『ディストピア飯』の未来は来るのか? 昆虫食・ゼリー食・ブロックミール…etc “食事の幸せ”の正体を分子調理学者が語る

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2025年10月17日 12:11  ニコニコニュース

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 米5kg5000円。
 
スーパーに買い物に行くとその値段に驚きます。
 この状況を見て筆者はふと思いました。

 「このままいくと、米って普通に食べられなくなってしまうのでは?」

 いや、そもそも値上がりし続けているのはお米だけではありません。ありとあらゆるものが値上がりしています。
 こんなになにもかもが値上がりすると、一体何を食べればいいんだろう……という気持ちになります。
 私事ですが、米の高騰以降は主食の変遷がありました。まずは玄米に、続いてオートミールに、という感じに。
 安価なものに、安価なものへと主食を移していきました。
 そこでふと、思いました。

 もしもこのまま食の高騰が止まらなかったら未来の食事はどうなっているのだろう……?

 読者の皆さんは未来の食事と言われてどんなイメージを持つでしょうか?
 私の脳裏に真っ先に浮かんできたのは『ディストピア飯』でした。
 SF映画やアニメで定期的に出てくる、ドロドロしてカラフルな液体だったり…パサパサとしたブロック状の食事です。

ディストピア飯 引用:Wikipedia

 2025年現在のように気軽に米すら食べられない状態が続くのならば、いつか合理性や安さを求めてディストピア飯を食べる。
 このような未来も訪れてしまうのではないか。
 そうならないためにはわれわれはどうするべきなのか。
 そもそもディストピア飯が主食になるようなことは起こりえるのか。

 このモヤモヤを解消するために食事に関する専門家にお話を聞きに行きました。

 今回お話を伺いに行って来たのは、宮城大学食産業学群教授の石川伸一先生です!

宮城大学食産業学群 教授 石川伸一先生

 石川先生は食の未来の研究を日夜進めており、今後人が食べる食事や、代替食、環境が食べる人の心理に与える影響などさまざまな角度から食の研究をされています。

 インタビューの中では、フィクションの中で出てくるディストピア飯に関するお話だけでなく、数年前に世間を騒がせた昆虫食や、現在開催されている大阪万博でも展示されている培養肉に関するお話、どのようなことがあった時に人の食事は変わるのかなど多岐にわたるお話を伺うことができました。

 『ディストピア飯』とはなんなのか。その真相に迫ることができる本インタビューをぜひ最後までお楽しみください!

取材・文/メカ泉

■昆虫食が流行らなかったのは「イメージ」が理由

ーー今回の米価格の高騰はどう思いましたか?

石川:
 今回の米騒動みたいなのを見て、日本人ってやっぱり米が好きっていうか、食事の中心になっていることを感じましたね。

ーー実は今回の企画って、この米騒動が最初のきっかけで作り始めた企画なんです。
去年の終わりぐらいからスーパーに米がなくなっていくのを見ていて、このままだとSFの世界で出てくるような、いわゆる『ディストピア飯』になるんじゃないかとか、昆虫食が騒がれたのもあったりとか気になることがあって、この先の食生活ってどうやって変わっていくんだろう? と気になりインタビューにきました!

石川:
 スーパーの米の値上がりから、SFの世界のディストピア飯まで話題が結構飛躍しましたね。
 それでは昆虫食からお話しましょうか。
 数年前にコオロギ騒動があったじゃないですか。
 あの時、だいぶメディアでも取り上げられてコオロギ食の研究をしていた企業も倒産してしまいました。
 やっぱり日本人には昆虫食には根強い嫌悪感っていうか、拒否感があるなっていうのを感じましたね。
 私も昆虫食の研究もしてたので、応援したいなとは思ってはいたんですけど、学生に聞いても、『いや、絶対嫌ですって』いう人もいました。

ーーそもそも、もうコオロギを食べてる地域ってあるじゃないですか。ああいうところからも昆虫食は嫌という声は出るんですか。

石川:
 身近な食文化にイナゴの佃煮みたいのはあったとしても、別に常食してるわけじゃないんですよね。
 現在の普段の食から見たら昆虫食は特殊な食なので、ほとんどの日本人に馴染んでいないんです
 食文化があったとしてもほとんどの人には身近ではなく、結局なかなか食べないんですね。なので、食習慣がないところに昆虫食を持ってきても、やっぱり普及は難しいというのは思います

