2007年の初代iPhone登場以降、しばらくiPhoneは人々が発売日に有給休暇を取って大行列を作って買うものだった。出遅れた人はバックオーダーが届くのを待つことになり、先に手に入れた人たちだけが周囲から羨望(せんぼう)の眼差しを集めていた。
その年のiPhoneは、常に世界最先端の最も尖ったスマートフォンであり、圧倒的なオーラを放っていた。
●久々の圧倒的オーラを放つ製品
その後、iPhoneも標準モデルとProモデルに分化し、機能や性能のバランスを取りながら進化したり、ライバルのAndroid最新情勢も鑑みたりすることが増え、かつてのような熱狂は薄れていった。
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だが今回発表された「iPhone Air」には、熱狂の時代のiPhoneに似た圧倒的なオーラがある。
「iPhone Air」発表 厚み5.6mmで6.5型、バッテリー最大27時間 15万9800円から
iPhone Airの写真を見ても、十分に薄いことは伝わるだろう。しかし実物を手に持つと、その薄さや軽さが想像を超えていることに驚かされるはずだ。
手のひらに乗ったこの驚くほど薄い板の上で、高解像度グラフィックスを使った3Dアプリが動き、数年前のPCと変わらぬ性能で写真加工もできる――この直感に反する体験が、まさにAppleが好んでよく使う表現「魔法のような体験」となっている。
これまで最強のカメラを求めて、常に最上位のProモデルを買い続けてきた筆者やその友人も、前のProモデルをカメラとして使い続け、メインはiPhone Airに乗り換えようかと真剣に悩み始めている。
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こんなことを書くと、このレビュー記事そのものが台無しだが、写真や文章では、そのオーラの半分も伝わらないので、近くで体験できる場がある人は、ぜひその手で実物に触れ、そのすごさを感じ取ってほしい。
触れた瞬間に、これだけのオーラを持ったデジタル製品は久々だと共感してくれる人が多いはずだ。プロセッサの処理速度やカメラの画質など関係なく、モノとして心を揺さぶられる。
●魅力を生み出しているのは絶妙なバランスと妥協せぬ洗練
iPhone Airのサイズ感は、6.5型のディスプレイに数mmの額縁を加えただけの約74.7(幅)×156.2(奥行き)×5.64(厚さ)mm、重量は約165gだ。実はこれまでで最薄のスマートフォンでもなければ、最軽量のスマートフォンでもない。
軽いスマホなら、2024年登場の「Xperia 10 VI」が約164g(厚さは約8.3mm)だし、薄さなら最近話題となったSamsung Electronics(サムスン電子)の折りたたみスマホ「Galaxy Z Fold7」が開いた状態で約4.3mm(重量は約215g)だ。
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だがiPhone Airは、ただ軽いだけでもなければ、ただ薄いだけでもない。Appleは本体を軽くするならちゃんと驚くような薄さにするし、薄くするからには、しっかりと頑丈さにも気を配る。
実際、Appleは同製品をお尻のポケット入れたまま椅子に座っても壊れない頑丈な作りにすべく、耐荷重試験と設計変更を繰り返してこの製品を作っている。最も折れやすい縦方向中央付近に60kg近い圧力を加えても本体がしなりはするが、その後、きちんと元に戻り、大理石の上を画面を向けて滑らせると、真っ平らなままであることが確認できる。
もちろん、製品を見ただけでは伝わらない部分もある。表面は「Ceramic Shield 2」、裏面は「Ceramic Shield 」というガラスの質感や側面のグレード5チタンに触れたり、それらが隙間なく精密に組み合わされた造形を目にしたり、手に持った際もバランスの取れた重量配分やモノとしての密度を感じると、この製品がヤワな存在ではなく、表層では分からない裏側で膨大な試行錯誤を重ねて洗練されてきたモノだということが伝わってくる。
側面から見た状態が美しいのはもちろんだが、本体を手に構え少し斜めから見た時が最も薄さを感じる。プラトーと呼ばれる起伏部分が、どこから起伏し始めているのか分からない緩やかな曲線を描いて盛り上がっている様子も美しい。
しかし驚いたのは、この小さなプラトー部分に、以下で紹介する高い性能を支えるスペックの全て、スマホとしての頭脳と目の全てが収められていることだ。それ以外の薄い本体部分はほぼバッテリーで、だからこそこれだけ薄型ながらビデオ再生で連続27時間という長時間バッテリー動作を実現している。
薄型化に貢献したものは、もう1つある。従来のSIMカードを廃止し、電話機能の付与はeSIMで行っていることだ。ネットでは、このeSIMへの移行で情報を失うリスクなどを過剰に心配する声もあるが、不安な人はショップの人などに移行を手伝ってもらえばいい。
一度eSIMに移行すると、スマホに電話の契約情報を登録するためだけに、あの小さなカードを出し入れしていたことがばかばかしく思えてくる。プライベート用回線と仕事用回線の2回線を登録して使い分けることも簡単なら、海外出張時に安くデータ通信が可能な現地のeSIMを登録するのも、QRコードをスキャンして情報を入力するだけで簡単に行える。
●標準モデル以上、Proモデル未満の絶妙な仕様バランス
妥協をしていないのは、モノとしての特性だけではない。スマートフォンの顔であるディスプレイや、目であるカメラ性能、そして頭脳であるコンピュータとしての処理性能においてもプロ用機材としての超高性能まではいかないものの、これだけ薄型ながら標準モデルであるiPhone 17を上回る高いスペックを備えるよう、提供するスペックのバランスを注意深く調整している。
ディスプレイは6.5型で、ちょうどiPhone 17/iPhone 17 Proの6.3型と17 Pro Maxの6.9型の中間のサイズになっている。
