
M5チップを搭載する新型「14インチMacBook Pro」は、AIの処理能力という新しい価値軸においてデスクトップ級の演算能力を実現している。発売に先んじて評価してきたが、AIだけでなく全方位におけるパフォーマンス向上と、それがもたらす快適さに驚くばかりだ。
M5チップ搭載モデルが最新の「Thunderbolt 5(USB4 Version 2.0)に対応していないことは場合によってはマイナスかもしれないが、対応機器の価格や普及状況を考えると、現時点では大きな不利というわけでもない。
Thunderbolt 5ではないと転送が間に合わない大容量データを日常的に扱うのでなkれば、M5チップ搭載の14インチMacBook Proは幅広いビジネスパーソンや個人クリエイターにとってベストチョイスなMacに仕上がっている。
●体感性能の改善につながるCPU性能の向上
|
|
|
|
動画視聴やオフィスアプリなど、PCを使った日常的な作業に限っていうと今日のPCは実用に十分な性能を備えている。そんな中でも、M5チップのCPUコアはシングルコアにおいてかなり高い性能を確保している。
「Geekbench 6」でシングルコアのベンチマークテストを行うと、M5チップのスコアは4263ポイントとなった。先代のM4チップモデル(3784ポイント)から約13%の性能向上で、PC向けCPUの中でもトップクラスだ。わずか1世代で大きな改善を見せている。
アプリの起動速度、Webページの読み込み、ファイルを開く際の反応速度、そして日常的な操作におけるキビキビ感は、概ねシングルコア性能に依存する。マルチコア性能がエンジンの総出力だとすれば、シングルコア性能は加速力だ。
日常使用において、M5チップ搭載の14インチMacBook Proは加速力の高まりを十分感じられる。
M5チップでは、CPUのマルチコア性能も大幅に強化されている。4基構成の高性能コア(Pコア)の改良の効果が大きいのだが、6基構成の高効率コア(Eコア)も侮れないパフォーマンスを備えている。
|
|
|
|
Geekbench 6のマルチコアテストでは、これら10コアの合計で1万7862ポイントを記録した。先代のM4チップモデル(1万4726ポイント)から約21%の高速化だ。これはAppleがうたう「マルチスレッド性能はM4比で最大20パーセント向上」と合致する。
そしてこのマルチコア性能は、過去の上位モデルに匹敵する水準に達している。M3 Proチップモデル(1万5257ポイント)は余裕で上回っており、かつてのハイエンドチップであるM1 Ultraチップモデル(1万8405ポイント)に迫る。CPUを使ったレンダリングをテストする「CINEBENCH 2024」では、10コアCPUのM5チップは、12コアCPUのM3 Proチップモデルのスコアを12%上回る。
個人的にはCPU性能をあまり追いかけなくなっていたが、ここまで性能が違うとなると、開発者やクリエイターだけでなく、データ分析を行うビジネスパーソンや、複雑なスプレッドシートを扱う経営企画担当者にとってもプラスとなるだろう。
●「AI」ばかりに注目していては見誤るGPUコアの性能向上
M5チップのGPUコアの性能について、AppleはM4チップ比で「プロ向けアプリでグラフィックス性能最大1.6倍、ゲームにおけるフレームレートも最大1.6倍向上」とうたっている。
|
|
|
|
実際にGeekbenchでMetal APIのGPUベンチマークテスト(Compute)をやってみたところ、M5チップのスコアは7万6700ポイントで、M4チップ(5万6000ポイント)の1.36倍となった。「思ったほどではない」と思った人もいるかもしれないが、性能向上率は処理内容によって大きく違っており、中にはAppleの言う通り60%程度の性能向上が見られる要素もある。向上率が低い要素でも、スコアは少なくとも30%アップしている。平均すると3〜4割のパフォーマンスアップといったところだ。
M5チップのGPUコアには、新たに「ニューラルアクセラレーター」が内蔵された。Appleによると、ニューラルネットワークを用いた推論処理をGPUで行う場合、ピーク時の性能がM4チップ比で4倍以上、M1チップ比で6倍以上と、飛躍的な向上を実現する。
生成AIをM5チップでローカル実行できる利点は、必ずしもプライバシーだけではない。繰り返し試行する場合、ローカル処理の応答性が高まる。もちろん「最後は高品位にクラウドで」ということもあるだろうが、今後は少なくとも試行錯誤のプロセスはオンデバイスで行うことが多くなるだろう。
もちろん、グラフィックス処理そのものも強化されている。ハードウェアレイトレーシングエンジンは第3世代となり、リアルな陰影描写を高速化している。レイトレーシング利用時のグラフィックス性能は、M4チップ比で最大45パーセント向上したという。
