【女子バレー】埼玉上尾メディックスの岩澤実育が語る「見えない目標」だった日本代表でのプレー

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2025年10月11日 09:10  webスポルティーバ

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【"世界"を相手に摑んだ自信】

 バレーボール女子世界選手権(世界バレー)で、日本女子バレーは人気が再燃した。明るくひたむきで、弾むようにボールを追いかける姿は注目の的になった。最後までメダルを争い、結果を出したことも大きいが、チーム一丸となったプレーが好感を得た。

 リベロの岩澤実育(25歳/埼玉上尾メディックス)は、それを象徴するひとりだった。チームを救うディグが光ったが、それだけではない。

「団長」

 周りにそう呼ばれた彼女は、コートサイドで選手ごとに振りつけた応援をし、チームを活気づけた。底抜けの明るさと共闘精神が全体に伝播した。楽しそうな彼女たちの表情は前向きな闘志に変換され、その様子が大歓声を受け、開催国タイでは"日本コール"が巻き起こった。

 3位決定戦に敗れたあと、多くの選手たちが無念の涙を流すなか、岩澤は泣かなかった。

「正直、私は泣けなくて......。個人的に、リリーフのレシーバーとしての起用だったので悔しい気持ちもありました。泣けるほどプレーしていないって。ブレイクしたり、レシーブを上げたり、もっと長くみんなとコートに立ちたかった。だから『泣きたくなかった』って言ったほうがいいのかな。来年、あそこで戦う機会が与えられたら、今度はコートでも一緒にみんなと戦いたい」

 岩澤は口角を上げて言った。

 その健全な野心こそ、彼女のバレー人生の核かもしれない。

「代表期間の4、5カ月(5月から9月)は、実りのある時間でしたね」

 岩澤は言う。ネーションズリーグ(VNL)、世界バレーと準決勝に進出。感覚を磨いてきたディグは世界のスパイカーを相手にも通用した。

「ディフェンスはより自信を持てました。今まではディグが得意といっても、『海外の選手相手にもレシーブできるのか』って思っていて。実際に戦ってみて、反射神経や動きは十分通用するし、戦っていけると自信になりました」

"世界"との対戦を肌で感じた。「世界最高のスパイカー」と言われるブラジルのガビ(ガブリエラ・ギマラエスの愛称)は「一本上げたところに次は打ってこない。ひねったところに打ってくる」と興奮した。そのたび、自らも鍛えられる感覚があった。

 日本最高水準の選手たちとの切磋琢磨も、彼女を刺激した。

「(石川)真佑(下北沢成徳高校時代のひとつ下の年代)は、イタリアに行って引き出しが増えたなって。もともと体幹は強いけど、同時にメンタルも強くなった。レシーバーとして見た時も、『ここ』って思ったところから肩が入って、わかっていてもパワーやスピードで押し切られる。カンチャン(複数のプレーヤーがブロックに飛んで間が開いた状態)でも、ラインに出す、奥に出す、と読めない。一緒に練習して、自分もレベルアップする感覚がありました」

【"日本のリベロ"にもっと近づけたら】

 2008年の北京五輪、当時8歳だった岩澤は代表のリベロだった佐野優子に憧れたという。今回、確実に一歩、その姿に近づいた。

「佐野さんがいたから『リベロになりたい』って思いました」

 岩澤は言葉を紡いだ。

「でも、『代表を目指しています』と言っていても、実は現実味がなかったです。『本当に代表に入って試合に出られるの?』って。私は埼玉上尾に入っても5、6年はピンチサーバーで起用されていて、『ピンサーでしか出ていないのに、リベロで出られるわけなくない?』って。だから『代表を目指す』と言うのがきつくて、見えない目標に疲れてしまう時もありました。

 それが、やっと一歩前進。諦めずにやってきてよかったですし、佐野さんみたいにみんなに頼られる"日本のリベロ"にもっと近づけたらいいなと思っています!」

 彼女はひとつひとつ壁を越えてきた。メディックスで試合メンバーに入り、ピンチサーバーとして出場し、レシーバーとしてコートに立ち、活躍して先発に選ばれ、代表にも選ばれる。バレーは一朝一夕でうまくならない。センスを磨き、才能を開花させたのだ。

「私の場合、ディグは感覚が大きいです。嗅覚というか、『ここだ、あっちだ、ここかも』という感覚が当たるようになってきました。子どもの頃から練習するなかで、どんどん慣れて感覚と体が連動し、取れる範囲も広がったのかなって」

 日本代表のフェルハト・アクバシュ監督には、よいレシーブをするたび、「スバラシイデスネ」と日本語で褒められた。彼女はそのたび、うまくなった。

「バレーは楽しんでやりたい」

 彼女はそう言って上を向く。その先に広がる景色があるのだ。

(【ハイキュー‼×SVリーグ コラボ企画】岩澤実育が選出したベストメンバーはクセあり?>>)

【プロフィール】

岩澤実育(いわさわ・みいく)

所属:埼玉上尾メディックス

1999年10月13日生まれ、東京都出身。163cm・リベロ。小学1年の時からバレーボールに親しみ、下北沢成徳高校で春高バレー連覇を経験。2017年にU20日本代表に選出され、世界ジュニア女子選手権で銅メダル獲得に貢献した。翌年に埼玉上尾メディックスに入団。2025年、日本代表としてネーションズリーグ、世界バレーに出場した。

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