によって命を失い、戦争の悪魔・ヨルに身体を奪われることから始まる。ヨルはかつてチェンソーマンと戦ったことがあるが、敗北したことで弱体化してしまい、その屈辱を晴らすためにアサの身体を乗っ取ったという。

　その一方、デンジは支配の悪魔の生まれ変わりであるナユタと2人で暮らしており、時折チェンソーマンに変身して悪魔退治も行っていた。アサとデンジ、ヨルとチェンソーマンの運命が次第に交差していくなか、ノストラダムスの大予言をめぐって世界が混沌に陥っていく……。

　第二部の特徴は、いくつかの勢力が入り乱れる形でストーリーが進行すること。たとえば序盤では、ノストラダムスの大予言を回避するためにチェンソーマンを支援する世界平和チェンソーマン協会と、「もう二度とチェンソーマンになるな」とデンジを説得しようとする公安の対立が描かれるが、その後もっと別の思惑が蠢いていたことが明かされる。

　しかしデンジを中心に据えて整理すると、話の流れは意外とシンプルだ。元々デンジはポチタとの契約によって「普通の生活」を手に入れることを目指していたが、第一部が終わった時点でその夢は実現されることに。ナユタや飼い犬たちと一緒に、ささやかだが穏やかな暮らしを楽しんでいた。

　ところがその後デンジは、このまま平凡な日常を生きるか、ふたたびチェンソーマンになって戦いの日々に身を投じるのかという二択を迫られる。そして苦悩の末にチェンソーマンになることを選び、ナユタも失ってしまうのだった。

　満たされれば満たされるほど、“もっと先”を求めてしまうというのは、人間の欲望の根源的なあり方でもある。「普通の生活」で満足できなくなったデンジは、どこに向かうのか……。これが第二部の大きなテーマの一つと言えるだろう。

　そこで物語を大きく左右するのが、アサとヨルの存在だ。

戦争の悪魔が“力”を取り戻すことの意味

　物語が進むにつれて、アサとヨルはそれぞれデンジに好意を抱くようになる。しかしその方向性は、ほとんど真逆だ。というのもアサがデンジを救い、幸せにしてあげたいと願う一方、ヨルはデンジのかわいそうな姿を見ることに興奮を覚えている。

　なによりヨルの正体は戦争の悪魔であり、いわば“非日常”の象徴。デンジを「普通の生活」から逸脱させていくファム・ファタールのような存在として捉えることができる。

　また作中ではデンジの苦悩と平行して、人類の滅亡というスケールの大きな話も展開していく。そこでカギとなるのもヨルだ。

　戦争の悪魔は、人類が抱く戦争への恐怖心が高まるほどに力を増すのだが、作中では落下の悪魔によって多くの人々が犠牲になったり、街中で“チェンソーマンもどき”が大量発生して虐殺を巻き起こしたりと、加速度的に治安が悪化。もはや平穏な日常など、見る影もなくなっている。

　さらにコミックス22巻では、アメリカが核兵器によって他国を攻撃し始めるという展開も登場。かつてチェンソーマンが消した核兵器の概念が復活し、ヨルが大幅なパワーアップを遂げることになった。

　こうした展開には、波乱に満ちた現実の世界情勢を連想させる部分がある。あるいは、戦後80年というタイミングを意識した展開なのかもしれない。いずれにしろ、デンジの実存的な問題には収まらない人類規模の罪が主題になりつつあるように見える。

　なお、作中におけるノストラダムスの大予言では、死の悪魔によって人の時代が終焉を迎えることが示されているようだ。ここ最近の展開では、戦争の悪魔vs死の悪魔という構図が鮮明に浮かび上がっており、さらなる壮大な展開を予感させる。

　これまでにないスケールで物語が動いている『チェンソーマン』。9月19日には劇場版『チェンソーマン レゼ篇』が全国公開される予定なので、大きな話題を呼ぶことは間違いない。アニメ版と合わせて、原作の第二部にもぜひ注目してほしい。