NTTドコモは、住信SBIネット銀行を10月1日から連結子会社化し、金融事業への本格的な進出を果たす。これに伴い、住信SBIネット銀行は新たなサービスブランドを「d NEOBANK」に決定した。
通信業界の巨人が銀行をグループ内に取り込むことで、約1億の会員基盤を誇る「dポイントクラブ」や決済サービスの「d払い」といった既存サービスと銀行機能を融合させ、顧客の利便性を飛躍的に高める狙いだ。通信と金融の垣根を越えた巨大な経済圏の構築が加速し、業界の競争環境は新たな局面を迎えることになりそうだ。
●新ブランド「d NEOBANK」始動、ドコモ経済圏の中核へ
今回の発表の核心は、ドコモの広範な顧客基盤と住信SBIネット銀行が培ってきた先進的な金融ノウハウの融合にある。住信SBIネット銀行は、最先端のテクノロジーを駆使して銀行機能をあらゆるサービスに溶け込ませる「NEOBANK」構想を推進してきた。
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新ブランドであるd NEOBANKは、この思想を受け継ぎつつ、ドコモグループの銀行としてさらなる成長を目指す意志を込めて、ドコモの象徴である「d」を冠した。住信SBIネット銀行がこれまで個人および法人顧客に提供してきた各種サービスは、この新しいブランド名のもとで継続され、サービス内容自体に変更はない。
利用者はこれまで通りのサービスを利用しながら、今後はドコモの各種サービスとの連携による、より多くのメリットを享受できるようになる。新しいロゴやアプリアイコンは10月1日から、個人向けサービスサイトやアプリで順次使用が開始され、法人向けサービスについても追って変更が適用される予定だ。
●ポイント還元を強化、グループ内銀行の強みを生かす
ドコモの前田氏はITmedia Mobileが6月に実施したインタビュー取材に対し、銀行をグループ内に持つことの意義を強調していた。まず基本的な連携として、d NEOBANKの口座を開設し、通信料金や「dカード」の引き落とし先に設定することで、dポイントの還元といった直接的なメリットを提供することが想定されている。
これまで他行に支払っていた決済手数料を、グループ内で吸収し、その分を顧客へのポイント還元という形で還元できるようになる点は、自社経済圏を持つ企業ならではの大きな強みとなる。前田氏は「組み合わせで使っていただくことで、どんどんお得になっていくサービスを提供していきたい」と語り、利用者のメリットを最大化する考えを示していた。
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ドコモはこれまでも、決済、証券、ローンといった金融サービスを個別に展開してきたが、それらを統合し、利用者にシームレスな体験を提供するには、中核となる「銀行機能の未提供」が課題となっていた。今回のグループ化により、この長年の課題が解決され、各種金融サービスをワンストップで提供できる基盤が整うことになる。
●通信と金融データ融合で「パーソナルな提案」実現へ
「融資」の分野も期待される機能だ。住信SBIネット銀行が強みを持つ住宅ローンなどをドコモのサービスと連携させることで、大きな相乗効果が見込まれる。さらに、ドコモが決済やポイント利用を通じて蓄積してきた顧客の消費行動に関する膨大なデータと、銀行が持つ入出金などの金融データが組み合わせ、「個々の顧客のライフステージやライフスタイルに合わせた、よりパーソナルな金融商品の提案が可能になる」(前田氏)という。
●最大30万ポイント還元、大規模キャンペーンで顧客獲得を狙う
新ブランドの門出を祝し、住信SBIネット銀行は10月1日から3つの大規模なキャンペーンを開始する。
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1つ目の「dポイントどーんともらえる口座開設キャンペーン」では、期間中に対象支店の口座を開設し、ドコモサービスの契約など所定の条件を満たした先着15万人に、最大で1万5000ポイントのdポイント(期間・用途限定)を進呈する。
2つ目の「dポイントざくざく!住宅ローンキャンペーン」では、住宅ローンを新規で借り入れた顧客全員に1000ポイントを進呈するほか、ドコモの特定サービスを契約することで、借入額に応じて合計最大30万ポイントを進呈するという、高額利用者を強く意識した内容となっている。
さらに3つ目の「法人さま向け振込手数料無料キャンペーン」では、新たに口座振替を登録した法人口座の振込手数料を最大100回分無料とし、個人だけでなく法人顧客の取り込みも積極的に進める構えだ。
●「全国に広がるドコモショップ網」、金融サービスの展開において重要
新たな金融サービスの展開において、ドコモが重視しているのが「全国に広がるドコモショップ網」だ。これが重要な役割を担うことになる。コロナ禍以降、店舗数の見直しを進めていたドコモだが、ショップでも口座勧誘などの施策を進める。
「今の競争環境を考えると、ショップを減らしていいとは思っていない」(前田氏)と述べ、通信だけでなく金融サービスをはじめとする多様なサービスを顧客に届けるための重要な接点として、ドコモショップや量販店といったチャネルを今後さらに充実させていく方針を示していた。
顧客との対面でのコミュニケーションを通じて、デジタルに不慣れな層にも丁寧に金融サービスを案内し、口座開設を促進していく考えだ。具体的なサービス連携の開発には時間を要するため、デジタル上での本格的なサービス開始は2026年度以降になる見通しだが、店頭での口座開設の勧奨は速やかに進められる。
●通信と金融の融合で先を越されたドコモ、今後はどう戦っていくのか?
ドコモによる住信SBIネット銀行の子会社化は、通信と金融の融合が新たな段階に入ったことを象徴する出来事だ。KDDIはauじぶん銀行、ソフトバンクはPayPay銀行を持ち、自社グループの決済サービスと連携させている一方で、ドコモはこうした取り組みに出遅れていた。ドコモもついに銀行機能を自社グループ内に取り込み、本格的な金融経済圏の構築へとかじを切った。
今後は、共同経営パートナーである三井住友信託銀行とも連携し、盤石な体制で事業を推進していく。通信インフラを基盤とした巨大な顧客データと、生活に不可欠な金融サービスが結びつくことで、消費者の生活はより便利になる一方、業界内の競争は一層激しさを増すことが予想される。ドコモの挑戦が、日本の金融サービスと経済圏の未来にどのような変革をもたらすのか、その動向から目が離せない。
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