サッカー日本代表にまさかの「歴史的敗北」 ブラジルに「ミスの連鎖」はなぜ起きたのか

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2025年10月15日 17:10  webスポルティーバ

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 10月14日、東京スタジアム。試合後の記者会見に登壇したブラジル代表監督カルロ・アンチェロッティは、苛立ちを隠せなかった。日本代表に3−2で逆転負けを喫した事実に、明らかに怒っていた。ミラン、レアル・マドリードで、世界最高峰のチャンピオンズリーグにおいて史上最多5度の優勝を誇る名将にとって、それは屈辱的な体験だったはずだ。

「今の質問はどういう意味だ? あまりよくわからなかった」

 アンチェロッティは、詰問するようなブラジル人記者の早口の質問がわからず、隣のスタッフに聞いていた。彼はイタリア人で、まだポルトガル語は完璧ではなく、スペイン語とポルトガル語を混ぜた会見だった。彼自身、ブラジル代表監督就任は今年5月。まずはワールドカップ南米予選を勝ち抜き、来年の本大会に向けた"適応期間"なのだ。

 しかしながら王国ブラジルでは、いかなる言い訳も許されない。歴史上、初めて日本に負ける。それは彼の今後の仕事を揺るがすほどの「惨事」だった。

 なぜ、アンチェロッティ率いるブラジルは日本を前に膝を屈したのか?

「前半はいい試合ができましたが、後半は悪かったです」

 アンチェロッティはそう振り返ったが、まさに前後半で別のチームだった。

 前半のブラジルは、本来の出来に近いだろう。欧州のチームのように戦術的な狙いをつけ、嵐のように襲い掛かるわけではない。しかし、のらりくらりとしのぎながら、しっかりとボールをつないで弱点を探していた。ミドルゾーンで組み、プレスも甘い日本に対し、パスの出し入れだけでスペースを作った。そして日本の3バックとウイングバックの脆弱な結合部分を目がけたパスで右、左と破って華麗に崩し、2点をリードした。

 ただ、ブラジルペースだった流れが変わりそうな予兆は、前半の終わりにあった。

 自分たちでボールを回しながら、「これで決着はついた」という空気を出していた。韓国を0−5と粉砕していた彼らにとって、「アジアはこの程度」と侮り、無理しなくても勝ちきれる算段がついたということか。ブラジルの選手たちは、戦いの熱を冷ましたように見えた。余熱で戦いきれたらよかったが、計算外が起こったのである。

【「不機嫌になるのは普通」】

 後半頭から高い強度のプレスをかけてきた日本に、混乱が生じた。52分、中盤でカゼミーロが堂安律の背後からの寄せに嫌がるような横パス、さらにルーカス・パケタも鎌田大地のプレスにバックパス。これを受けたセンターバックのファブリシオ・ブルーノは上田綺世の寄せを受け、判断を迷ったのか、腰砕けになって、コースカットに入っていた南野拓実にパスし、これを打ち込まれた。

「日本は後半からいいプレーで、プレスの強度が上がり、ビルドアップのところが困難になりました」

 アンチェロッティは言う。カオスは伝播していた。失点の10分後、ファブリシオは中村敬斗のシュートをクリアしきれず、ゴールに蹴り込む。これもミスだが、公式も中村の得点としたように、実はディフェンス全体の問題だった。左サイドバックのクロスへの寄せは甘く(伊東純也は常に優位だった)、逆サイドまで振られ、中村もフリーだったのだ。

「個人のミスでメンバーから外すとかはありませんが......ミスはチームに影響し、バランスを崩したのは間違いありません。(失点し)ファイティングポーズを失い、(日本の攻撃に対する)リアクションもできませんでした。チームがコントロールを失い、メンタル面が落ち込んだのが最大のミス。よくない結末に結びついてしまいました」

 アンチェロッティは務めて冷静に説明したが、2−2とされた約10分後には、CKから上田綺世に前に入られ、ヘディングシュートで失点した。上田にはその前にも決定的なヘディングを打たれており、完全に後手に回っていた。3−2と逆転された後、冷えきったブラジルは反発力も見せられなかった。

「これでよくはありません。チームが敗れたとき、不機嫌になるのは普通のことでしょう。みんな不愉快だし、私も選手たちも、負けるのは好きじゃありません。だからこそ、こうした敗北から学ぶべきで、それがフットボールなのです」

 アンチェロッティは語ったが、日本の歴史的勝利は同時に王国の歴史的敗北を意味した。よほどの成果=ワールドカップ優勝ぐらいのことを達成しなければ、この汚点を消せないだろう。それは伝説的な名将にとって耐えがたい恥辱に違いない。

 ただ、アンチェロッティはいわゆる戦術家ではない。日本戦のようなケースは起こり得ることだった。

 レアル・マドリードで数々のタイトルに浴した時代も、「戦術がないのが戦術」と言われるほどだった。イタリア特有の守りの堅牢さを高めながら、攻めは選手たちの実力を見抜き、信じ、自由度の高い戦いを信奉し、その撓(たわ)みが変幻自在の動きを実現し、ユルゲン・クロップやジョゼップ・グアルディオラといった稀代の戦術家のチームを破った。一方で、再現性のある戦術ではないため、格下に呆気なく負けることもあったのである。

 アンチェロッティはあくまで戦略家であり、独自の戦術を駆使するタイプではない。天才的センスで戦況を見抜くのには長けるが、戦術的アプローチで修正し、改善するタイプではないだろう。結果、この日のように"彼のチームでプレーするのに値しない選手"がピッチに立ってコントロールを失った時、チームが戻るべきバランスもなく、混乱のなかで失点を繰り返した。

「今、敗れて学んだほうがワールドカップで経験するよりマシだ」

 アンチェロッティは言った。強がるしかないだろう。彼は勝ち続けてきた名将なのだ。

このニュースに関するつぶやき

  • 守勢の時に南野は「いけそうだ」と思っていたらしい。実際に後半のプレス強度や足元の技術が日本の方が上で目を疑った。向こうも主戦を何人か欠いていたけど、日本の方がメンバーはつらかったと思う。
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