イナゴの佃煮 引用:Wikipedia

ーーコオロギの姿焼きみたいなのを見ると確かにあれを口にとは、なかなかならないのはわかりますね。

石川:
 コオロギを粉にしてパンに入れたとしてもどうしても嫌悪感がある人は当然いるので。
 食べたい人だけ食べればいいのにと思いつつも、反対する人は、そもそも売ることすらけしからんっていう感じになってしまいましたよね。

ーーどういった『嫌悪感』なのでしょうか。見た目的に、あれは食べ物ではないからってことなのか、アレルギーがあるからみたいな感じなのでしょうか。

石川:
 コオロギはエビやカニと成分が似ているので、似たアレルギー反応がでるっていうのはあるんですけど、やっぱり心理的に食べたくないのが大きいのでしょう
 先入観で気持ち悪いというのが先に来てしまう。
 虫自体、殺虫剤でやっつけるものってイメージあるので、それを食べようっていう発想すら嫌だっていうところじゃないかなと思います。
 しかし、東南アジアで常食として昆虫を食べてる地域の方たちにとっては普通の食なんです。
 ですので、地域差があってあまり食べてない地域で昆虫食の消費を伸ばそうと思っても、かなりの時間がかかるっていうことでしょうね。

 反対に言えば、長期的な視点で見れば、昆虫食も私たちの食生活の一部になる可能性は十分あるってことだと思います。

■実はもう身近にある『ディストピア飯』

ーー現状では昆虫食は難しいとなると、今回の企画の本題である、『ディストピア飯』に食事が変化していく可能性ってあるのでしょうか。これも拒否反応が出てしまって難しいような気がしてきました。

ディストピア飯 引用:Wikipedia

石川:
 コレ、実はもうなっていませんか。
 もちろんずっとディストピア飯みたいなのを食べてるわけじゃないですよ。「お昼ごはんは簡単な食で済ませたい」って時にゼリーで食事を済ませるみたいなことです。
 要はもうディストピア飯はもうあるんじゃないでしょうか。われわれの身近に(笑)。


おはようございます🌞

🧊🧊🧊 pic.twitter.com/7nszI1GmKw

— 森永製菓 inゼリー【公式】 (@in_jelly_) July 2, 2025

ーー確かに(笑) ブロックミールもゼリー飲料も皿に盛られて出てきたらディストピア飯ですね(笑)。

石川:
 ゼリー飲料は飲んでいるから許せるけど、皿に出されたらザ・ディストピア飯っていう(笑)。
 なので、食事がディストピア飯になるかは、未来じゃなくて現代にもその片鱗はもうあるっていうのが答えのような気がします。

■普通の食事をする人とディストピア飯だけを食べる人に二極化する可能性がある

ーーということは、デイストピア飯は急になるわけじゃなく、現在すでに存在しているから違和感を覚えることなくだんだんそういうものに置き換わっていくということになるのでしょうか。

石川:
 全ての人の食事が全部ディストピア飯になるという事はないのではと思っています。
 ゼリー飲料とかブロックミールで食事を済ませる人たちが増えていっても、これまでどおりの普通の食事を取る人も当然いて、食の二極化みたいなのが起こる可能性があると思います。
 この二極化は経済格差が原因になったりもするでしょうね。
 選んでディストピア飯を食べているならいいと思うんです。
 しかし、経済的に困窮して、もうそれしか買えなくてディストピア飯を食べているというのもあると思います。

ーー健康な食事取ろうとするとコストって上がりますもんね。

石川:
 ちゃんと自炊しようとすると、素材を無駄なく使うのに結構頭を使わないとといけないですからね。
 おそらくですが、人の食事ってすぐには変わらないと思うんです。
 小さいころ、食べたものを引き続き食べていくことになると思うんですけど、世代が変われば子供のころに食べた食事が変わる可能性があって、簡単なものを食べてきた人たちが大人になってから、手の込んだものを食べたくなるかっていったら、多分ならない。
 なのでなんらかの事情で最初から『ディストピア飯』を食べて育ったらそれが当たり前になることはあり得ます。

