なぜ公文書に「虚偽記載」 大川原化工機冤罪、ゆがんだ警視庁の実験

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2025年09月28日 08:01  毎日新聞

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温度実験で使われた噴霧乾燥器=実験に協力したサプリメント製造会社で2024年1月10日午後3時45分、遠藤浩二撮影

 化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の冤罪(えんざい)事件で、警視庁公安部の当時の捜査員2人に対する不起訴処分(容疑不十分)を「不当」とした東京第6検察審査会の議決は、公安部の実験内容と異なる二つのうそが意図的に公文書に記載されたと認定した。うち一つについては「積極的な虚偽記載。捜査員の供述は信用できない」と厳しく批判している。公安部はなぜ「虚偽記載」と認定された捜査報告書を作る必要があったのか。


 公安部の実験に協力した民間企業代表らが毎日新聞の取材に応じ、ゆがんだ実験の実態を語った。


 問題となった温度実験は2019年5月、関東地方のサプリメント製造会社で実施された。この会社は製品開発のために大川原化工機の噴霧乾燥器を10年ほど前から利用。公安部に依頼され保有する装置を貸し出し、代表が実験に立ち会った。


 噴霧乾燥器は霧状の液体に付属のヒーターで熱風を当てて粉製品を作る機械。公安部は「装置を空だきし、装置内部で110度を2時間維持できれば細菌は死滅する」という独自の基準を作り実験に臨んだ。


 条件を満たさない箇所があれば、殺菌はできないことになり、経済産業省から輸出規制品には該当しないと判断される状況だった。


 公安部は、最も温度が低くなると予想した3カ所にボタン型の温度計を取り付けた。しかし、「回収容器」と呼ばれる粉製品がたまる場所の温度は、大半が80度台で推移し、条件をクリアできなかった。


 検察審が意図的なデータ削除と認定したのは回収容器の温度データだ。公安部は立件条件を満たした他の2カ所のデータは報告書に記載して経産省に提出。社長らを外為法違反で逮捕する根拠の一つに利用した。


 回収容器は取り外しが可能なことから、複数の捜査員が装置の「内部」ではなく「外部」に当たるとし、データを載せる必要はなかったと主張した。


 しかし、検察審は、実験方針のメモにそうした記載がないことなどから「(外部とする主張は)後付けの疑いが拭えない」と退けた。


「不利なデータもみ消しが真相」


 公安部はあらかじめ準備した3カ所とは別に、当日にサプリ製造会社から温度計を借りて回収容器の底の温度も測っていた。報告書には代表が「機械内部の温度状況を独自に把握したい」と自ら申し出たと記載されているが、検察審はこの記載も虚偽と認定した。


 代表は毎日新聞の取材に「善意で実験に協力したのに、私の話はねじ曲げられた。検察審が虚偽記載と認定してくれたことに感謝している」と話した。


 また、当時を知る捜査関係者は「立件するためには、温度が上がらない回収容器を外部にしないといけなかった。不利な実験データをもみ消したのが真相だ」と振り返った。


 事件では公安部に逮捕された大川原化工機元顧問、相嶋静夫さん(享年72)が勾留中に胃がんがみつかり、満足な治療を受けられずに亡くなった。代表は「正しい報告書が経産省に提出されていたら、相嶋さんは命を失うことはなかったのではないか」と悔やんだ。


 公安部と東京地検の捜査を違法と認定した国家賠償訴訟の1、2審判決や、警視庁が8月に公表した検証報告書は温度実験のデータ削除の問題には触れていない。「未解明の疑惑」として大川原化工機側は東京地検に起訴するよう強く要求していく方針だ。【遠藤浩二】



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  • ちゃんと刑事責任追求してよね。大阪地検特捜部並みに証拠捏造してでもね。ウソ。
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