縛られたリカちゃん人形、拷問されたキリシタンetc.82歳館長の「濃厚すぎる趣味」が凝縮された“札幌の裏名所”

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2025年10月24日 16:01  日刊SPA!

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外観。2022年2月の真冬に訪問。2階の窓には下着姿のマネキンが並んでいたが、会社側に強制撤去された
 廃墟、巨大工場、珍スポット、戦争遺跡、赤線跡など全国に存在するリアルな《異空間》《異界》スポットを紹介し続ける旅行マガジン『ワンダーJAPON』。当連載は、編集長である私、関口 勇がこれまで誌面で取り上げたなかでも、「特にインパクトが強かったスポット」をピックアップしたうえ、順次紹介していくものだ。
 ちょっとでも珍スポット、B級スポットに興味があれば、一度は名前を聞いたことがあるかもしれない。北海道の「レトロスペース・坂会館」だ。ネーミングから推測できるように、ざっくり一言で言えば、私設のレトロ博物館である。超高齢社会になって何年もたち、昭和を懐かしむ人が増えているし、昭和ブームもあり、日本全国でレトロ博物館を見かけるようなったが、それらとは一線を画している。明らかに方向性が違うのだ。

◆「坂ビスケット」の工場の一角に…

 場所は、札幌市の中心部から地下鉄か、もしくはバスで20分ほど。北海道民のソウルフード「坂ビスケット」で知られる坂栄養食品の工場の一角にある。「坂会館」は、もともとは坂栄養食品が経営するレストラン。結婚式場としても利用できたが、レストランが閉店してからはずっと物置状態であった。そこで、創業社長・坂 一長氏の趣味のカメラ類や奥さんの集めたものに、息子の坂 一敬さんが「個人的に」集めていたコレクションを加え、建物の1階部分を改装して展示。自ら館長となって1994年にオープンしたのが「レトロスペース・坂会館」だ。

  内部はちょっとした迷宮状態。大きなフロアが1つ、それにオーディオルーム(レコード鑑賞会など開催)、入口部分、階段下の秘密の小部屋などいくつか部屋がある。また、大フロアも展示品自体がパーティションになって何本も通路ができている。

◆「ドン・キホーテ」を彷彿とさせる展示

 そこにあるのは、父親の骨董カメラ類など例外を除けば、使われなくなり捨てられていた日常生活用品がかなりを占める。館長によると、「どっちかというとね、バーコードが付く前のもの。バーコードが広まったのが、だいたい昭和の終わり頃までだからね。バーコードの読み取り機械を導入できない小さな店はどんどん消えていった」と説明があった。なるほど、そんな時代の区切り方もあるのか。

 髪の毛が伸びそうな日本人形、草履、日本酒ラベル、タバコ、マッチ、1950年代の雑誌「平凡」、昔の文房具店をそのまま再現したような文具コーナーなどありがちな展示もあるけれど(床から天井近くまで隙間なくギチギチな展示は「ドン・キホーテ」を彷彿)、壁中にヌード写真が貼られていたり、春画の描かれた湯呑みや小皿、SM関連のバラムチ(バラけたムチ)、スパンキングパドル(柔らかい特大シャモジ型でお尻を叩くもの……らしい)、雑誌、さらに縄で縛られたリカちゃん人形がズラリと並ぶ部分も。

 極めつけは、階段下にある女性下着がアート作品のように飾ってある部屋もある。もちろんエロもその時代を映す鏡であり、大事な資料だけれど、館長の趣味色も濃厚な感じ。

◆裁判に勝ったが「ずっと安泰とは言い難い状況」

 リカちゃん人形に関しては、「ここはみんなSMだって言うんだけどね。そうじゃなくて……わかるでしょ、こんなに十字架があって。これキリシタン関係のイメージでやったんだけどね。だけど、なかなか理解してくれなくて。まあ、それはそれでいいんだよ。その人たちがなんと思おうとね。キリシタンの拷問はSMじゃないからね」とのこと。なるほど、いっしょに遠藤周作のキリシタン文学『沈黙』も並んでいた。でも、その周りにSMイラストもたくさん展示があるから、受け止め方は多様でいいのだろう。

 その一方で、戦時中の物資不足を示す陶器製湯たんぽとか、黒人差別として絶版となった絵本『ちびくろ・さんぼ』やその余波であちこちで回収騒ぎとなった黒人人形が大量に飾ってあるコーナーなどより社会派的な展示もある。性表現も権力者によってしばし規制の対象にもなってきたと考えると、カオスな展示の中に、1本芯が通ったものが見えるのだ。よく見たらバブル期のボディコン衣装とかエヴァの綾波レイフィギュアなど、平成のものも混じっているし、やっぱり趣味性の方が強いか……。 

 坂栄養食品の現在の社長は、創業社長の弟の長男が就任している。館長の従兄弟だ。館長自身はかつては坂栄養食品の取締役・開発部長でもあったが(現在も大株主ではある)、博物館の運営に専念。ただ、こんな展示内容なので、会社側からは立ち退きを要求され、10年ほど前には裁判沙汰となった。長年、館長とともに博物館を運営してきた中本尚子副館長も会社を解雇されたりもしている。裁判の結果は、館長側の勝訴。ただ、建物は老朽化し、館長も82歳と高齢なので、「レトロスペース・坂会館」がずっと安泰とは言い難い状況である。興味のある方は、すぐにでもこの濃厚な《異空間》へ足を運んでほしいと思う。

<TEXT/関口勇>

【関口勇】
『ワンダーJAPON』編集長(フリーランス・発行元はスタンダーズ)。廃墟、B級スポット、巨大構造物、赤線跡などフツーじゃない場所ばかり紹介。武蔵野美術大学非常勤講師。X(旧Twitter):@isamu_WJ

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