加えて、総合性能に大きな影響を与えていると考えられるのが「Dynamic Caching(動的キャッシュ)」だ。メッシュシェーディングのアクセラレーターと共に新世代となり、負荷の高い3Dレンダリングやゲームでも処理のオーバーヘッドが削減され、平均GPU利用率を高め、効率的に性能を引き出せるようになった。
例えば、いよいよmacOS版が登場した「Cyberpunk 2077」は、M5チップでより滑らかかつリアルな映像表現を実現している。
●AI処理能力の飛躍が示す可能性
とはいえ、やはりM5チップの本分はAI処理能力の高さにあると考える。
M5チップのNPU「Neural Engine」は16コア構成で、そのアーキテクチャに変わりはなく共通だ。Appleは「これまでで最速のNeural Engine」とうたっているが、クロックの向上やメモリ帯域の拡大で総合性能を高めているようだ。
Geekbench 6のCore MLベンチマークを細かく見ると、画像認識タスクのスループットはチップ比で2.5倍以上となっているのだが、これは先述のGPUコアに追加されたアクセラレーターによるところが大きい。
「Stable Diffusion」を用いたテキストからの画像生成や、大規模言語モデル(LLM)のローカル実行が格段に高速になっていることは確認できた。ただし、筆者がテストした製品は16GBメモリの構成であり、20Bクラスのより広大なLLMモデルは動かすことができなかった。
Appleは「毎日のAIワークフローを究極のレベルへ」として、大学での講義録音の文字起こしからクリエイターのAIツール活用、ビジネス分析でのローカル機械学習まで、幅広い用途で恩恵があるとしているが、これは今後の評価に任せたい。
一方で、「macOS Tahoe」に統合されたApple Intelligence機能では、M5チップの強力なAI処理能力を存分に味わえる。FaceTimeビデオでは通話中にライブ字幕が生成されるが、これは応答性を重視して音声認識と翻訳がオンデバイスで行われる。
写真の被写体認識は実感することが少ないだろうが、「Image Playground」(画像生成アプリ)での顔の表情や髪型の変更処理など、ちょっとした操作が滞ることがない。
ネット接続が不安定な環境でも、あるいはセキュリティ上の理由でクラウドにデータを送信したくない場面でも、動作条件を意識せずにAI機能を利用できることが、オンデバイス処理の良いところだ。
●ストレージの速度向上は体感速度の向上に寄与
実際のところ、M5チップ搭載の14インチMacBook Proの体感速度向上には、演算パフォーマンスの改善だけでなくシステム全体でのデータ転送速度の向上も寄与している。
メモリ帯域幅は、M4チップの毎秒120GBから約30%引き上げて毎秒153GBになった。これはM3 Proチップの毎秒156GBに近い値だ。この性能向上は、CPUやGPUなどが必要なデータに滞りなくアクセスできるように“詰まり”を減らすための対策となる。
そしてメモリ帯域の拡大以上に効果のある改良がストレージパフォーマンスの強化だ。M5チップ搭載の14インチMacBook ProのSSDについて、Appleは「前世代比で最大2倍の高速化」とアナウンスしている。
実測値として、シーケンシャルの読み出しは最大毎秒6.5GB、書き込みは最大毎秒8.3GB程度を記録した。特に書き込みは安定しており、シーケンシャルであれば常に毎秒6.5秒をキープできる。
動画プロジェクトを外付けストレージでやり取りする場合、昨今は4K/8Kといった高精細(≒大容量)のデータが当たり前になってきた。4分の転送が2分に短縮されると考えると、何度も繰り返せば違いは大きい。
M5チップ搭載の14インチMacBook Proはシリーズのエントリーという位置付けなのだが、Apple Storeなどにおけるカスタマイズ(CTO)モデルではSSDの最大容量が2TBから4TBに引き上げられた。ただし、4TB構成へのアップグレードには約12万円の追加費用がかかるため、コストと必要性を慎重に検討する必要がある。
●バッテリー駆動時間の延長が実現する、真の「モバイルワークステーション」
M5チップ搭載の14インチMacBook Proのバッテリー駆動時間は、メーカー公称値で最大24時間だ(動画再生時)。これはM4チップモデルよりも3時間長い。
もちろん、実際のバッテリー駆動時間は使用環境によって大きく変動する。実際のところ、M4モデルであっても実利用環境で50%程度のバッテリー残量まで減らすのに苦労した(つまり、なかなか減らない)。M5チップモデルも、ACアダプターを持ち歩くことなく1日使用できることは間違いない。