ーー実際に先生のところにいる学生でも、何かそういうふうに感じる話ってあったりするのでしょうか。

石川:
 やっぱり人間は食生活の変化を嫌うので、あんまり馴染のないものとか、先ほどお話しした昆虫食とかはあまり食べようとはしませんね。
 あと3Dフードプリンターというのがあって、3Dプリンターの食べ物版みたいなのですが、積層して新しい食品を作ったりするんですけど、そういうのを授業で話すと、『いや、そういうのは私はいいです。お母さんの料理がいいんで』って言われちゃうこともたまにあります(笑)。

一同:
 (笑)。

ーー先ほどおっしゃられた3Dフードプリンターってどんなものなのでしょうか。普通の3Dプリンターとの違いはあったりするのでしょうか。

石川:
 そのままなんですが、3Dプリンターの食べ物版が3Dフードプリンターですね。
 いわゆる普通の3Dプリンターみたいに積層して食材を重ねて食品を作るタイプとか、液体に粉末溶かしてそこにレーザーを当てて固めて立体化した食品を作るなどさまざま形の食品を作ることができます。
 使用する食材も捨てられてる野菜とかを、インクのカートリッジみたいにして積層して作ったりします。
 いろんな形の食べ物を作る可能性を秘めてるのが3Dフードプリンターですね。

■人間は基本的に新しいものを食べたがらない

ーーなるほどありがとうございます! 前知識がなくてわからなくなりそうだったので助かりました!
 話は戻るのですが、先ほど『食生活の変化を嫌う』というワードが出てきたのですが、もうこれはもう人類ずっとそうだったりするんですか。

石川:
 根底としてあると思います。
 なぜかというと、やっぱり新しいものを食べるって、安全上のリスクがあるじゃないですか。
 普段から食べてるものであれば安全に食べられるけど、ちょっと変わったものを食べようとしたとき、ひょっとしたら毒があるものかもしれないということをこれまでの人類は思ってきた。
 この、新しいものに慎重になるっていう心理はデフォルトで人間が持っています。
 しかし、一方で新しいものを食べたいっていう心理も同時に存在します。
 このバランスで人間の食生活は成り立っているんですけど、基本的には新しいものはあまり食べたがらないんです。
 やはり命の危機に陥るかもしれないリスクは避けたいっていうのが根底にあるんじゃないでしょうか。

ーー一方でフグを食べてくれる変わった人とかもいたわけですね(笑)。

石川:
 ただ、相当犠牲者は出たと思いますが、おかげで新しいものを食べていけるっていうのはあるので、食文化を広げるためにはリスクを冒す人は長期的に見れば大事っていうか……(笑)。

ーーキノコにしても、フグにしても、よく食べようと思ったなって感じですからね。

石川:
 いっぱいありますよね。何でこれ食べ始めたっていうもの。
 たとえばナマコとか、よく食べたなって思います。
 私は好きなので、最初に食べてくれた人には感謝です(笑)

ナマコ酢■『価値観』の変化次第ではSF映画のようにワームを食べる可能性も

ーー挑戦者がいたことで『価値観』に変化が生まれて食文化が拡がるという事は、遠い未来だったら、SF映画みたいに『ワーム』を食べるってこともあり得るんですかね。

石川:
 かなり世代が変わるとあり得るんだろうなっていうのはありますよね。
 先ほどお話ししたように何世代も何世代も経過していくと、ワーム食もスタンダードになっていくこともあると思います。
 基本的には食べられる種類のものって、今後増えていくとは思うんですよ。
 ただ、人によって『価値観』にばらつきがあって、完全食だけでいいっていう人もいれば、今までどおりな食事を望む人もいるし、選ぶのが大変になってきています。

