楽天モバイルが“値上げできない”理由 低価格と相反するネットワーク改善では難しいかじ取りも

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2025年10月04日 10:30  ITmedia Mobile

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楽天モバイルは、9月30日に記者会見を開催。改めて、Rakuten最強プランの価格を維持していくことを強調した

 大手3キャリアが相次いで料金を改定し、事実上の値上げに踏み切る中、楽天モバイルはあえて記者会見まで開催し、代表取締役会長の三木谷浩史氏が「価格据え置き」を宣言した。10月1日に開始された「Rakuten最強U-NEXT」やそのキャンペーンの発表に合わせた形だが、既存のRakuten最強プランは低価格なままであることをうたい、差別化を図った格好だ。


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 一方で、物価や人件費の上昇に加え、円安の影響は楽天モバイルにも直撃している。他社が値上げに踏み切る状況の中、なぜ同社は価格を維持できたのか。三木谷氏によると、その理由は3つあるという。また、キャリア4社の競争環境を踏まえると、同社には値上げに舵を切れない事情もありそうだ。同社が他社とは異なる方針を打ち出す背景を読み解いていく。


●低価格で構築したネットワーク、そのカギになる完全仮想化


 「今日は楽天モバイルも値上げするという発表……ではなく、低価格、無制限は継続する」――こう語ったのは、楽天モバイルの三木谷氏。物価高や為替高、人手不足といった日本経済を取り巻く一連の状況を説明し、「すわ、値上げか」と思わせた後の価格据え置き宣言だっただけに、参加した記者は盛大な肩透かしを食らったように感じたはずだ。筆者自身も、一瞬だまされかけてしまった。


 三木谷氏は、改めて3278円でデータ通信が使い放題になることに加え、海外ローミングの2GB無料や、Rakuten Linkによる通話無料になるRakuten最強プランの特典をアピールした。データ容量を絞った料金プランだと他社にも安いものはあるが、無制限かつ海外ローミングや音声通話までという条件だと、確かに楽天モバイルは群を抜いて安い。


 とはいえ、冒頭で挙げたように物価が上がっているのも事実だ。三木谷氏によると、特に「大きなところでは電気料金が上がっていたり、極端な円安が進んで(海外から購入する基地局などの)調達コストも上昇したりしている」という。キャリアが常時通信をするには、基地局に通電していなければならない。電気料金の高騰は、運用コストに直結する。実際、他キャリアも大きなコストとして電気代を挙げていたほどだ。


 また、基地局などのネットワーク機器を海外から調達していた場合、円安はコスト高に直結する。日本メーカー製だとしても、中で使われている部品や材料を海外から買っていれば、最終的には製品価格に転嫁される。三木谷氏が「サステナブルに健全経営をしなければならない」と語るように、利益は出さなければならない。特に同社は、2025年に通期で黒字化できるかどうかの正念場にある。本来であれば、他社以上に値上げに踏み切りたいはずだ。


 では、なぜ同社は低価格を維持すると宣言できるのか。三木谷氏は、1つ目として同社が完全仮想化ネットワークで、かつOpen RANに対応していることを挙げつつ、次のように語る。


 「楽天モバイルのネットワークだけは、世界で唯一完全仮想化していて、基地局の機器の部分もソフトウェア、とりわけOpen RANのソフトウェアで運用している。それプラス、最近大きく出てきたAIも活用している。設備投資は一般的な比較で大体40%、事業の運営費も大体30%ぐらい削減できている」


●電気代を節約するRICを導入、調達コストも競争で抑える


 とはいえ、これはサービス開始当初からの話。楽天モバイルも本格サービス開始から既に5年以上がたっており、その間に上がったコストをどう吸収してきたかを説明し切れてはいない。2つ目に重要になるのが、運用コストだ。三木谷氏は、「AIによって稼働率が違う」としながら、次のように話す。


 「稼働率が低いところは、エコモードで運営することで、1年で消費電力を20%削減する。すでに15%程度削減しているが、残りの5%を削減する。他社がなかなかできていないソフトウェア制御をするRAN Intelligent Controller(RIC)があり、Open RAN化していることでこれができている」


 基地局は常時、通電しておく必要があるとはいえ、人が少ない場所などではフルパワーにする必要性がない。これを、遠隔かつAIでコントロールすることで、消費電力を抑えているというわけだ。こうしたコントロールを全体で行えるのは、ネットワークの全てを仮想化しているからこそといえる。


