美女4000人に30億円を貢いだ「紀州のドン・ファン」の遺言書は本物だった? 兄弟姉妹の敗訴が決まった理由

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2025年10月24日 09:10  日刊SPA!

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「紀州のドン・ファン」として知られた故野崎幸助さんの全財産を自治体に寄付するとした遺言書の真偽が争われた訴訟で、大阪高裁は9月、遺言書は本物と認定。兄弟姉妹の訴えを棄却した。筆跡鑑定3通を退け、裁判官が目視で判断した事件となった。
“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、「紀州のドン・ファン遺言書有効判決」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。

◆裁判官が重視したのは、筆跡鑑定よりもストーリー・押印

 美女4000人に計30億円を貢いだ「紀州のドン・ファン」として話題となっていた資産家の野崎幸助さん(当時77歳)が、謎の死を遂げたのが’18年5月のことだった。その後、55歳下の妻が逮捕・起訴されたものの、一審では無罪が言い渡されている。

 この刑事裁判と並行して注目されていたのが、全財産を自治体に寄付すると書かれた「遺言書」の存在だった。

 法定相続人は妻と兄弟姉妹。妻が二審でも無罪になれば、この遺言が本物であっても遺留分により遺産の2分の1は取り戻せるが、兄弟姉妹の場合は遺留分がない。そのため兄弟姉妹らが遺言の無効確認を求め、当該自治体を被告として裁判を提起した。

 争点は、ドン・ファンがこの遺言書を本当に自分で書いたかどうか。兄弟姉妹は本人の筆跡ではないとする筆跡鑑定書を3通も証拠提出したが、裁判所はあっさりこれらを排斥し、本人が書いた遺言であると認めている。

 このニュースを読んだ裁判官は「またか」と思ったかもしれない。筆跡鑑定は中立公正に鑑定などしておらず、高額な鑑定料を支払った者に有利な判断をしているのではないか──裁判官はこういう事件を経験するたびに、その思いを強くしていく。

◆遺言書の有効性は?

 この事件では遺言書のほかに、ドン・ファンの筆跡がわかる督促状が証拠提出されており、筆跡鑑定のド素人であるはずの裁判官が、これらを見比べて遺言書の筆跡は本物と判断した。

 もっとも、筆跡鑑定人の名誉のために書いておくと、この事件は実際には筆跡以外のところで勝負がついていた可能性が高い。最近の裁判所における事実認定は「ストーリー」の手法が大流行している。双方当事者がそれぞれストーリーをつくり、どちらが確からしいかを裁判官が見比べるというもの。兄弟姉妹側は、妻がこの遺言書を偽造したとのストーリーを展開したが、妻がこういう内容の遺言書を偽造する動機がよくわからないし、知人男性と妻との関係もよくわからない。

 他方、自治体側は生前からドン・ファンが自治体に寄付をしていたことから、その延長としてこの寄付をしたとのストーリーを掲げた。どちらが確からしいかは裁判官でなくてもわかるだろう。

 さらに、遺言書に押されていたのが実印だったため、妻が勝手にそれを使えたかどうかもポイント。実業家であるドン・ファンは実印の重要性を強く認識し、厳重に保管していたとも思われる。それを妻が勝手に使えたということが立証できなければ、そこで話は終わり。本人の印が押されている文書は原則として本人が作成したと認めるというのは最高裁の判例でもあり、確定実務でもある。

 この事件は上告されたようだが、最高裁は法律審であり、大阪高裁が認定した事実を変更することは原則としてできない。兄弟姉妹がこのまま敗訴する可能性が高い。

 ドン・ファンは兄弟姉妹に遺留分がないことを重々承知していただろう。映画『犬神家の一族』では、「昔からの身内には一銭も渡すまい」とする当主・佐平衛翁の遺言書が連続殺人事件の発端となったが、果たして、遺言書の有効性は最高裁の判断に委ねられた。

<文/岡口基一>

【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー

このニュースに関するつぶやき

  • 半分は自治体、残り半分は元妻の取り分ということになりそうな流れだよね。兄弟姉妹が取り分を主張したのが浅ましい。
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