 介護食の3Dフードプリンター研究をしている山形大学の古川英光先生と共同研究させてもらっているんですけど、わざわざ食品を作るにはやっぱり特殊なものを作らないと意味がないので、最初は介護食とか、そういう分野からだんだん一般食を目指しています。
 しかし、現状機械が高いとか、1個作るのに時間がかかるとか、まだ費用対効果が低いので普及していません。
 単純に今抱えている問題が解決されて、家庭に3Dフードプリンターがあるようになれば普及するかっていうとそれもまた難しい問題があります。
 結局、どういうものを食べたいかが関わっています。
 食に人は何を求めるのか。利便性なのか、栄養なのか、おいしさなのかみたいな。
 すごくいっぱい『価値観』がぐじゃぐじゃっとしてるのが食の分野。全然予想がつかないんです。

ーー『価値観』が重要ということは、食に『楽しさ』を求めることもある気がするのですがどうでしょうか。たとえばウナギは『土用の丑の日』のように一つのイベントになっています。しかし、同時に絶滅が危惧されているのがウナギです。そのため、そのうち絶滅してしまった時に、人々はウナギを再現するようなこともあるのではないでしょうか。

石川:
 ウナギもどきみたいなのはもうありますけど、今はかなり再現性は高くなっていますよね。
 これはだんだんもどきのほうががメインになってくる可能性もあるなと思っていて、たとえばカニとカニカマなんてその代表格です。
 もともとはカニカマはカニに寄せられて作ったんですけど、今はカニの代わりとしてカニカマ食べてるわけじゃなくて、カニカマ食べたいから食べるようになりましたよね。


スペインで一番上手くいっている「フードテック」はおそらくこれでしょう。
うなぎの稚魚(もどき)の「LA GULA」。… pic.twitter.com/MqgCOpPR2e

— 石川伸一 | ISHIKAWA Shin-ichi (@ShinIshikawa) April 22, 2024

ーーたしかに、もはやカニカマが食べたくて選んでいますね(笑)。

石川:
 ウナギもどきみたいなのも、いずれウナギ自体が捕れなくなった時、ウナギもどきが食べたいから、それを食べるみたいな。
 ウナギよりもウナカマだみたいなものも出てくるんじゃないかなと
 ウナギが失われたらウナギもどきがある意味メインになるわけですから。それはディストピアなのかもしれないですけど。好きで食べていれば良いのではないかと思います。

■肉や魚が食べられない未来が来る可能性があるかもしれない

ーーウナギが絶滅してしまうかも……、のように減ったりなくなってしまう食べ物って他にはあるのでしょうか。

石川:
 食べ物の中で将来何が足りなくなるかというと、たんぱく質源である肉とか魚が先に足りなくなる可能性が心配されています。
 それに備えて今、動物性たんぱく質じゃなくて、ダイズミートみたいな植物性たんぱく質で作ろうとしているんですね。
 肉が食べたければ、肉は食べられなくとも、必死でそれに代わるようなものを作っているわけです。

ーーたんぱく質源だけがなくなってしまうのでしょうか。それとも、なくなってしまう栄養素の筆頭がたんぱく質なのでしょうか。

石川:
 たんぱく質資源が筆頭ですね。比較的、穀物とか油は作りやすいんですけど、牛とか魚って、育てないといけないのでたんぱく質の生産はどうしてもコストがかかります。
 育てるにも餌も必要なのでさらに難しい。そういうたんぱく質を、所得が上がってくると世界中の人たちは食べたくなる。
 人口増加だけじゃなくて、中国や東南アジアのように所得が増えて中流階級の人たちが増えると肉や魚を食べ始めます。
 このようにして需要が増えると世界的にたんぱく質の価格が高騰して、将来的には不足すると考えられています。

ーーお金を持ちだすとたんぱく質を食べたくなるって、どういうことなのでしょうか。

石川:
 日本も同じだったんですが、昔の人は今の人の倍以上お米を食べていました。
 しかし、所得が上がるにつれてだんだん食の西洋化が起こり、肉を食べたい人が増えていったんです。
 こういった現象が世界中で起こるので肉や魚の消費は伸びていきます。
 これが世界中で起ると、確実にたんぱく質が足りなくなると言われています。
 実は、肉を食べようと思っても食べられないっていうのは現時点でちょっとずつ起こってきています。
 そのため牛とか豚とか魚とかじゃないものでたんぱく質を作るにはっていう研究が今、本当にいろんなとこでされているんです。

