肌寒さを感じる時節になり、確実に時間が進んでいることを実感させられる。Xに8月31日に投稿された『8月32日は来ないから』は、夏が過ぎ去っていくことの切なさを感じさせる作品だ。
7月の終わり、仕事を長く休むことを決めた瀬里の家に、大学時代に保育園でのバイトで知り合った、近所に住む小学4年生・なずなが訪れる。学校の宿題ではなく、個人的にアサガオの観察日記をつけたいものの、母親には知られたくないという理由から、瀬里の家にプランターを置いてほしいと頼む。これを瀬里は承諾し、大人と子どもが触れ合う不思議な夏休みが始まる――。
ノスタルジックさがありながらも、胸を締め付けるリアリティも映し出されている本作を手がけた春野ユキトさん(@harunoyukito)に、制作秘話などを聞いた。(望月悠木)
■セリフやモノローグで過剰に説明しない
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――今回『8月32日は来ないから』を制作した経緯を教えてください。
春野:「月刊コミックビーム」の編集さんから、読切漫画制作の声をかけてもらいました。「基本的には自由に描いて良い」とのことだったので、メモしていた漫画のアイデアの中から、なんとなく本作を選びました。
――少女と成人女性の交流を描いた内容でしたね。
春野:そのメモでは、少女と青年という設定でした。ただ、「何か違うな」と思い、今の形に変わりました。
——アサガオの観察を軸に展開されるストーリーでしたが、どのように組み立てていきましたか?
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春野:大まかな流れはアイデアメモに書いてあり、それをベースにプロットを作りました。プロットを進めていると、頭の中で勝手にストーリーが動いていくので、論理的に組み立てたというよりは、流れに任せて決めていった感じです。
——「瀬里は8月をゲームに没頭して過ごす予定だったのだな」というように、細かいところまでイメージができる奥行きのあるストーリーになっているように感じました。
春野:本作に限らず、セリフやモノローグで説明をしすぎず、読み手に想像してもらう余白を残すようにしています。
■ジメっではなくカラっとした夏
――瀬里となずなはどのように作られたのですか?
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春野:どちらも自然に生まれたキャラクターです。また、瀬里はハンサムな雰囲気の女性にしたかったので、髪型や顔立ちを意識したビジュアルにしています。
——楽しそうな表情、やるせない表情など、さまざまな2人の表情が描かれていましたね。
春野:これも本作に限らずですが、表情を描くのがとても好きなので、そのキャラクターの心情の機微を明確に感じ取れる表情を描くように意識しています。
——ここ数年多い“ジメっとした夏”というより、“カラッとした夏”の印象が強かったです。
春野:実家の周りが木々に囲まれていたのですが、小学生のときの夏休みにプール授業で起きる朝、窓から入ってくる夏の朝の澄んだ香りが好きでした。今の夏はつらすぎて「好き」とは言えなくなってしまいました。ただ、子ども時代に感じていた夏はどこか透明感があり、風が涼しくカラッとしていて好きだったので、その記憶の中の夏を描いているのかもしれません。
――今後はどのように漫画制作を進めていきたいですか?
春野:「生きている限りは、ずっと漫画を描いていきたい」と思っています。また、自分の漫画が映像化されたあかつきには、好きなアーティストに曲を提供してもらうことが、今いちばんの目標です。さらに、10月下旬より「コミックDAYS」で新連載を予定していますので、こちらも読んでもらえると嬉しいです。
■春野ユキト
第80回ちばてつや賞一般部門 大賞受賞
講談社より『秋葉原はユーサネイジアの夢を見るか?』全3巻発売中
2025年10月下旬に講談社「コミックDAYS」より新連載開始予定!
(文・取材=望月悠木)
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薬屋のひとりごと 劇場版制作(写真:cinemacafe.net)98
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