万博パビリオン「建設費未払い問題」被害者の告白。追加工事費がまったく支払われない! 協会や行政はなぜ対応できないのか......?

1

2025年10月24日 06:20  週プレNEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週プレNEWS

万博閉幕日の会場の様子。イベントは盛況だったが……

表向きは何事もなく盛況に終わった大阪・関西万博。しかしその裏には、お金に関する大きな問題が残っていた。巨額の建設費未払い問題に悩む工事業者の声を聞いた。

【写真】建設中のマルタ館の様子ほか

* * *

■万博の残された課題を追う

10月13日に閉幕した大阪・関西万博。来場者数の増加により最大280億円の黒字が見込まれ、表面的には大成功を収めた。しかし、その陰で深刻な問題が発生している。それが「パビリオン建設費未払い問題」だ。

11ヵ国11パビリオン(アメリカ、アンゴラ、インド、ウズベキスタン、セルビア、タイ、中国、ドイツ、ポーランド、マルタ、ルーマニア)で建設費の未払いトラブルが発生し、被害を受けた建設業者は30社以上に上っている。

トラブルに遭った日本の下請け建設会社の中には従業員への給料を払えなかったり、会社の家賃も払えずに引っ越しを余儀なくされたりと、倒産寸前の事態に追い込まれている社もあるという。

この問題で注目すべきは、未払いトラブルが発生しているうちの4ヵ国(マルタ、セルビア、ドイツ、ルーマニア)の元請けがフランスに本社を置く「GL events」の日本法人(以下、GL)となっていること。上記の4つのパビリオンすべてで訴訟問題に発展している。

■マルタ館の過酷な現場状況

そのうちのひとつ、マルタ館の建設に携わった建設会社、事務局J0Kの高関千尋社長がこの問題について語ってくれた。

「2025年2月にマルタ館の看板制作を依頼されたんですが、当初は期間が短すぎると断ったんです。その後、どうしてもと言われて元請けのGLの下の1次下請けの建設会社のA社長に会いました。社長はまだ若く、どうしていいのかわからないといったような表情で疲れていましたね。建設もうまく進んでいないのがはっきりわかりました」

そんな暗い雰囲気の現場を見たのに、マルタ館の仕事をやろうと決心したのには理由があったという。

「A社長の態度が決め手です。社長に初めてお会いした日に元請けのGLとのメールのやりとりなどを3〜4時間かけて詳細に説明してくれたんです。この熱意に動かされました」

しかし、いざ現場へ向かうと想像以上に荒れていた。

「A社長の会社の職人グループ、GLが海外から連れてきた外国人の職人、ほかの業者の人たち。現場はいろんな人が50人ほどいて、みんなバラバラでした。外国人の職人は仕事の合間に酒は飲むわ、たばこを吸うわしていました。ケンカもしょっちゅうです。

そこでまず行なったのは各グループの意見調整。放っておいたら激しいバトルに発展する芽をひとつずつ潰していきました」

そして、開幕の2日前の4月11日に奇跡的にパビリオンは完成した。そのとき、忘れられない光景があったと高関社長は振り返る。

「全部のチェックをやり終えて完成が確認できた瞬間、みんなで抱き合って喜びました。そのとき、GLのリーダーが初めて1次下請けのA社長に向かって言ったんです。『ごめんな、俺も開幕までに間に合わせようと必死だった。これまできついこと言ったのを許してくれ』と謝ったんです。A社長は何度もうなずきながら泣いていました。私もそのシーンを見て、目頭が熱くなりました。

そしてGLのリーダーは『すぐに精算に入るから』と任せてくれとばかりにA社長に告げていました。当然、約束どおり開幕までに間に合わせたんですから、支払われると思っていたんですが」

その後、A社長の会社には1円も入金がなく、やむをえず6月にGLを訴える事態となった。

その他の事例として、8月末、セルビア館の建設などを行なった建設会社レゴの辻本敬吉社長からも話が聞けた。

「もともと中国館の基礎工事の一部を受けてやり終えていた頃、その実績を評価されてGLさんから声がかかったんです。GLさんはフランスの大きな会社。そんな会社と万博の仕事ができるのは、やりがいがあると思いました」

