サッカー日本代表が御大アンチェロッティ率いるブラジル代表を撃破した意味 目標のワールドカップ優勝を狙うために必要なことは?

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2025年10月15日 18:20  webスポルティーバ

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 あのカルロ・アンチェロッティが苛立っている。

 ほんの20分ほど前までは、イタリア人監督らしく完璧にスーツを着こなした貫禄あるいでたちを見せていたが、67分にマテウス・クーニャのゴールがオフサイドで取り消されると、つぼんだ両手を顔の前で揺らすイタリア人特有の「嘘でしょ!」のジェスチャーで、韓国人の線審に激しく詰め寄っていた。「マンマ・ミーア!」とまで言ったかどうかは、確認できなかったけれども。

 現在66歳のこの指揮官は、現役時代に近代戦術の始祖のひとり、アリーゴ・サッキの薫陶を受け、ACミランでヨーロピアンカップ(チャンピオンズリーグの前身)を2度制し、指導者としてはミランで2度、レアル・マドリーで3度、欧州の頂点に立っている。モダンフットボールの生き字引であり、史上最高の監督のひとりだ。

 そんな名将のなかの名将を、悩めるフッチボウ王国ブラジルの代表チームが長い交渉の末、三顧の礼で迎えたのは、今年5月のこと。直前の試合でアルゼンチンに1−4で敗れていたセレソン・ブラジレイラ(ブラジル代表の愛称)は以降、3勝1分1敗、9得点1失点を記録している。

 唯一の失点は、標高4,088メートル(富士山よりも断然高い)にある人工芝が敷かれたボリビアのスタジアムでの一戦(0−1)で、そこはボールが奇妙な軌道を描くことで知られている。高山病の懸念もある。どんなチームでも、失点や黒星を喫しかねない場所だ。

 また4日前の韓国でのアウェー戦では、5−0の大勝を収めている。つまり、イタリアの御大──W杯で最多5回の優勝を誇るブラジル代表史上初の外国籍監督だ──が統率する新生ブラジルは、攻守に隙のないチームに生まれ変わった......はずだった。

 10月14日に東京スタジアムで行われた日本戦でも、前半はその印象を強くした。一見、互角に戦っているようでも、勝負どころで一気にスピードと集中力を上げ、軽快なパス交換から26分にパウロ・エンリケ、32分にガブリエウ・マルチネッリがネットを揺らし、2点を先行。イタリア伝統の守備のメソッドを豊富に持つ指揮官のもと、ブラジルがそのまま逃げ切るか、あるいは韓国戦のようなさらなる加点も予想できた。

【「まだこのゲームは死んでいないよ。1点を返したら勝負になる」】

 だが、2020年代のジャパンは列強との戦いで劣勢に立たされた時に、とてつもない底力を発揮する。カタールW杯でスペインとドイツに先制されながら、逆転勝利を収めたように。

「まだこのゲームは死んでいないよ。1点を返したら、絶対に勝負になるから」と、ハーフタイムにキャプテンの南野拓実が仲間に声をかけ、「前から同数でプレス」をかけていくことに決めた。

 すると50分すぎに、上田綺世のハイプレスがファブリシオ・ブルーノのミスを誘い、ボックス内でチャンスボールを拾った南野がシュートを突き刺して1点を返す。直後に投入された伊東純也は、まさしくゲームチェンジャーとなり、日本に傾いた流れをさらに後押し。62分、右サイドを猛然と駆け抜けた伊東がファーサイドにクロスを上げると、中村敬斗が得意のボレーシュートを合わせて同点とした。

 その5分後に冒頭のシーンが訪れ、勝ち越し点を取り消されたと感じたからか、ブラジルの面々は苛立ちを募らせていく。そして71分、伊東がコーナーキックを入れると、現在、世界のトップレベルで有数の得点率を誇る上田が、破壊力満点のヘディングを叩き込み、日本が19分間で逆転に成功。くどいようだが、相手はクラブレベルで欧州を7度制したアンチェロッティ監督が率いる、W杯5度の優勝記録を持つブラジルだ。日本のブラジル戦の初勝利が、こんなに劇的な形で訪れるなんて、ちょっと想像できなかった。観ていた日本人ファンの誰もが、痺れたはずだ。

 試合後の記者会見では、ブラジル代表監督に、日本の印象と日本が世界一を狙うと公言していることについて、質問が投げかけられた。

「とても強いチームだと思いました。今日は特に後半、彼らの前線からのプレスに悩まされ、うちのビルドアップが困難に陥りました」とアンチェロッティ監督は、時々スペイン語が混ざるポルトガル語で応えた。ただし、ふたつ目の質問への回答はなかった。そんなことは自分たちで考えなさい、ということなのか、あるいはただ不機嫌だっただけか。

 はたして、日本代表は目標としている世界の頂点に立てるのか──。

【「複数のプレースタイルとシステムを」】

 ここ3年弱で、W杯優勝経験国に4勝(ドイツに2勝、スペインに1勝、ブラジルに1勝)している事実をふまえると、もう誰にも一笑に付すことはできないと思う。その一方で、コスタリカやイラク、イラン、アメリカといった中堅国にあっさり負けてしまうこともある。勝負には時の運もあるが、本番でどんな相手にも勝ち切れるようにならなければ、黄金のトロフィーは見えてこない。

 また本大会では、間違いなく、相手から研究されているはずだ。だから奇しくもアンチェロッティ監督が前日の記者会見で言ったように、「複数のプレースタイルとシステム」を備えておく必要がある。そしてもちろん、ブラジルにドラマティックな形で歴史的な勝利を収めたとしても、喜ぶのは数日にとどめて、兜の緒を締め直さなければならない。

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