
サッカー日本代表が逆転勝利を収めたブラジル戦。人気解説者の林陵平氏が日本の前後半の戦い方、逆転の理由を詳細に解説する。
【動画】林陵平が超詳細解説! 日本がブラジルに大逆転できた理由↓↓↓
【ローブロックを崩された前半】
歴史的勝利で、スタジアムの雰囲気もすごかったですね。今までだと、ブラジルの選手がいいプレーをすると「ワーっ!」と歓声があがる感じだったんですけど、今回はあまりなかった。日本を後押しするようなホームの雰囲気が作られたのは、非常にうれしかったです。
試合は前半と後半でまったく違う展開になりました。
前半は、やはりブラジルが相手とはいえ日本もホームなので、9月のメキシコ戦のように前からハイプレスを仕掛けていくんじゃないかと予想したんですけど、全く行かなかった。ただ、最初からローブロックで5−4−1を作るというより、ミドルサードで5−2−3という形で入ったと思います。
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この日3バックの中央に入った谷口彰悟が、最終ラインを下げすぎずにブロックをコンパクトに保ちましたし、ボールがサイドバック(SB)に出た時も、シャドーの南野拓実や久保建英がスライドしてアプローチして進入させませんでした。
ブラジルもこのミドルブロックに少し苦労している印象でした。センターバック(CB)のふたりは比較的フリーでボールを持てたけど、中央から縦パスを刺すことができず、ボールを日本のブロックの外で回す時間が続きました。
日本はこれで立ち上がりから15〜20分はいい形で守れていたんですけど、ブラジルはこの守り方に少しずつ慣れてきました。するとCBのふたりやアンカーのカゼミーロがフリーでボールを持った時に、左ウイングのマルティネッリが日本の最終ラインの背後へ抜け出す動きが増えてきた。
これを警戒した日本側は、少し全体のラインが下がってきた。あとはブラジルの両ウイングがタッチライン際にかなりワイドに張ったのもポイントで、こうなると日本は3バックでこの両ウイングを見ることが難しく、ウイングバック(WB)の堂安律と中村敬斗が下がってマーク。日本のWBがブラジルの両ウイングにピン止めされる形になり、結局最終ラインが5バック気味に。ボランチやシャドーもこれにつながるように引いて、全体が5−4−1になってしまった。
この5−4−1でも日本はすごくうまく守っていたと思いますが、ブラジルに2点取られてしまいました。
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26分の失点シーンは、ブラジルのパスワークが一枚上手でした。右でボールを受けた右SBのパウロ・エンリケが中のブルーノ・ギマランイスに預けて前へ。ブルーノ・ギマランイスは前方のルーカス・パケタと縦のパス交換をしますが、この時ブルーノ・ギマランイスがちょっと横にステップしてリターンをもらったのがよかった。これで縦方向へのパスコースが空き、抜け出してゴールを決めたパウロ・エンリケにブルーノ・ギマランイスからのパスが渡りました。
続いて32分の2失点目。これも5−4−1のブロックの前から崩されました。ヴィニシウスがルーカス・パケタにボールを入れ、競り合いのこぼれをマイボールにしたルーカス・パケタがいいアイデアで空間を使ったループパス。裏へ抜けたマルティネッリが左足ボレーでしっかりゴールに流し込みました。
この5−4−1のブロックを崩してくるブラジルは強い! もう誰もが思いましたよね。
日本も攻撃のいい形はひとつありましたが、かなりの時間自陣に閉じ込められてハーフコートゲームの形になりました。こうなると日本ボールになったとしてもブラジルのカウンタープレスがかかりやすく、自陣から出るのが難しかった。空気が吸えない、酸素がないというような形で、苦しい前半になりました。
【後半からのハイプレス】
後半の日本は何が変わったかというと、ハイプレスですよね。