しかし、工事をスタートした時点で戸惑ったという。

「通常、工事を始める前には地盤を安定させるため、まずコンクリートを地面に敷いてから取りかかるんです。ところが、GLの現場リーダーから『うちの会社はSDGsを重要視するので、コンクリートではなく砂利を敷くように』と指示がありました。

しかし、砂利の上に鉄板を敷いただけなので、どうしても土台が安定しない。さらに鉄骨自体の重量も加わり、4mm、5mmとズレが生じる。その結果、組んでは外し、組んでは外しの繰り返しを2週間くらいやりました。

一事が万事この調子でしたね。鉄骨の寸法が足りなかったり、長すぎたり、本来開いているはずの穴が開いていなかったり。その都度、現場監督からはあれしろこれしろと材料の追加加工の工事が発生していきました」

こうやって追加の工事が次から次へと発生し、費用はどんどん膨れ上がってくる。しかし、契約では追加工事を行なうには署名による合意が必要と明記されていた。

「当然GL側に追加工事をやることに合意します、了承しますというサインを求めました。ただ、GLはサインをしない。何かと理由をつけて断ってくるんです。つまり、署名なしの追加工事を求めてきたわけです。

普通の現場なら、そんなことをされたらそこで工事をやめて引き上げますよ。しかし、この工事は万博という国家事業。それに、パビリオンもその国の威信がかかっている。ここで工事をやめるわけにはいかないという思いがありました」

そんな中、開幕が近づく2月にフランスのGL本社から担当の役員がやって来る。

「その担当役員に念を押しました。『追加工事で3億円ほど多くかかっている』と。すると役員は『本社には今回の工事は追加工事がたくさんあって赤字だということは伝えて、ちゃんとOKをもらっている』と答えていました」

かくして、工事は無事開幕前に完了。引き渡しも終わり無事開幕を迎えることができた。ところが......。
「追加工事の費用は一切入金なしです。問い合わせると『追加工事? なんですかそれ。これ以上追加して支払うものはないです』という、しらばっくれたような返事が返ってきました。明らかな手のひら返しですね」

■行政による対応は不可能なのか?

この問題については日本国際博覧会協会(以下、万博協会)も大阪府も「民−民の問題なので介入できない」という姿勢だ。あらためて、大阪府庁都市整備総務課の担当者に話を聞いた。

「うちは建設業法を所管している部署になるんですが、大阪府を代表した回答ではないことだけを最初にご理解した上でお聞きいただけたらと思います」

このような前置きの上で答えてくれた。

「(吉村洋文)知事もおっしゃっているんですが、府としてこの事態を受け止められる部署がない状況なんです。一般的な工事と考えると、やはり民と民との契約で成り立っているものですので、それに対して行政が『おまえの会社はお金を払ってないから、ちゃんと払え』というのはなかなか難しいんです。行政の民事不介入の原則に反していますので。

今は万博協会と連携して、万博のさまざまな物事を進める『万博推進局』とわれわれ建設業法を所管しています『都市整備部』と融資や企業へのお金の問題を担当している『商工労働部』などの部局で連携してなんとか対応できればというところです」

万博協会にも質問したが、締め切りまでに返答はなかった。

また、GLにもこのような声が上がっている旨を伝え、今後の対応について質問してみると、このような回答が返ってきた。

「契約に関する相手当事者の一方的な発信により、2025年日本国際博覧会協会やパビリオン関係者等にご心配をおかけし申し訳ございません。

当社は、特定の相手方契約当事者に対して債務が存在しないことの確認を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しておりますが、係争中の案件につきましては回答を差し控えさせていただきます」

大盛況に終わったイベントだけに、早期の解決が望まれるばかりだ。

取材・構成・撮影/ボールルーム 写真/時事通信社

このニュースに関するつぶやき

  • 行政が介入できないとかさ、泣き寝入りしか無いの? 国が率先してなのに、国に賠償責任があるわ。
    • イイネ!2
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

前日のランキングへ

ニュース設定