
昨今、スマートフォン向けSSDがじわじわと人気のようだ。iPhoneもAndroidもUSB-C端子になり、背面に磁石が付いたことにより、SSDの仕様が共通化できるようになったこともあるだろう。
【画像を見る】“自分で作る”外付けSSD(ケースにSSDを取り付けた図)
そもそもこのクラウドの時代に、スマートフォンの容量が足りなくなるというのは不思議な話ではある。だがよくよく考えてみると、昨今スマートフォンのカメラで4K撮影が当たり前になったことで、同じフォーマットでもビットレートが上がり、ファイルサイズが飛躍的に大きくなったからではないかと思われる。
こうした動画は編集してネットに上げることで消費していくわけだが、素材としての動画をクラウドに保存するのは、容量と通信量の無駄遣いである。一定時間ローカルにあればいいということで、外部SSDに退避という方法が取られるようになった。もちろんPCで編集するにも、メディアが取り外せたほうが便利である。
これに関連してもう1つ考えられる理由は、スマートフォン価格の高騰だ。すでに10万円以内で購入できるモデルはあまりなく、ストレージ容量が多ければ20万円台に突入する。だが容量が少なくても機能的に同じであれば、少ない容量のモデルを選択して、足りなければ外部SSDで補間すればいいという考え方もあるだろう。
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そんなことからじわじわと人気を集めているスマートフォン向けSSDだが、そもそもスマートフォンユーザーがSSDに詳しくないこともあるのか、有名ブランドに人気が集まるということもなく、これまでほとんど知られてこなかったメーカーが台頭してきている。
もちろん、多く売れているのであればそれなりに信頼性はあるのだろうが、規格通りのパフォーマンスが出るのかは、実際にテストしてみなければわからない。中身がどんな素性のSSDなのか、わからないからだ。妙に安いと思ったら容量偽装や速度偽装が行われているかもしれず、油断ならない。
とはいえ、スマートフォン用のアプリで外部ストレージの速度が計測できるアプリはほとんどない。以前は存在したが、セキュリティ強化のため、OSのアップデートに伴って次第に使えなくなってきている。
つまり、スマートフォンでしか使っていない人は、自分のSSDのパフォーマンスがスペック通りなのかを調べる方法はほぼないということになる。もちろんPCやMacに接続すれば計測できるが、それはUSBポートの転送速度に左右される。PCでいいパフォーマンスが出ても、スマホ側のUSBポートが遅ければパフォーマンスは落ちる。多くの人は、使えているからいいやという感じなのかもしれない。
●SSDを自分で作るという選択肢
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一方で、信頼できるSSD基板を自分で選択し、ケースを買って自分で外付けSSDを作るという方法もある。これなら、速度的にも素性も納得できるだろう。
以前SHARGEというメーカーから、SSD用のエンクロージャをサンプルとしてお送りいただいていた。「SHARGE Disk Plus」というモデルで、厚みが6mmしかないということから、人気が高いようだ。USB-C 3.2 Gen2 10Gbpsの転送速度を保証している。これに自分で買ったSSD基板を入れて、ストレージ化するわけである。
使用できるのは最大2TBのM.2 NVMe SSDで、サイズは2280/2242/2230の3タイプに対応する。サイズの読み方は、最初の2桁が幅で、末尾2桁が全長だ。当然大きい方が集積度が低いので、価格的にはこなれている。
最大容量の2TBで探したところ、2280なら概ね1万5000円前後のようだ。SHARGE Disk Plusが1万円ぐらいなので、合計すると市販の2TB SSDとほぼ同じ価格だが、パフォーマンスが保証できるところが強みである。
ここで注意したいのは、SSDのセル方式である。現在TLC(Triple Level Cell)とQLC(Quad Level Cell)の2種類がある。これはその名前の通り、1つのセルに何ビット格納できるかを表しており、TLCは3ビット、QLCは4ビットということになる。
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QLCの方は安く大容量化しやすいが、その代わり転送レートが遅いという弱点がある。昨今はキャッシュを搭載することで、小さいデータであればTLC並みの速度が出るが、キャッシュを超えた時点で遅くなる。動画を連続記録することを考えれば、TLCの方を選択するべきだろう。
今回購入したのは、Biwin NV7400 2TB SSD NVMe2.0 M.2 Type 2280 PCIe Gen4×4というSSD基板で、TLCである。転送速度はリード7450MB/s、ライト6500MB/sとなっている。
ただしケース側の最高速度が10Gbpsなので、計算すると約1250MB/sということになる。SSD基板からすれば、速度的にはまだ余裕がある。
ケースへの組み込みは、PCにメモリーを挿したことがある人なら簡単だろう。ケースの中を開けてSSD基板を差し込み、ネジ止めして熱伝導シートを貼れば完了だ。
SHARGE Disk Plusの特徴は、USBーC端子が2つあることだ。C1端子はストレージ接続用で、挿したポートが電力をSSDに供給する。