省電力モード時や充電中も画面に、さまざまな情報を表示し続ける常時点灯型ディスプレイ仕様になっており、毎秒120回の画面書き換えが行われる「ProMotionテクノロジー」に対応している。アウトドアでも十分見やすい3000ニトの輝度を持ち、パネルの反射は33%低減、アウトドアで見てもコントラスト比が従来のApple製品の2倍と、iPhone 17および同Proと同等のものになっている。
搭載するメインプロセッサは、iPhone 17の「A19」よりランクが上でiPhone 17 Proと同じ最新の「A19 Pro」となり、AI関連の処理にも用いられることが多いGPU部分がこれまでのプロセッサよりも3倍も速い(ただし、プロ用機材ではないのでコア数は5個と、iPhone 17 Proよりも1個少ない)。
カメラの性能もProモデルと同じで約4800万画素の26mm(f値は1.6)、センサーシフト光学式手ブレ補正のFusionカメラを内蔵している。一方で、iPhone 17 ProのようなApple Pro RAW形式での撮影には対応していない。
Fusionカメラというのは、1本のレンズで複数のレンズの役割を果たすカメラのことで、標準撮影では上記の26mmの画角で約4800万画素で撮影する。そのうち1200万画素相当が光量の記録に最適化されたセンサーなので、これをうまく活用して目で見て感じているイメージに近い広いダイナミックレンジ(明暗差)の約2400万画素の写真として瞬時に仕上げてくれる(約4800万画素の写真も撮ることができる)。
また撮影時に「1」倍と書かれた部分をタップして1.1倍ズームの28mmレンズ相当や、1.4倍ズームの35mmレンズ相当のより被写体に迫った約2400万画素写真も撮ることができる。さらにセンサー中央の約1200万画素を使って、より人の目で見える感じに近い2倍ズームの52mm相当での撮影も行える。
●きれいな写真に仕上げることより、きれいに取り込むことに注力したカメラ
最近のスマートフォンのカメラで撮る写真は、AI処理によってかなりきれいになってきたが、AI処理によって肌がツルツルに塗りつぶされていたり、鮮やかな色が強調されていたり、場合によっては画素と画素の狭間で記録できなかった部分をAIが勝手に合成して作ってしまったりするものもある。
しかしiPhoneの写真は、できるだけレンズが捉えた像を忠実に再現することを目指しており、レンズなどのデジタルではないアナログな部分の光学設計の高品質化に力を入れている。
肌をツルツルにしたり、輪郭の粗い引き伸ばし写真をきれいに加工し直したりするといった写真加工は標準のカメラでやってしまうのではなく、別のアプリを使ってやってもらおうというのが基本スタンスで、それよりはそもそもの光学的に得られる情報を少しでも質が高くなるように力を入れている。
基本の設定で撮る分には、他のスマホで撮影した写真と比べて色味も正直でディテールも丁寧に再現されている印象を持った。
ただし、全くトレードオフがないわけではない。これだけ薄く軽く作ってあることもあり、搭載しているレンズは1つだけでProシリーズが備える望遠レンズはもちろん、iPhoneが真っ先に採用し、最近では多くのスマートフォンでスタンダードとなったものすごく近くからものすごく広い範囲を撮影できる超広角レンズの0.5倍ズーム撮影もできない。
iPhone Airの道を選ぶのであれば、あえてズームができない単焦点カメラを選ぶ潔さで、そこはきっぱり諦めてもらう必要がある。
●ウェアラブルとして着こなせるスマートフォン
とにかく、これだけ薄型でありながら、ほとんど妥協のないほぼPro仕様レベルのiPhoneとして使えてしまうことがiPhone Airの魅力だが、実はこれに加えてもう1つ、iPhone AirにはこれまでのiPhoneになかった魅力がある。
それはウェアラブルとして着こなせるスマートフォンとしての魅力だ。Appleのデザインチームは、今回このiPhone Airを人々が日常生活でどのように使うかを想像しながら、本体と同時にアクセサリーの開発を進めていた。
せっかくの本体の薄さを損なわない「MagSafe対応iPhone Airケース」もその1つで、ノギスを使ってその薄さを測ってみたところ、何と0.97mmだった。
だが、それ以上に魅力的なのが、本体色と合わせたカラーバリエーションが用意された「iPhone Airバンパー」だ。厚さは実測で8.9mmと、本体側面を守るケースだが本体との密着感が高く、装着するとまるで最初からそのような形の製品だった印象すら与える。
この両ケースにも増して素晴らしいのが「クロスボディストラップ」と呼ばれるストラップだ。
今、特に女性のiPhoneユーザーの中には、長いストラップを付けたポーチやケースでiPhoneを肩から斜めがけして使っている人が多いが、本体と同時にデザインを始めたApple純正の斜めがけストラップが登場した形だ。
ストラップだけで9980円と高価だが、実は長さ調整で二重になる部分がバラバラにならないように繊維が磁性を帯びていてピッタリくっ付くようになっており、長さ調整の金具やボタン、ケースに繋ぎ止める糸の取り付け部分に至るまで美しく作られている。
実際に使ってみるとこれが快適で、そもそも最初からこういう製品だったのではないかと思えてくる。
スペースブラック/クラウドホワイト/ライトゴールド/スカイブルーの4つのカラーバリエーションどれもが美しく、黒モデルでは他のカラーバリエーションとは異なる黒いプラトーを楽しむことができるが、その中でも新色のスカイブルーの美しさが際立っているように感じる。
iPhone Airはスペックで選ぶスマートフォンではなく、潔くそぎ落としながら楽しむスタイル/姿勢で選ぶiPhoneだ。自分に合いそうだと思う人は、まずは近くの販売店で実機に触れてみてほしいと思う。
撮影協力:kudan house(関連記事はこちら)
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