 また、物価高や円安で上がった機器の調達コストも、Open RANによって歯止めをかけているという。三木谷氏は、「1つのベンダーに頼っていると、どうしても価格交渉力が効かなくなる」としながら、「AがダメならB、BがダメならCと、適切な価格で4G、5Gをつなげていくことができる。ソフトウェアを自分たちで開発しているというのも大きな差別化になる」と語る。


 三木谷氏によると、楽天モバイルが価格を維持できるのは、「この3つが大きい」という。完全仮想化かつOpen RANに基づいてネットワークを構築したことで、当初の設備投資を抑え、かつ調達コストの上昇を防ぎながら、AIの力を使って運用コストも削減しているというわけだ。三木谷氏は「やせ我慢ではなく、技術的な努力」によるところが大きいことを強調した。


 こうした価格の安さが支持された結果、楽天モバイルの契約者数は現在、930万まで拡大している。三木谷氏は、「何とか年内には1000万契約を達成したい」といい、3カ月で70万契約を上乗せしていく方針だ。10月から開始したRakuten最強U-NEXTも、その一助になる。


●背景にある値上げできない競争環境、ネットワーク改善も急務か


 三木谷氏は「狙いすましたわけではなく、皆さんから値上げするのかと聞かれるので一応言っておこうと思った」と笑うが、価格の据え置きを改めてアピールした背景には、他社の値上げを受け、契約者獲得を加速させたい狙いがありそうだ。Rakuten最強プランをなくしてRakuten最強U-NEXTに一本化し、実質的な値上げをできなかった理由も根っこは同じと見ていいだろう。


 会見終了後の囲み取材で三木谷氏に、段階制、特に3GB以下の料金設定を廃止する意向がないかをたずねてみたが、同氏は「(廃止)してほしいの?」と冗談めかしつつ、「今のところは考えていない。むしろ、もっとアグレッシブに行く案もある」と語っていたほどだ。


 U-NEXTをセットにしたRakuten最強U-NEXTは、データ使用量を問わずに金額が上限に達するため、ARPUを上げるには手っ取り早い料金プランだ。三木谷氏が「付加価値を高めればそこは2980円(20GBを超過したときの税別価格)になるので、今後少しずつやっていくかもしれない」と語っていたように、楽天モバイルにとって収益拡大の鍵になる。


 その反面、Rakuten最強プランがないと、低容量のユーザーが離脱する可能性が高まってしまう。競合の料金プランを見渡すと、KDDIのUQ mobileは「ミニミニプラン」を廃止した一方で、ソフトバンクのY!mobileが「シンプル3」でSプランを残した。irumoの新規受付を終了したドコモも、「ドコモmini」に各種割引を適用すると、料金は880円まで下がる。


 あくまでドコモやY!mobileは光回線やクレジットカードをセットにしたときの料金で、Rakuten最強プランと横並びでは比較できないものの、データ容量は大きく、金額でも楽天モバイルを下回るケースがある。競合との関係を踏まえると、今の料金体系を大きく変える実質的な値上げは難しいというわけだ。


 ネットワークに対するユーザーの評価も、値上げに踏み切れない要因の1つかもしれない。目下5Gを拡大している楽天モバイルだが、ユーザー数が急増したのに伴い、“パケ詰まり”する場所も増えてきた。三木谷氏も「データ的には(全体としては)そんなことはない」としながらも、「一部の混雑が起っているところでは、早急な対策が必要」と認める。


 楽天モバイルでは、東京都心部の主要駅に電波対策を行うとしている他、地下鉄駅間の4Gを20MHz化することも進めている。会見で対策する場所として挙げていた駅、特に新宿や渋谷などのターミナル駅付近では、速度の低下が起きやすい。また、地下鉄も5MHz幅のままになっている場所では、まったく通信ができないということも筆者自身が体験している。駅間の20MHz化は進めている一方で、現時点でも4割超は5MHz幅のままだ。


 同社では、電波改善の依頼が年々減少しているとしたが、これは着実にエリアが広がっているためだろう。その一方で、東京エリアで「つながりやすさ強化宣言」を打ち出し、上記のような対策を発表しているのは、不満の質がエリアからキャパシティーに移り始めていることを示唆する。三木谷氏は価格据え置きを「当面」としていたが、電波改善は設備投資の増加にも直結するだけに、難しいかじ取りが求められそうだ。



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