最上位スマホ「HUAWEI Pura 80 Ultra」レビュー 驚異のカメラ性能、制裁回避の技術で“中国メーカーの意地”を見た

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2025年09月29日 10:31  ITmedia Mobile

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カメラ部は特徴的な三角形を描く。後述する望遠カメラの口が2つ空いている点が興味深い

 Galaxy、Pixel、iPhone、Xiaomiといった新型スマートフォンが沸き立つ中、中国ではHuaweiのフラグシップスマートフォン「Pura 80」シリーズが話題だ。今回、筆者は最上位モデル「HUAWEI Pura 80 Ultra」の実機を入手したので、レビューしていく。


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 なお、日本では電波法第103条の6の解釈のもと「海外で開通した携帯電話」を持ち込んで確認を行った。


●制裁下でも今期トップクラスのカメラ性能 望遠カメラは3.7倍と9.4倍でズーム切り替え


 最初にカメラ性能から見ていこう。HUAWEI Pura 80 Ultraは高いカメラ性能を備えており、メインカメラに5000万画素の1型センサーを採用。特許取得済みの可変絞り機構も備えている。センサーはソニー製ではなく、今回は中国メーカーが製造したことが明かされている。なお、Pura 70 Ultraで話題となったカメラ使用時にレンズ部が飛び出す機構は廃止された。


 これに加えて4000万画素の超広角カメラ、5000万画素の1/1.28型という大型センサーを採用した3.7倍望遠カメラに加え、正確な色を識別するスペクトルカメラが搭載されている。


 望遠カメラのレンズは3.7倍の状態でF2.4と明るく、最短撮影距離は約30センチと比較的寄れる。1/1.28型という望遠カメラとしてはかなり大型のセンサーを採用し、デジタルズーム込みで最大100倍の望遠域をサポートする。


 さらに、特徴的な新機構が望遠カメラに採用されている。Pura 80 Ultraはペリスコープ方式ながらメカ機構でレンズを変更し、物理的に焦点距離を変えることができる。


 本機種ではズーム倍率が3.7倍と9.4倍で、被写体との距離に応じてレンズが物理的に切り替わる。切り替え時はメカ機構が動作するので、カチッという音と共にミラーショック(一眼レフカメラ内のミラーが撮影時に跳ね上がることで発生する振動)のような大きめの振動がある。


 仕組みとしては光学望遠のように思えるが、9.4倍撮影時はスマホ本体の物理的制約の関係から、望遠カメラのセンサーをクロップして使うことになる。そのため、厳密には光学望遠とは言い切れない部分があり、9.4倍でレンズが切り替わった際は1250万画素での撮影となる。


 5000万画素撮影モードをはじめ、一部機能は利用できなくなるものの、基本性能の高いイメージセンサーをクロップして使用すること、物理的なレンズ構成を採用したことで、Huaweiは先代のPura 70 Ultraよりもきれいに撮影できると訴求している。


 また、独自の画像処理技術となるHuawei image XMAGEも引き続き採用。ライカとの提携が終了したHuaweiにおいて、技術革新、撮影体験の革新を目的に新たな画像処理技術のブランディングとして展開される。


●中国製造のKirin 9020を搭載して制裁を回避 5Gは“対応の可能性が高い”


 ここからはスマートフォンの基本的な部分を見ていこう。システム情報を表示するアプリで確認したところ、Pura 80 Ultraに採用されているプロセッサはHiSilicon Kirin 9020であることが判明している。中国の半導体ファウンダリーであるSMICにて製造されており、製造プロセスは7nmと判明している。


 プロセッサのコア数は1+3+4の8コアだが、プライムコアとビッグコアの4コアが1コア2スレッドを担える仕様と判明している。また、アーキテクチャはARMではあるものの、CPUはARMのCortexコアではなく、全コアが独自設計のものに改められている。


 このような書き方をする理由として、メーカーの公式サイトにはプロセッサの記載が一切ない。加えて、プロセッサに関しては発表会でもほとんど触れることなく発売されたため、購入者が調査する必要がある。


 Kirin 9020の基本性能は2年前のハイエンドスマートフォンに匹敵する。グラフィックスに関してはアップデートされた「Maleoon 920」の採用が判明している。


 スマホとして使ってみても、上記のような性能と後述するHarmonyOS NEXTに最適化されているだけあって、動作にストレスは感じない。メモリは16GBと8GBが多かったHuaweiとしては大容量の構成となっている。