バッテリー駆動時間が延びた背景には、M5チップが3mnプロセスを採用したことによる省電力化に加え、バッテリー容量のわずかな増加(70Wh→72.4Wh)もある。性能が向上したのに消費電力が削減されたということは、いわゆる「ワットパフォーマンス(ワッパ)」が良くなったということでもある。
「そんなにパフォーマンスは必要はない」という人もいるだろうが、GPUを多用する動画編集のフィルター、AIを活用した音声トラック処理や、GPUを使った画像生成などを頻用する際にバッテリーことをあまり気にしなくてもいいのは、実感としてありがたい。
ビジネスユースはもちろんだが、モバイルでのクリエイティブ作業においても、バッテリー残量を気にする必要はない。
●侮れないAIワークロードの改善は“将来性”を示す数字
M5チップのAI性能は向上した――もう聞き飽きたかもしれないが、このことで筆者が感じたのは、単一の機能改善にとどまらない将来性や応用の広がりだ。
動画編集の分野では「Adobe Premiere Pro」での作業が大幅に高速化されている。特にAIを活用した音声クリーンアップ機能「Enhanced Speech」の処理速度が、M4チップモデルと比べて最大で4倍高速化される。この機能はざわついた中での音声をクリアにしてくれるため、筆者も気に入っているものの1つだが、処理が速いためプレビューを先頭から始めている間に処理が終わってしまう。
高解像度化処理で定番のTopazを動画に適用した「Topaz Video AI」でSD映像を4Kにアップコンバートする際は、M1チップモデルと比較して最大7倍の高速化が図れるという。他にも「Logic Pro」に見られるように、オンバイスでのAI活用は今後も広がっていくだろう。
Premiere ProとTopaz Video AIのテスト結果は、AppleがWebサイトで掲載しているものではあるが、アプリでも数倍の単位でパフォーマンスが上がるとなれば、単に速いだけでなく将来の新機能の登場を促しうる。そしてその新しい機能が登場した時、古いアーキテクチャのSoCでは、遅さや処理品質の低さを感じるだろう。
守秘義務もあるため公開できないアプリも多いが、今後、CoreMLなどを通じてAIを使った機能を実装するアプリは次々に生まれていく見込みだ。
なお、AIワークロードを使うメディア処理において、この評価機が”発熱”をしたことは一度もなかった。
●パフォーマンスは「Pro級」 でも価格は手頃
M5チップ搭載の14インチMacBook Proの価格は、最小構成で24万8800円からとなる。M4チップモデルから価格は据え置きだ。
Intel MacやM1/M2チップ世代からの移行組には、M5チップ搭載モデルは非常に魅力的に映るだろう。何しろ、CPUのシングルコア性能はM1チップの1.84倍、M2チップの1.64倍と大幅に進歩しており、マルチコア性能もM1チップ比で119%増、M2チップ比で85%増を達成している。初期のApple Siliconから数年で倍近い性能になった計算だ。
今後、より高性能な「M5 Proチップ」や「M5 Maxチップ」(いずれも仮称)を搭載したMacBook Proが登場することは間違いない。しかし、現時点でもM5チップの14インチMacBook Proは、プロ/ハイエンド以外のあらゆるクリエイティブな作業をこなす人々にとって最良の選択といえる。
これまで、動画編集や3Dレンダリングといった重い作業のためにPro/Maxチップを備えるモデルを選んでいた人も、SoC自体の性能底上げによって無印チップの基本モデルで大半の作業が可能となった。特にAI処理速度の向上は顕著で、動画編集、写真処理、音声加工といった用途において、待ち時間の大幅な短縮を体感できる。
約1.6kgの重さや約15.5mmの厚みは「MacBook Air」と比べればボリュームがある。しかし、それは冷却機構や追加のインタフェースポートとのトレードオフと考えればいい。性能的に競合するWindows機となってくると、主にポータブルゲーミングPCとなり、フォームファクターとしては比較にならない。
場所を選ばずクリエイティブな作業をしたいユーザーにとって、M5搭載MacBook Proは現在もっとも優れた選択肢だ。使っているアプリが、どんなにオンデバイスでの魅力的なAI機能を搭載してきても、当面は快適に処理をこなしてくれるに違いない。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。

まんが日本昔ばなし YouTube話題(写真:日刊スポーツ)233

まんが日本昔ばなし YouTube話題(写真:日刊スポーツ)233