
立教大・小畠一心インタビュー(前編)
たとえその日の調子が悪かろうともゲームをつくり、チームを勝利に導く。それがエースの責務だ。立大の小畠一心(おばた・いっしん)(4年)は、今秋のラストシーズンに向け、真のエースとなるその一心で、長い夏を乗り越えてきた。
【勝ち点を獲れないのは僕の責任】
今春、チームは8勝5敗で勝ち点3の3位。優勝した早大、2位の明大に及ばなかったが、2017年春以来の優勝にあと一歩のところまで迫った。
たが、小畠本人は納得していない。8試合に登板して2勝2敗、防御率3.13。勝ち星に関しては、東大を除く五大学のエースのなかで最も少なかった。
「1戦目と3戦目をまかせてもらっている身としては、勝ち点を獲れないというところは僕の責任だということを強く感じています。そこを投げさせてもらっているからには勝ちたいし、勝たなければいけないと思っています」
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東京六大学は6校による総当たり戦。同じ対戦で2勝先取したチームに勝ち点1が与えられ、その数で順位が決まる。エースは、カードの流れを左右する1戦目、そして勝ち点奪取がかかる3戦目をまかされることが多く、好不調がチームの浮沈に大きく影響する。
小畠は、2024年の3年春に先発の1番手に定着し、3勝(3敗)、防御率1.52と好成績を収めている。この要因については「後先考えずに投げられていたというのが一番よかった」と分析する。
「今はやっぱり1戦目に投げたあとの3戦目のことを計算してしまいます。2日後のことを考えてしまうことが多いのが、よくなかったのだと思います」
無理もない。とにかく立大の試合はもつれる。昨春からの3シーズン、計15カードを戦い、2戦で終わったのは東大戦と今春の法大戦の4カードのみ。昨年は2季連続で15試合を戦った。エースとして3戦目を意識するのは当然のことだろう。
「やはり疲れは取れません。どの大学のエースに聞いても、やっぱりしんどいと言っています。ただ、根性論になりますが、そのしんどいなかで抑えていかないといけないというのはあります。立教の直近では、澤田圭佑さん(ロッテ)はずっと投げていたという印象があるので、本当にすごいなと思います」
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澤田は2013〜2016年の8シーズンで通算69試合、366回1/3を投げ22勝(16敗)を挙げたが、小畠は4年春までの7シーズンで通算38試合、168回を投げ6勝(9敗)止まりと、成績は遠く及ばない。それでもより長くマウンドに立ち続けるため、効率よく力強い球を投げることができるフォームを追求していった。
【コンクリートの上で投げている感じ】
智弁学園(奈良)時代はワインドアップだったが「時間がかかるし、リズムが悪くなる」とセットポジションに変更。一段モーションから二段モーションにしたのも、「打者の手元で強い球を投げる」ための策だ。
「大学に入って体重も7キロぐらい増えたので、フォームも高校時代と比べ大きく変わったと思います。二段モーションでも、止まらないことを意識していて、そのなかでも重心の移動がうまくできるようになりました。もともとその場で投げているイメージで、歩幅も6歩ちょっとだったのですが、大学では重心の移動がよくなったことで、いい時は7歩ほどいきますし、リリースの叩く感じもすごくよくなりました。打者の手元での強さを意識したら、自然とそういうフォームになっていきました」
ただ、歩幅が増えるということは、それだけ下半身にも負荷がかかる。ましてや、硬いマウンドではなおのことだ。プロとアマが併用する神宮は、大学野球をやったあとでもマウンドが荒れないよう、粘土の割合を多くし、他球場と比べてガチガチに仕上げている。小畠も2年春のリーグ戦デビュー時から対応に苦労している。
「本当に硬いですね。コンクリートの上で投げている感じです。軸足の右親指が擦れて、試合の後半はいつも血だらけで投げています(笑)。塗りP(スパイクに直接塗るタイプのP革)も1試合ごとに塗り変えていて、スパイクも1シーズンでダメになります。高校の時は上半身で投げていたので背中が張っていたのですが、大学では下半身が信じられないぐらい張ります」
【マウンドの足跡に見たプロのすごさ】
今夏、プロとのオープン戦で、楽天の早川隆久、ロッテの唐川侑己といった、プロの一線級で活躍を続ける投手と投げ合う機会に恵まれた。驚いたのは、自身の足跡をゆうに一足超えていく歩幅だ。
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「早川さんも唐川さんもめちゃくちゃ広かったですね。その差はなんだろうって思いながらずっと投げていました。柔らかさということがパッと浮かんだんですけど、そんな簡単なものじゃないんですよ。柔らかさのなかにも、強さとか軸足の蹴り方、角度とかもあると思いますし、すべてに差を感じました」
一流のすごさを足元から感じとることができたのは、大きな収穫だった。最後のリーグ戦を間近に控えてもなお、「僕なんかまだまだ調整できる存在じゃない」と実感。短距離ダッシュやポール間走で自身を極限まで追い込んでいる。
「ランニングは質より量だと思っています。必要以上に走れるだけ走っています。投球のリズムが出るのはランニングだと僕は思っているので、トレーニングももちろん大事ですが、そういうところをおろそかにしてはダメだと思っています」
量より質を求めがちな「Z世代」の若者において、どこか昭和の薫りがする右腕の原点は、高校時代の3年間にあった。
つづく>>