ーーそれの一つが昆虫食だったってことですよね。
話がちょっと飛躍するのですが、たんぱく質がなくなっていったときに有名な傑作SF映画、『ソイレント・グリーン』みたいに人間をドリンクにして飲むみたいなことは起こりえるんでしょうか。倫理的にあり得ない気はしますが……。

ソイレントグリーン 引用:Amazon

石川:
 ソイレントグリーンって1970年代の作品だったということもあると思います。
 当時のほうが、人口増加とか食べものがなくなるという危機感が強かったことから人をドリンクにするというぶっとんだストーリーになったんだと思うんですね。
 じゃあ今、そのころみたいな危機感があるのかというと、どうなんですかね。何とかなるんじゃない?っていうのが強い気がします。

 実際、食料生産力はどんどん上がっていっていったので、現状、食べる量と生産する量がほぼ釣り合ってるんですけど、それを経験してるんで、これからも恐らく何とかなるんじゃない?っていう楽観的な空気感が世の中にあるんじゃないかなと思いますね。

ーーさすがに倫理的なものもあるし、いくらなんでもありえないですよね

石川:
 なにより人間はたいしておいしくないと思うんですよね(笑)。

■遺伝子の調整で育ちやすい魚を作る技術はもうある

ーー動物のクローンて食料としてはどうなんですか。たんぱく質足りない問題の解決になるのでは。

石川:
 クローン技術ではないですが、ゲノム編集という技術があるんですけど、それはたとえば魚の遺伝子を調整することで成長をスピードアップさせることができるんです。
 それだけではなく、餌も少量でとか、体がちょっと大きくなるとかも調整することができて、マダイなどでこれをやってる会社さんがいます。
 なので、新しい食の技術はもう現実的に社会に出ています。


鯛の養殖技術が進化しています。近大は何世代も親魚を選抜し成魚に育ちやすく改良。ゲノム編集した鯛の陸上養殖もできるように。養殖で「真鯛大国」を目指す日本の未来とは。
5日付特集「鯛を科学する」https://t.co/Fw1jLDk1c7#nikkeithestyle#赤坂水産#近畿大学水産養殖種苗センター#22世紀鯛 pic.twitter.com/CEv34UFps0

— NIKKEI The STYLE (@NIKKEITheSTYLE) January 5, 2025

ーー身のつきかたが2倍になるみたいなことでしょうか。

石川:
 はい。そういうことも可能です。
 ゲノム編集で遺伝子を弄るわけではなく、すでにあった遺伝子を技術で編集する技術です。
 ただ、ゲノム編集で作られた生物を食べることやっぱり抵抗感を持つ方はいらっしゃるようで、環境にいいことや、成長スピードも上がって味もおいしいという事を伝えても、その技術自体が嫌ですと言われることもあるでしょうね。

■新しい代替肉の可能性『培養肉』

ーーこれも個人の『価値観』が強く影響していそうですね。ここまでたんぱく質が不足する可能性があるから代替たんぱく質を作る技術を説明していただいたのですが、今一番代替たんぱく質として期待されてるものってなんなのでしょうか。

石川:
 いっぱいあって、ジャンルとしては植物性のものが多いです。
 基本的には豆類、大豆とかインゲンマメで肉を作るというのがあります。
 もうすでに私たちは豆類から作られた食品は食べているので、これはこれからの代替肉としてメジャーなものです。
 他には培養肉があります。牛などから細胞だけを取ってきて、それを培養装置の中で増やして肉にするっていうのもです。

 現在さまざまなところが研究はしているのですが、今のところ培養液とか電気代とかのコストがかかりすぎます。


当社が参画する「培養肉未来創造コンソーシアム」が、本日、大阪・関西万博(©Expo 2025)の大阪ヘルスケアパビリオンにて、
CULTIVATED MEAT JOURNEY 2025を開催しました🎪