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ブラジルの2CBには日本の2シャドーである久保と南野が。アンカーのカゼミーロは1トップの上田綺世がパスコースを消す形で見て、インサイドハーフのふたりには鎌田大地と佐野海舟。
そうなるとSBにボールが出てくるんですが、ここにはWBの堂安と中村が出る形で、3トップは3バックが見る。まあ、オールコートのマンツーマンのようなハイプレスをやったんですが、これによってブラジルのビルドアップは機能不全になり、日本は自分たちのペースに持ち込みました。
結局、今の日本は間違いなく「いい守備」が「いい攻撃」につながっている。このいい守備から前でボールを回収することができ、全体が高い位置にとどまってプレーできたのは大きくて、日本はWBの堂安や中村のところで攻撃の起点が作れるようになりました。
この流れでゴールを奪えたのもよかった。1点目は前からのハイプレスが本当にうまくはまって取れたゴールだったので、日本は自信になったと思います。
2点目はシャドーとWBの関係から。右サイドで堂安の縦方向のパスに交代出場の伊東純也が走り込みクロス。ファーサイドで中村がボレーで決めました。
日本はWBも使った5トップ気味の攻めをうまく生かせました。まず大外の堂安に、ブラジルは左SBのカルロス・アウグストが対応したことで右前にスペースが生まれ、伊東がそこへしっかりランニングしてパスを受けた。そしてそこにブラジルの残り3人のDFがスライドして対応すると、逆サイドのスペースが空く。そこへ中村が入ったわけです。
伊東のクロスもインフロントではなくインステップの伸びるキックで、ファーサイドの中村を意識したもので、すばらしかった。中村のボレーも普通だとインステップで蹴りたくなるところを、正確性を考えてインサイドで合わせましたが、技術的にはかなりレベルが高い。完璧な形でゴールが生まれて同点になり、テンションが上がりました。
【3バックがよく対応した】
ブラジルは選手交代でジョエリントン、マテウス・クーニャ、ロドリゴを入れてきましたが、流れは変わらなかった。日本のプレスが徹底されていました。ただ、これができるのは日本の後ろの3枚。3バックがすばらしかったことを忘れてはいけません。特に両脇の渡辺剛と鈴木淳之介の負荷がかなり高いんですけど、ここが1対1でしっかり止めてくれたのが本当に大きい。ここで負けると前掛かりになっているぶん、スペースを使われて、3トップにやられ放題になってしまいますから。
また、ハイプレスをかけてもボールが奪えず、どうしても相手に持たれる時のミドルブロックのところでも、日本の守り方は後半変わりました。シャドーのひとりの南野がボランチ脇まで戻らず、相手のCBを少し捕まえるような形で前残りしていたんです。
これで後ろが重く(人数が多く)はならなかったんですが、左サイドにはスペースが空く。ただ、ブラジルの右ウイングにボールが入った場合は、鈴木淳之介がスライドして4−4−2の形で守ったのがうまくはまった。前半と同じ5−4−1のブロックで守っていたら、多分攻めにいけなかったでしょう。
逆転ゴールはCKから上田のヘディングが決まりましたが、その前の日本のゴールキックの鈴木彩艶の飛距離がポイントです。めちゃめちゃ飛んでアタッキングサードまでいった。これを上田が伊東に落として、クロスからCKになりました。
アディショナルタイムは6分ありましたが、日本はしっかりプレーして勝ちきりました。本当に歴史的な勝利だと思います。やはり今の日本のベースは、「いい守備からいい攻撃」なんですよね。自分たちがボールを保持して何をするかももちろん大事なんですけど、今の日本代表の特徴はいい守備をして高い位置で奪っていい攻撃というのが、一番いい流れなんです。
このブラジル相手に0−2から3−2に持っていけるのは、やはり実力がなければできない。ただ、これはなかなかできることではないですよね。
前半、あのミドルブロックとローブロックで構えたというチョイスは悪くなかったですけど、やはり重くなりすぎましたし、0−0で終えたかった。だからゲームの入り方、持っていき方は課題なのかなと思いました。