 そして、今回のPura 80 Ultraを試した限りでは「5G通信に対応している可能性が極めて高い」と予測する。既知の通り、米国のHuaweiに対する制裁は今もなお続いており、5G対応機器や最新プロセッサの調達には大きな制限がかかっている。Pura 80 Ultraはそれを自国製造という力業で米国の制裁を回避した形と考えられる。


 5G対応について曖昧な記述としている理由は、Huaweiも公式にはPura 80シリーズが「5G通信対応」とは明記していないからだ。今回も中国向けのメーカーサイトには5Gどころか4Gの対応周波数バンドの記載すら一切ない。


 この機種の場合、アンテナピクトは4Gまでは示すものの、5Gの電波を受信している可能性がある場合は「アンテナピクトに4Gなどの表記がなくなる」ものになる。もちろん、端末側にネットワークの優先受信設定などはない。


 筆者も実際に試してみたところ、日本の通信網でも910Mbpsの実測値を記録した。瞬時値では1Gbpsを超える値を計測するなど、一般に4Gの理論値といわれる1Gbpsに迫る値を複数回計測した。また、本機種は中国向けの5.5G(5G-Advanced)に対応している可能性が極めて高く、通信周りもアップデートされていることが判明している。


 日本未発売の海外端末かつ、日本の4Gキャリアアグリゲーションへの対応や最適化も不十分なことを踏まえると、この数字は4Gスマートフォンとしては考えにくい。実測で1Gbpsに迫る高速通信が可能なことから、今回のPura 80 UltraもPura 70 Ultra同様に5G対応の可能性が高いといえる。


●基本スペックをチェック 衛星通話にも対応


 スマートフォンの基本スペックも確認していこう。


 ディスプレイは6.8型、120Hzのリフレッシュレートに対応している。画面ベゼルは上下左右面均等に配置されている。ディスプレイの輝度も向上しており、手動でも比較的明るいiPhone 16 Proや Galaxy S25 Ultraに匹敵する輝度を出せる。


 今回選んだPura 80 Ultraのブラックは、Huaweiの上位機種らしい上質な仕上がりとなっている。このような背面パネルはP40 Pro+などで採用されていたが、近年の機種には少ない。


 Pura 80 Ultraではバッテリー容量も5500mAhへ増加しており、他社製品と比較しても遜色のない仕様となった。この他に100Wの急速充電に対応し、ワイヤレスでも80Wの急速充電が行える。


 従来に引き続き衛星ネットワークにも対応。「天通」による衛星通話も可能な他、北斗と天通の電波を同時に利用することができる。このため、通話しながらのメッセージ送信に加え、Huaweiのコミュニケーションアプリ「MeeTime」では短時間の動画も送信が可能。今のHuaweiのスマートフォンはある種の衛星携帯電話といえる。


 OSはHarmonyOS を採用。同社が提唱する「シームレスな接続」を売りにしており、対応している家電や自動車等との連携機能がより強化されている。いわゆるHarmonyOS NEXTとなるため、本機種はAndroid OSではなくなったわけだが、この部分については後述する。


●日本で使うには独自OSのHarmonyOS NEXTが大きな障壁か


 Pura 80 Ultraは米国制裁の関係からAndroid OSと決別し、独自OSのHarmonyOS NEXTを採用している。従来のAndroidベースのHarmonyOSとは全く異なり、Android向けのアプリのインストールはもちろん、adbコマンドも受け付けない「全く別環境のスマホ」になっている。


 その影響か、表示言語に日本語は存在せず、英語と中国語のみとなる。加えて日本語入力環境も不十分で、この6月に入ってようやくソフトウェアキーボードで最低限の文字入力ができるようになった。それでも極めて使いにくいことには変わらない。


 日本語による音声入力はβ版のときから可能だったが、こちらは中国人観光客が訪日した際に、音声でコミュニケーションを取るための機能で、日本人向けの機能ではない。


 各種アプリケーションが中国向けに最適化されており、公式のアプリストア「App Gallery」に日本向けのアプリがないことも、中国以外での使いにくさを加速させている。


 独自OSとなったHarmonyOS NEXTだが、意外にもAndroid向けのアプリを動かせる仕組みも用意されている。アプリ不足解消に加え、中国から海外へ渡航する際に不便なく使えるよう配慮されている。


 Androidアプリを動かす仕組みとして、プリインストールされている「安易卓」とGoogleサービスを一部利用できる「出境易」というアプリが用意されている。


 これらを組み合わせることで、Google Chrome、Gmail、Google MapsなどのGoogleアプリに加え、FacebookやX、LINEといったSNS、PayPayなどの決済サービスも利用できた。ゲームに関しても原神や崩壊スターレイルなどに加え、学園アイドルマスターといった日本IPのコンテンツも問題なく動作する。出境易が入っていればGoogle Play経由のアプリ内課金まで難なく行えた。