3Dバイオプリントによる #培養肉 をステージで焼き、参加者に香りを体験いただきました。 pic.twitter.com/QTRME3SLXs

— 島津製作所 / Shimadzu Corporation (@SHIMADZU_PR) July 8, 2025

ーー細胞から作るとのことですけど、どんな感じで増えるんでしょうか。カスピ海ヨーグルトみたいな感じなのでしょうか。

石川:
 イメージ的にはタンクの中で、理科の授業で見た細胞分裂みたいにばーっと増えていく感じです。ただ細胞はほにゃほにゃっとしているので肉の形にしないといけないっていうのが難しいですね。
 他にも細胞ではなく、お酒を作る麹菌のような微生物を増やして、その菌を集めてナゲットみたいなのを作っているグループもあります。
 藻類のユーグレナもたんぱく質が多いので、これを増やして藻類から肉をみたいな作ろうっていう動きとか、さまざなな代替肉作りが行われています。

ユーグレナ藻 引用:Wikipedia

ーー海藻類で肉を作るって『ドラえもん』でそんな道具ありましたね。もう昔の人が考えてたSFのようなことが現実になり始めてるんですね。

石川:
 なり始めてますね。まさに『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』で出てきた培養と3Dプリンターみたいなのも授業でよく使ってるんです。

大長編ドラえもん のび太の海底鬼岩城 引用:Amazon

 これは海底でキャンプして食事をするシーンで出てきたのですが、食べたいものはかつ丼とかどら焼きとか、お子様ランチとか普通なんですけど、作り方が海底クッキングマシーンを使っていて、原料は海のプランクトンを使って食べ物を作るんです。ある種、これが現実化しています。

ーー確かにさっきの培養肉の話ですね!

石川:
 まさにそのとおりで培養肉はこういうコンセプトで作っているのでしょう。

ーーこれはなんか拒否感がでないですね。

石川:
 拒否感の『境』はやっぱりあって、この培養肉を作っている過程が見えないブラックボックス化しているのがいいんですかね。
 このチンッて音がすると、プランクトンが肉になっています。
 食品になる過程が見えないのがいいのか、プランクトンを培養している特殊な技術じゃないっぽいのが受け入れやすいのか……。
 培養肉研究をしている人たちも、『培養肉』の言葉のイメージが良くないのか、『培養肉』という言葉を使わずに、『細胞性食品』といった言い方で表現することをされています。

■食には『見た目』も重要!

ーー確かにイメージとか見た目って大事な気がします。自分で作るものならともかく外食するものなら見た目もきれいであってほしいです。

石川:
 見た目は大事ですよね。見た目を全く気にしなかったらディストピア飯ってイメージがありますね。
 たとえば万博に出てる培養肉って、しましまの白と赤の格子模様とかあるんです。
 そういうの作れるけど、じゃあそういう格子模様の肉を食べたいかっていうと、多分食べたくないだろうなと。


▼大阪・関西万博、編集部おすすめのパビリオン

大阪ヘルスケアパビリオンもよかったです。ステーキ培養肉の展示がありました。採取した牛の細胞を培養して、それを3Dプリンターで出力するんです。(瀧本) pic.twitter.com/knrTTvveoH

— WIRED.jp (@wired_jp) April 19, 2025

一同:
 (笑)

石川:
 じゃあ普通の肉に寄せて作ればいいのかっていうと、それはそれで既存の肉と差別化が取れないんですよね。
 まさにカニとカニカマで、カニカマはカニじゃないけど、近づけて食べられてるみたいなのを肉の培養肉でもやりたいって研究してる方はいます。
 肉を超えたいと、『超肉』を作りたいんだっていうんですよ(笑)。

ーー培養肉って、てっきり普通の赤身肉と同じような感じに作ればいいのかなって思ってたんですけど、そういうわけでもないんですね。

石川:
 それはスタートだと思うんです。
 あんまり変な形とか色のを作っちゃうと食べてくれないので、現状は既存のお肉に寄せて作るしかないと思うんですけど。
 それだったら普通の肉でいいじゃんってなってしまうんですよね。
 3Dフードプリンターで作るなら個人個人に合わせて足りない栄養素を補ったり、グッとくるデザインのものを作ることができるので、この特徴を有効活用したいですね。

