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いま日本の建設業界では、大工の人手不足と高齢化が問題となっています。特に2025年は、団塊世代が全員、後期高齢者になる年です。その影響もあり、建設業の「2025年問題」と呼ばれるほど、この問題が深刻化すると予想されています。
いったい建設業界の現場では何が起きていて、今後どうなっていくのでしょうか。
少し古いデータですが、国土交通省が2020年の国勢調査をもとにまとめたデータによると、大工就業者数は2000年の約65万人から2020年の約30万人と、半分以下に減っています。一方で、60歳以上の割合は、同じ期間で19パーセントから43パーセントへ急増。建設業全体の推移と比べても大工のほうが上がり幅が大きく、業界内で特に高齢化が進んでいる職種といえるでしょう。
ですが、急激に人員が減っているにもかかわらず、大工の需要はあまり変化していません。むしろ社会全体の高齢化や築年数の古い住宅が増えることで、リフォーム需要は引き続き高い状況が予想されており、人手が足りなくなるのではとも考えられています。矢野経済研究所によれば、2025〜2026年の国内住宅リフォーム市場規模は、2022〜2024年までと同水準の約7.2〜7.3兆円を維持する見込みです。
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そうなると、大工不足はどんどん拡大していき、大工1人あたりが抱える仕事が多くなります。結果として工期の遅れや施工費用の高額化につながり、近い将来、住宅だけでなく災害対応やインフラの維持などにも影響が出てしまう恐れがあります。
大工の人員が不足している大きな原因として挙げられるのが、若手の希望者が減って後継者がいない点です。それでは、なぜ若手の希望者が減っているのでしょうか。
不安定な労働環境
原因の一つは、大工が給与をはじめ「安定」というイメージを抱きづらい労働環境である点です。
たとえば、国土交通省は2013年に「若年者が建設業への入職を避ける一番の理由は、全産業の平均を約26%も下回る給与の水準の低さ」「最低限の福利厚生であり法令により加入義務のある雇用、健康、厚生年金保険(社会保険)に未加入の企業が多いことも大きな原因」と発表し、さまざまな対策に注力してきた経緯があります。そして、その対策は今なお継続されています(参照:国土交通省「建設業における処遇改善等に向けた取組について」)。
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また人手不足の一方で、大工を正社員として雇う企業も多くありません。繁忙期と閑散期の差が激しい職種のため、人件費だけがかさむ期間を不安視して、正規雇用に消極的になりやすいためです。
人材育成面の課題
人材育成の面でも課題が多いです。まず大工を希望する若手が減ったことで、そもそも技術が継承されていない現実があります。また、技術を学ぶ場も減少しています。たとえば、文部科学省の学校基本調査によれば、1970年度には全国に715校あった工業高校は、2024年度に516校まで減少しています。
このような現状をなんとか打開しようと、政府や関連団体、企業は、さまざまな取り組みに尽力しています。
国の施策
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国土交通省では、大工をはじめとする技能労働者の処遇改善や、女性の定着に向けて現状の調査や啓発に取り組んでいます。具体的には、保険加入に悩む一人親方へのフォロー体制の整備、企業に対する一定の賃金水準確保の要請などで、労働環境の改善を図っています。
また女性の定着に向けて、2025年3月に「建設産業における女性活躍・定着促進に向けた実行計画」を策定。広報、採用、現場環境などをどうすべきかの具体的な事例集などを作成して、各企業へ取り組みの呼びかけを行っています(参照:国土交通省「建設産業における女性の定着促進に向けた取組について」)。
企業の取り組み
なり手が減少する中で、政府だけでなく企業も独自で大工の人材育成に取り組んでいます。内容はさまざまですが、なかには住友林業グループのように、自社で建築技術を学ぶための職業訓練校を設立して、自社の人材確保につなげようとしている企業もあるようです。ほかにも、外部研修や意見交換へ積極的に参加し環境改善を目指すなど、各企業がさまざまな方法で人材確保に向けた努力を行っています。
建築業界が抱える深刻な大工不足。このまま放置すれば、家が建てられない、リフォームや補修ができないといった事態にもなりかねません。労働環境や技術継承など、大工が不足している原因は多岐にわたっています。現在はそれらの問題を改善し、なり手を増やそうと、業界全体でさまざま取り組みが進められている段階です。これによって希望者が増加すれば、多くの若手や女性の大工が活躍する未来が訪れるかもしれません。
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