 この仕組みのおかげで、HarmonyOS NEXTのスマートフォンを日本でも全く利用できないわけではないのだが、われわれが普段から利用するiPhoneやAndroidスマホに比べると使い勝手は大きく劣る。購入を考える場合は「日常的には使えないもの」「2台目前提のスマホ」と考えた方がいいだろう。


●ハードウェア、ソフトウェア共に高度に内製化 「技術のHuawei」は健在


 Pura 80 Ultraを使って驚いたのは、Huaweiが制裁を受けてもなお、ここまで高いレベル製品を出せること。特にカメラは、Xiaomi 15 UltraやOPPO Find X8 Ultraといった競合の同世代機と比べても、全く引けを取らない高い性能を示している。カメラハードウェア、ソフトウェア含めた「技術のHuawei」をまざまざと見せつけられた。


 基本性能もプロセッサの進化、HarmonyOS NEXTへの完全移行で不自由ないくらいまで高められており、ベンチマークスコアなどからもP60シリーズなどに迫る高性能を見せつけている。制裁下でも高性能なスマートフォンを出し続けられることに驚きを隠せない。もはや何かの魔法でも使っているのではないかと思わせるレベルだ。


 そんなPura 80 Ultraの存在は晴れて「復活のHuawei」から次のフェーズに移った製品と評価したい。Mate 60シリーズは「制裁を回避した商品」、Pura70シリーズは「グローバル展開」という意味での復活だったが、Pura 80 Ultraは技術的にも、グローバル展開でも中国メーカーとしての意地を感じられる製品でもある。


 特に部品やソフトウェアの内製化がさらに進んでおり、SoCには全て独自設計のコアを採用し、中国SMICにて製造されている。メモリやストレージなどの核となる半導体部品も中国メーカーが担当した。


 これに加えてディスプレイや1型のイメージセンサーも中国メーカーが担当していることが明かされており、複雑な望遠カメラのメカ機構、可変絞り機構なども内製されている。Pura 70シリーズよりも部品の内製化率をさらに高めている。


 HarmonyOS NEXTを採用したことで、Android OSからも決別し、根幹的なソフトウェアの内製化まで達成した。まさにHuaweiの意地と中国内のサプライヤーが持つ技術の結晶として世に送り出したスマートフォンなのだ。


 Pura 80シリーズは、中国以外でも欧州や中東、東南アジアをはじめとした20を超える国と地域で販売され、中東やアジアパシフィック地域では発表会も行われた。これは自国製プロセッサやイメージセンサーをはじめとした半導体を安定供給できることを示す。


 一方で、グローバル版は中国大陸向けとは一部仕様が異なる状態で発売される。OSはHarmonyOS NEXTではなく、EMUI 15.0に変更され、5G通信や衛星通信機能などにも対応しない。Mate X6と同じであれば、グローバル向けはAndroidベースのHarmonyOS が採用されているため、日本語での表示やAndroid向けアプリの動作が可能だ。


 Pura 80シリーズの価格は中国向けでPura 80が4699元(約9万7000円)から、Pura 80 Proが6499元(約13万4000円)、Pura 80 Pro+が7999元(約16万5000円)から、今回レビューした最上位のPura 80 Ultraは9999元(約20万6000円)からの設定となる。


 Huaweiのスマートフォンは他の中国メーカーの製品と比較すると全体的に高価だが、中国向けのiPhone 16 Pro Maxが9999元。Galaxy S25 Ultraが9699元(いずれも256GB)であることを考えると、最上位のPura 80 Ultra(512GB)の価格も特別高価ではないことが分かる。


 中国メーカーの製品は品質や性能で劣ると指摘され続けたが、このスマホを見せつけられると、他国の高品質な製品に真っ向勝負できるところまで進化したと実感する。今回はハードウェアだけでなく、重要な半導体部品やOSを含めたソフトウェアまで内製化。まさに中国の英知を結集し、意地をみせつけたカメラスマホへ進化した。


 日本ではGoogle系サービスが満足に利用できず、中国向けはAndroidスマホでもなくなった関係で「あえて買うか」と問われると厳しい選択になる。それでも、Huaweiのスマートフォンのカメラに感じた「わくわくさ」をずっと追いかけ続けたファンを決して後悔させない仕上がりだ。


●著者プロフィール


佐藤颯


 生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。


 スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。


・X:https://twitter.com/Hayaponlog


・Webサイト:https://hayaponlog.com/



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