AI時代の本命か? 画面が付いたMetaの新スマートグラスに感じた可能性 実機に触れて見えたこと

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2025年10月03日 09:10  ITmedia NEWS

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 米Metaが新しいスマートグラス「Meta Ray-Ban Display」を発表した。筆者はカリフォルニア州・メンローパークにあるMeta本社で、製品を試すことができた。


【写真を見る】Metaの「画面付きスマートグラス」の実際の見え方などチェック(全20枚)


 現状日本での発売予定はないが、「個人とAIの関係」を見通す上でとても重要な製品だと感じている。


 他のXR機器やスマートグラスとどう違うのか、そしてなぜ、Metaはこの製品を「AI時代のキーアイテム」と位置付けているのだろうか。その点を解説してみたい。


●ヒットする「AIグラス」を進化


 「メガネは、個人向けの超知性(Super Intelligence)にとって理想的なフォームファクターだ」


 Metaのマーク・ザッカーバーグCEOは、同社の年次開発者会議「Meta Connect 2025」の基調講演でそう話した。


 日本ではピンと来ない人が多いかもしれないが、同社のヒット商品である「Ray-Ban Meta」を受けてのものだ。


 Ray-Ban Metaは2023年末に発売されたスマートグラス。カメラとマイク、スピーカーを内蔵し、スマホ上で動く「Meta AI」アプリと連携して動作する。


 最も人気のある使い方は、Ray-Ban Metaに内蔵されたカメラを使い、主観視点の写真や動画を撮影することだ。だが、AI連携は本格的で、カメラで撮影した映像をAIが認識し、「目の前にあるものがなにか」「ホテルの部屋番号や駐車場の番号を覚えておいてもらう」という使い方ができる。


 現状のMeta AIは日本語に対応していないし、賢さにも限界がある。しかし、もしこのままAIが賢くなり、人を超えた「超知性」になったら? それを自分のためのアシスタントとし、生活を助けてくれるようになるとしたら?


 Metaだけでなく、多くの企業が「Ray-Ban Metaライク」なスマートグラスを作っており、大きなトレンドになっている。


 一方で、ザッカーバーグCEOはこうも言う。


 「Ray-Ban Metaを購入した人から寄せられるもっとも多い要望は、『写真を撮影したらそのまま見たい』というもの。この製品で要望に応えられる」


 すなわち、Ray-Ban Metaにディスプレイをつけ、写真や情報、AIの回答を、スマホを取り出すことなく確認できるようにしたのがMeta Ray-Ban Display......というわけなのだ。


●鮮明なディスプレイ、だがXR機器ではない


 Meta Ray-Ban Displayのディスプレイはかなり鮮明だ。


 スマートグラスは多数あり、その中にはディスプレイ搭載のものも出始めている。しかしその多くは、解像度が低かったり緑色一色の表示だったりと、色々制限もあるものだ。


 理由は、メガネの中に組み込めるサイズのディスプレイを作り、屋外を含めた明るい環境でも見られるものを作るのはまだ難しいからだ。


 MetaはスマートグラスやXRデバイスの研究を10年以上続けており、「元がとれないのではないか」と言われるほどの投資も続けている。その結果として、「室内ならバッチリ、屋外でもそこそこ見える」「スマホなどの画面と見劣りしない画質を備えている」「しかもメガネの形を維持できる」という条件を備えたディスプレイを搭載できた。


 Meta Ray-Ban Displayは、一見して「ゴツめのメガネ」くらいの大きさだ。だが、右目の中央から少し右にずれた部分に正方形の表示領域があり、そこに、フルカラーで非常に鮮明な映像が見える。


 プロジェクターは右のヒンジの部分にあり、小さなサイズで600×600ドットしかないという。


 だが、表示方法が上手いためか、視界の中には「フルカラーで非常に精細な映像」に見える。解像感を測る指標である「PPD(Pixel Per Degree)」で表すと「42」。同社のMeta Quest 3が25PPDなので、それよりもかなり細かく見える。


 写真だと色がおかしく見えるが、これは撮影の事情であり、人の目で見れば鮮明なフルカラー画像だ。


 ただ、「Meta Quest」や「Apple Vision Pro」のようなXR機器と違い、「自分の向いている方向に合わせて映像を動かす」機構はないし、視野は20度しか覆わない。


