モナ・リザは生きている? 【辛酸なめ子 コラムNEWS箸休め】

0

2025年10月25日 10:20  OVO [オーヴォ]

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

OVO [オーヴォ]

(C)2025 Nameko Shinsan

 テイラー・スウィフトの新アルバム「ザ・ライフ・オブ・ア・ショーガール」が、大ヒットしているのと裏腹に、メディアやファンから酷評されているというニュースを目にしました。類いまれな才能とセンスでアーティストとして一生安泰かと思われたテイラーが・・・。いちファンとしてショックです。

 うつろいやすい世の中で、変わらない人気を保ち続けられるセレブなんているのでしょうか? もしかしたら、それはテイラー・スウィフトでもキャサリン妃でもなく、ある商人の妻・・・。先日、はじめてのヨーロッパ旅行でルーヴル美術館を訪れました。サモトラケのニケやミロのヴィーナス、フェルメールやドラクロワの絵画など珠玉の芸術作品がひしめいています。もとは国王のお城だったというゴージャスな館で、一番の主役なのは「モナ・リザ」。館内を歩いていると、モナ・リザはこちらです、と示す看板を度々目にします。レオナルド・ダ・ヴィンチが500年以上前に描いた「世界で最も有名な絵画」。その部屋にたどり着くと、他のどの部屋よりも混んでいて、200人位の人々がすし詰め状態になっていました。1列が約20人でじわじわ進んでいき、じっくり眺めて撮影したあとに横にはける、という流れです。


 モナ・リザに背を向けてセルフィーで一緒に写り込もうとする人も多数。世界一の名画と記念撮影するなんてめったにないチャンス。でも、私はモナ・リザのオーラに圧倒されて、一緒に撮影なんてできませんでした。彼女を観た第一印象は「生きている」。印刷でしか観たことがなかったのが、生で拝見すると目に表情があったのでハッとしました。注目される陶酔感や充実感、そして押し寄せる人々への好奇心が宿っているような・・・。モナ・リザと「目が合う」気がする「モナ・リザ現象」は実は存在しないという説がありますが、体感ではモナ・リザの方から目を合わせてくる印象でした。生きたセレブを見た時のような興奮に包まれた体験でした。

 この名作は実は未完だそうで、それを知って思い出したのが、横尾忠則氏の個展のビデオで観た本人の言葉。作品は完成すると作者にとって死んでしまったようなものですが、未完だとずっと生きていると感じられるそうです。未完のモナ・リザは、未成熟な人間と同じで、精進するため生きているのだと実感。今から500年後も人気を保っていることでしょう。もう有名であり続けることに飽き飽きしていそうですが・・・。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.40からの転載】

しんさん・なめこ 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。2025年2月に「江戸時代のオタクファイル」(淡交社)を上梓。

もっと大きな画像が見たい・画像が表示されない場合はこちら

    前日のランキングへ

    ニュース設定