■3Dフードプリンターで作られる食事は『究極の未来飯』

ーー個人個人に合わせて作れるとなるとなんだか一気に『未来飯』という感じになりますね。

石川:
 究極の未来飯じゃないかと私は思ってはいます。
 しかし、それをディストピア飯と思う人がいるのも事実です。
 いろんな方とかに話しても『やっぱり機械で全部作られると嫌なので、最後の盛りつけぐらいは人にしてほしい』って言いますからね。
 完全機械化は嫌だって。温もりを求める人にとっては3Dフードプリンターの食事はディストピアだろうなと思います。

ーー現状の培養肉って口に入れたときに食感に差はあるんですか。

石川:
 それも作り方しだいで、やっぱり普通のお肉と同じ食感であってほしいですか。
 それとも本物とは別のものになってほしいですか?

ーー難しい質問ですね……すき焼きとかステーキだったら、舌に載せたときのあの感じと、あと、かんで肉汁が出る感じとか求めたいけど、ビーフジャーキーとかだったら、別に食感は気にしないかもしれません。

石川:
 料理によって求めるものが違うという事でしょうか。
 なんというか、現代人って食への期待がどんどん高まっているんですよね。
 なので、予想を下回るとみんな悲しくなってしまう。期待値をもうちょっと下げたほうが人は幸せになるんじゃないかってくらいに。
 幸福の基準みたいなのを少し下げて、ぱさつく植物性ミートでも頑張って作ってるから、これも新しい肉の一つなんだというスタンスでいれば、新しくはないけど普通のステーキになるかもしれません。
 動物の肉と同じ基準を求めちゃうと、あらゆるものがディストピア飯に感じてしまう。
 結局は心持ちしだい、ディストピアにもなるし、ユートピアにもなるみたいな。

ーー食に対する当事者意識や価値観が『ディストピア飯』を決定づけるのかもしれませんね。

石川:
 そうですね。自分がハードルをどこに設定するかで、食べるものがディストピア飯なのか、そうじゃないか決まるのかもしれません。

ーー『ディストピア飯は人の価値観で決まる』これはインタビューさせていただけていなかったら気づけない答えでした。もしかしたら、アニメやゲームに出てくる『ディストピア飯』も私たちの今の値観で見るからディストピア飯なのかもしれないですね。

石川:
 私たちから見るとディストピア飯に見える食事は、出てくる世界では普通の食べ物なのかもしれません。
 おそらくその世界の人にしたら失礼な話ですよね、当たり前のものを食べているだけなのに『ディストピア飯』だと思われてしまう。
 食に対する価値観は時代とか人によって全然違うので、それを多くの人に知ってもらえると嬉しいですね!

ーー『多くの人に知ってもらえると嬉しいですね』というワードが先生から出てきたところで、もっとこういうことを知っといてほしいなとか、こういうことを意識してると、何か食の世界とか未来の見え方変わってくるよみたいな話があったら、お聞かせください。

石川:
 はい。大学1年生で基礎ゼミっていう、少人数教育があるんですが、そこで好きな食べ物とか聞くと、人によって全然価値観が違うなっていうのを感じ取れます。
 その時に食の価値観が人によってばらばらだって気づくんです。
 普段の生活では気づかないけど、たとえば、カレーのおいしいポイントみたいのが手作りだからおいしいのか、単にスパイスがおいしいのか、手軽だからおいしいのか、掘り下げると人によって全然違うので、そのあたりは気づくと人って割と多様だよみたいのがわかります。
 そういうところを知ってもらえるとありがたいです。

ーーありがとうございました!

 『ディストピア飯』は人の価値観が決めているのではないか、という結論に落ち着いた今回のインタビュー。
 これはここ数年世間を騒がせた昆虫食や、万博で展示されている培養肉にも同じことが言えるのではないでしょうか。
 この現象は、海外旅行に行ったときに現地の食事が口に合わなかった時に感じた気持ちにも通ずることのように筆者は感じました。
 ものすごく甘い味付けであったり、酸っぱかったり……etcこれらは食事なのかと思ってしまう事は『価値観』によってもたらされているように思いました。
 『食の未来』について他の誰かにも話してみてはいかがでしょうか。
 『価値観』に変化が生まれるきっかけになるかもしれません。



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