サラダ専門店が経営データ公開 「情報流出? いえ、意図的です」

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2025年10月21日 05:20  ITmedia ビジネスオンライン

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クリスプサラダワークス 虎ノ門ヒルズ店

 サラダ専門店「クリスプサラダワークス」を展開するCRISP(東京都港区)が、売上高や客数、アプリユーザーの離脱率、顧客満足度などのデータを公式Webサイトでリアルタイムに公開している。


Webサイトで経営データを公開


 例えば、9月の売上高は2.9億円、最も売り上げが好調だった店舗は渋谷スクランブルスクエア店、全店での注文単価は1848円、アルバイトの平均時給は1316円だった。


 「ここまで経営データを公開して大丈夫なのか?」と心配になる人もいるかもしれない。狙いについて、CRISPの宮野浩史社長に話を聞いた。


●経営データを“丸見え”公開


 クリスプサラダワークスは、都心を中心に40店舗(2025年10月現在)を展開するカスタムサラダ専門店だ。1000〜2000円程度のサラダに、好みのトッピングを追加して注文できる。


 経営データを公開する理由について宮野社長は、「外食業界全体を変えたいという思いがある」と話す。その原点は、2014年12月にオープンした1店舗目での経験だ。開店直後から客足は好調だったが、人気が出るほど行列が長くなり、提供時間が延びて顧客体験が損なわれた。「いい店を作っても、混雑で悪い店になってしまう」と感じたという。


 米国の高校を卒業した宮野社長は、「海外と比べて、日本の飲食店の方が味も接客のサービスも優れているのに、経営的には苦しむ会社が多い」と振り返る。その要因の一つに「テクノロジー活用の差」があると考えた。


 「テクノロジーさえ使いこなせれば、日本の外食業界はもっと魅力的で、世界でも戦えるような業界になる」と宮野社長は語る。機械にできることは機械に任せ、スタッフは顧客を笑顔にすることに集中する。そんなDXを軸とした経営で業界を変えたいという。


 宮野社長は、「外食業界では、勘と経験が重視されがちです。私たちはデータトリブンな会社を目指した際、提供スピードやアプリの利用回数が業界的にどの水準なのか分からなかった。だから、私たちのデータを公開することで、今後の外食業界にDXのカルチャーが浸透して行く上で、参考にしてもらえればと思った」と話した。


 データ公開のもう1つの狙いは採用だ。データ活用の実態をオープンにすることで、異業種の人材に「ここなら力を発揮できる」と感じてもらうきっかけにしたいという。実際にITや金融、コンサルなどからの転職も多く、本社では営業部門を除き、外食経験者はほとんどいないそうだ。


●モバイルオーダーだけでない、シームレスなDXが強み


 CRISPでは、注文や販促、商品開発、店舗運営、働き方などの分野でDXを推進。2019年と比べて、2024年の店舗当たり売上高は39%増、人件費率は8ポイント減、店舗利益率は10ポイント増となった。


 同社のDXを支える柱の一つが、2017年から導入したモバイルオーダーアプリだ。「利用客が増えると、スタッフがお客さま一人一人を把握するのが難しくなる。でも、アプリであれば登録ニックネームや来店頻度が分かる。スタッフは名前で呼び掛けられる」と宮野社長は説明する。


 また、アプリには評価機能があり、年間20万件に上る顧客フィードバックを収集。商品のリピート率や原価率などを掛け合わせて、商品開発に活用している。例えば、高価格帯のコブサラダ「サウスウェスタン・コブ」(Mサイズ2054円)に一定の人気があったことを踏まえ、低価格帯のコブサラダ「クラシック・チキンコブ」(Mサイズ1498円)を開発。結果として全体2位にランクインするような人気商品になったという。


 宮野社長は「外食業では経営者の経験や勘でメニューを作ることも多いですよね。でも、僕らはデータを軸に開発します」と話す。


 そうは言っても、最近ではモバイルオーダーを導入している飲食店も増えている。宮野社長によると、CRISPの強みはモバイルオーダーそのものよりも、店舗全体をシームレスにDXしたことにあるという。


 例えば、クリスプサラダワークスではアプリや店頭のセルフレジからの注文だけでなく、UberEATSや出前館といった外部デリバリーサービスなども含めた全ての注文を1端末に統合。スタッフは届いた注文を順番通りに調理するだけでよく、オペレーションが大幅に効率化された。


 「多くの飲食店ではデリバリー注文が別端末で管理され、伝票も異なります。うちでは全ての注文が1画面に統合されていて、順番通りに作るだけで済む」という。実際に、提供時間は4年間で平均7分から3分半に短縮し、1時間当たりの提供数は160食に増えたという。同規模の競合と比べると、通常は常に行列ができている状態でも1時間当たり50〜60食の提供が限界だといい、クリスプサラダワークスはその3倍程度だ。


 宮野社長によると、「外食事業者として優れたオペレーションモデルを作れていること」も強みだという。クリスプサラダワークスの平均単価は1800円前後。高付加価値の商品を小型の店舗で効率良く回転させる経営モデルが、飲食店として成功させる秘訣(ひけつ)だそうだ。


●DXは業務効率化のツールではない


 宮野社長は「多くの企業はDXを『業務効率化のツール』として使うが、僕らはDXこそが経営の根幹だと位置付けている」と語る。


 レジ自動化や在庫管理のシステム化で効率は上がるが、その裏で新たな課題も生まれる。例えば、これまで「レジ打ちが早い人」が評価されていた現場でレジが自動化された場合、その人の評価はどうなるのか――。DX導入で終わりではなく、組織設計そのものを見直す必要があるという。


 では、外食業向けのDXサービスは数多くある中で、なぜCRISPは自社開発を徹底しているのか。その理由は「他社のSaaSではデータ連携が限定的だから」だという。


 一般的なSaaS企業が、サラダのトッピング配置や注文レイアウトといった現場オペレーションまで踏み込むのは難しい。店舗ごとに条件が異なるため、画一的なサービスモデルでは収益化が難しいからである。


 自社開発であれば、顧客満足度や従業員エンゲージメント、売り上げ、利益など経営全体を一体的に最適化できる。例えば、「時給の高いスタッフがいた時間帯に顧客満足度が上がるのか」といった検証も可能になったという。


 CRISPは、2027年度末に時価総額300億円以上での東証グロース市場上場を目指す。既存店の成長や新規出店、M&Aなどによって、目標を達成する狙いだ。9月にはアジフライ専門店「トーキョーアジフライ」と事業譲受契約を締結し、新業態にも乗り出した。


 「テクノロジーを使えば、もっと世界で戦える魅力的な会社はたくさんある。今の僕らでは、テクノロジーを使ってうまくいっていますと言っても業界を変えられない。業界を変えられる立ち位置を目指す」と宮野社長は意気込んだ。



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