もう1つのC2端子は電力供給用で、SSDに電力供給するほか、C1端子の方にもスルーして電力が出せる。例えばスマートフォンに対しては、C1とスマホを接続し、C2にモバイルバッテリーなどを接続しておけば、SSDを使用しながらスマホの充電ができる。
ただケース本体にはマグネットがない。なのでスマホに貼りたいのであれば、別売のマグネチックパッドがあった方がいいだろう。ただこれの厚みが3mmぐらいあるので、トータルでの厚みは9mmぐらいになるのが残念なところだ。
●実際にどう運用できるか
米Blackmagic Designが提供している「Disk Speed Test」というツールを使用して、パフォーマンスを計測してみた。使用マシンは米AppleのMac mini M4で、前面のUSBーCポートを使用している。
リードの方が若干速いが、概ね800MB/s強という結果になった。そもそもMプロセッサのMacは、Thunderboltを主体に考えているのかUSBポートは速度が出ないので、約64%減というのは妥当なところである。
実際にBlackmagic designの6Kカメラ、Blackmagic PYXIS 6Kを使って撮影テストしてみた。6048×4032ドットのBlackmagic RAW、圧縮率3:1で撮影してみたところ、トータル3時間20分、無事容量いっぱいまで止まることなく記録できた。
一方で、スマートフォンでの撮影時にSSDを使いたいという人は多いだろう。クリエイターだけでなくプロでも、特殊撮影時に薄型カメラとしてスマートフォンを使うということも増えている。
先日iPhone17シリーズが発売されたが、その際にiPhone 17 ProおよびPro MAXでは、新たにApple Prores RAWの撮影に対応した。FinalCut Camera2.0およびBlackmagic Cameraにてサポートされる。Blackmagic Cameraでは、以前からApple Prores 422 HQまではサポートしており、外部ストレージに対しての直接録画にも対応している。今後、シネマ撮影の中でiPhone 17 Proシリーズが使われることになるだろう。
あいにく筆者の手元には私物のiPhone 16eしかないが、Blackmagic Cameraを使えばApple Prores 422 HQまでの撮影は可能だ。試しにSSDに対して直接録画してみたところ、4K解像度では数秒で停止した。
これはもっともな話で、iPhone 16eのUSB転送速度はUSB 2.0 相当、すなわち480Mbps=60MB/sしかないので、USB転送速度がボトルネックになっている。4K Apple Prores 422 HQはVBRなので、ビットレートは撮影条件で変わってくるが、概ね4K/30pで110MB/sぐらいと言われているので、全く足りないわけである。
一方解像度をHD/30pに落とすと、ビットレートは概ね27.5 MB/sまで下がるので、USB2.0でも対応できる。iPhone 17 ProシリーズはUSB 3クラス(10Gbps)搭載と言われており、発表時はスマホにはオーバースペックだと叩かれたりもしたが、4KのApple Prores RAWを外部ストレージに直書きすることを考えれば、USB 3クラスの採用は妥当である。
他方でAndroidのスマートフォンでも、ハイビットレートで撮影する可能性はある。機種の中には光学で高倍率レンズを搭載するものがあるため、iPhoneとはまた別のメリットがある。
こちらでもBlackmagic Cameraを使えば、外部SSDに対して直書きできる。コーデックはH.265にはなるが、ビットレートは最高240Mbps=30MB/sで撮影できる。
手元に米Google Pixel 10 XLがあるので、こちらも4K/30p撮影で試してみた。USBの規格的には3.2と言われているので、速度的には十分、仮にUSB2.0でも対応できるはずだが、こちらも何故か数秒で止まってしまう。
色々原因を探ってみたところ、どうもSSDに対する電力不足のようだ。SHARGEのケースにあるC2ポートにモバイルバッテリーを接続し、給電しながら撮影したところ、問題なく撮影できるようになった。つまり、スマホ側からの電源出力が足りてないということである。
このことから考えると、スマートフォンにSSDを繋いで直接記録する場合には、注意すべきポイントが3点ある。
・記録コーデックとスマホ側のUSB規格のバランス
・接続ケーブルの品質
・SSDに対する電力供給
もう1つ条件があるとすれば、SSDの冷却である。SSDケースの中にはファンを内蔵しているものもあるが、SHARGE Disk Plusの場合は冷却シートがアルミボディと密着して放熱するので、今回のテストでは問題なかった。炎天下の屋外でトラブルがあるようなら、SSDの温度も考慮すべき条件だろう。最近見かけたTipsとしては、小型の保冷剤を凍らせず常温のままで貼り付けるという方法があった。
外部SSDでの収録に対応しているデジタルカメラであれば、接続ケーブルの品質以外はカメラ側の仕様でクリアしているはずだ。一方スマートフォンでは、これまでそうした使い方を想定してこなかったので、撮影できるかどうかはユーザーの知識次第ということになる。
スマホでの外部SSD記録を計画している人は、上記の検証結果をよく確認して、準備していただければ幸いだ。
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