 XR機器や「XREAL One」のようなサングラス型ディスプレイは、空間に巨大なディスプレイを表示する仕組みと言える。だがMeta Ray-Ban Displayは、普段必要なちょっとした情報を「視界の邪魔にならない場所」に表示しておくためのデバイス、と言える。そもそも役割が違うのだ。


●スマホと連動してAIを活用


 表示はスマホ上のアプリと連動して行う。スマホのOSは、AndroidでもiOSでもいい。どちらにしろ、クラウドでのAI処理や通知はスマホが処理する。


 以下の写真は、デモ中に見たスマホアプリだ。Meta Ray-Ban Displayに表示される画面が、そのままスマホにも映っているのがわかるだろうか。


 実際のスマホアプリとは異なるデモ用のアプリであるようだが、「スマホで制御した結果をグラスに映す」というコンセプトがよくわかる。


 以下の動画は、相手が話す言葉を書き起こす「ライブ・トランスクリプション」を行った時のもの。話すのに合わせて文章が出来上がっていく様子がわかるだろう。


 この先には当然、自動翻訳が待っている。


 米Appleは先日、イヤホンである「AirPods」と「iOS 26が搭載されたiPhone」を組み合わせた「ライブ翻訳」を発表した。ただMetaは、「Meta Ray-Ban Displayなら画面もあってみやすい」としており、ディスプレイ内蔵が有利、と考えているようだ。


●筋電位コントローラーの操作感は


 もう1つの違いが「コントローラー」。


 Meta Ray-Ban Displayは「Meta Neural Band」という機器とセットで販売される。


 Meta Neural Bandは本質的には「マウスやキーボードを代替する」目的で開発されたもの。現在はAIグラスを操作するために特化して作られていて、PCなどにつないで使うことは想定されていない。


 特徴は「筋電位の小さな動きで、比較的正確に操作できる」ことだ。


 以下は実際に操作している時の映像だ。


・親指と人差し指を合わせる「タップ」


・親指と中指を合わせる「キャンセル、バック」


・親指と中指をダブルタップ「画面を消す」


・親指を人差し指の縁に沿って動かす「左右のカーソル移動」


・親指を人差し指に合わせて上下にずらす「上下のカーソル移動」


・親指と人差し指で何かをつまんでひねる「ボリューム操作」


 といったジェスチャーで操作をするが、そのほか、机の上やズボンの上で「文字を書く」ことで文字入力にも対応する。


 いわゆる「手の認識」はしておらず、腕の位置などは認識しない。あくまでジェスチャー入力のためのデバイスだ。逆に言えば、「手を上に持っていって指し示す」ような操作は不要になる。


 筆者が試した限り、精度はかなり良好だった。他の体験者は「慣れるまでズレがあった」という人もいたが、総じて評判は良い。腕にはコントローラーをしっかりつける必要があるし、多少の慣れはあるのかもしれない。


 これを使って、スマホをカバンなどから出すことなく、ちょっとした処理をAIとともに行う......というのがMeta Ray-Ban Displayの狙いといっていい。


●AIの力で価値拡大、日本での発売は未定


 逆に言えば、Meta Ray-Ban DisplayはXR機器とは違う。多数のアプリを切り替えながら「単体のコンピュータとして使うもの」ではなく、スマホ+AIという環境を、もっと使いやすくするためのものである。


 だから逆に言えば、「いかにAIが便利になるか」で使い勝手が大きく変わる。現状「超知性」は出来上がっていないが、超知性とは言えない間でも、「AIと話しながら何かをすることが便利」になってくれば、価値がどんどん上がる。


 ある意味、「スマホがAIで便利になる」という言説と同じ軸にあり、その中で、「スマホでAIを使うよりも便利なもの」という位置付けで作られているわけだ。


 価格は799ドルで、グラスとバンドがセットになって売られる。まずは米国からだが、来年にはヨーロッパへ市場を広げる。欧米系言語から開発を進め、「先々はアジアを含めた色々な国に」という考えであるらしいが、日本での販売はまだ決まっていない。


 800ドル(約11万8000円)という価格は安くない。だが、同種のスマートグラスの中では圧倒的に体験が良い。Metaとしては、長年の研究の成果がようやく製品につながりつつある、というところなのだろう。


 この製品があるからといってMeta QuestのようなXR機器を止めるわけではないが、新しい軸として、同社が大きく期待を抱いているのは間違いない。



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