限定公開( 9 )
9月16日発売の『週刊少年ジャンプ』42号(集英社)で、ヤマノエイによる新連載『さむわんへるつ』がスタートした。学園を舞台としたラブコメディではあるものの、同誌では異色の内容となっており、大きな注目を浴びている。
主人公の梟森未明は、文武両道で生徒会長としても人望を集めている高校2年生。まじめで負けず嫌いな性格から、どんなことも努力で成し遂げてきたという。しかしそんな彼が唯一苦戦しているのが、“面白いこと”だった。人気芸人がパーソナリティを務める深夜ラジオ「月曜ミッドナイトトーキング」に大喜利を送り続けているが、一度も採用されたことがないのだ。
そんな未明がよく学校で話しているのが、同じラジオ番組を聴いているクラスメイトの女子・水尾海月。しかし実は彼女こそが、ネタ採用率トップクラスのハガキ職人「うなぎポテト」だった。ここから2人の不思議な関係が始まっていく。
同作は「お笑い」が作品の軸となっているため、作中にはコメディ要素がふんだんに散りばめられているのが特徴。未明と海月の掛け合いは軽妙で漫才のようだ。ラジオ番組内では「ギャルの引越し業者 どんなの?」などの大喜利が開催され、その回答も抜かりなくウィットに富んでいる。
なお『ジャンプ』のお笑いマンガといえば『あかね噺』や『べしゃり暮らし』があるが、方や「落語」、方や「漫才師」をテーマとした正統派のお笑いを扱っていた。それに対して『さむわんへるつ』は“深夜ラジオのハガキ職人”というサブカル的な題材で、適度にゆるいお笑いなので、斬新な読み心地となっている。
|
|
さらに、ヒロインの造形も『ジャンプ』のラブコメ作品としては珍しい。海月はいわゆる“ジト目”キャラで、感情が読み取りにくい脱力系の女子という印象。性格も見た目もサブカル感があり、王道ヒロインとはかけ離れている。とはいえポーカーフェイスと見せかけて時折素直な感情を覗かせるギャップは破壊力抜群で、早くも心を掴まれる読者が続出しているようだ。
今の『ジャンプ』は、恋愛系のマンガが長らく下火の状態だと言われてきた。だがこのところ、一気に“ラブコメ戦国時代”が到来しつつあるようにも見える。
バスケ部エースの先輩とバドミントン部の後輩による青春ラブストーリー『アオのハコ』は、累計発行部数850万部を突破し、2024年にはTVアニメ化。家事代行の男子高校生と女子高生社長の恋を描く『ひまてん!』も、すでに60話近く掲載されている。
また『SKET DANCE』の篠原健太が手掛ける『ウィッチウォッチ』は、4月からアニメが放送され、コミックスは400万部越え。同作は基本的にはギャグマンガだが、ラブコメ要素が濃厚に含まれている作品だ。
さらに初期にはバトルマンガという印象が強かった『鵺の陰陽師』は、途中からラブコメもしくは“ギャルゲー”的な要素がどんどん強まっている。同じく『しのびごと』も、バトルマンガとラブコメが融合した展開で人気を博している印象だ。
|
|
そんな現在の『ジャンプ』でラブコメとして生きるのは、かなり難易度が高いはず。直近1年では、『ぼくたちは勉強ができない』の作者・筒井大志による推理ラブコメ『シド・クラフトの最終推理』が28話で終了を迎えていた。
おそらく生き残りのカギとなるのは、どれだけ他の作品と差異化できるかということ。トップクラスの人気を誇る『アオのハコ』は一見王道の設定に見えるものの、少女マンガに近い心理描写の繊細さや、さわやかなスポーツ描写など、あまり『ジャンプ』的ではない恋愛ものだ。実際に作者の三浦糀は、元々『週刊少年マガジン』(講談社)で活躍していた漫画家だった。
そう考えると、異色の設定でサブカル要素を強く打ち出している『さむわんへるつ』には勝機があるのかもしれない。『ジャンプ』の王道ラブコメとは一味違った魅力を放つ同作が、どれだけ多くの読者を引き付けられるのか注目したい。
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 realsound.jp 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。