『機動戦士ガンダムエイト』敵はモビルスーツではなくモンスター? 「青春ブタ野郎」鴨志田一が手がけるガンダムの新世紀

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2025年10月25日 13:00  リアルサウンド

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『機動戦士ガンダムエイト』(KADOKAWA)【右】、『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(KADOKAWA)【左上】、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ コンプリーション』(ホビージャパン)【左下】

 「青春ブタ野郎」シリーズ(KADOKAWA)を完結させたライトノベル作家の鴨志田一が、『機動戦士ガンダム』の世界に新しい風を吹き込む。10月23日に刊行された『機動戦士ガンダムエイト1』(KADOKAWA)は、矢立肇・富野由悠季原案で鴨志田一がシナリオを書き、ゲームのコミカライズ作品『機動戦士ガンダム バトオペレーション コード・フェアリー』(KADOKAWA)を手がけた高木秀栄が漫画を描いた完全新作のガンダムコミックだ。その内容は冒頭から驚きの連続で、どこに連れて行かれるのか分からない興奮に読者を引きずり込んで離さない。


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 太陽系第三惑星地球。科学技術が発達してバイオテクノロジーが普及した世界は永遠に続く繁栄の最中にあるはずだった。ところが、『機動戦士ガンダムエイト1』の冒頭で見せられた世界は、人類がわずか258人しかいないという状況で、その残された人類も地球からシャトルで宇宙へと脱出しようとしていた。


 何が起こっているのか? ボロボロになったガンダムらしいモビルスーツの前で、ナオミと呼ばれる少年が、「必ずシャトルは宇宙に届けるさ」と言って、襲撃してくる何かを迎え撃とうとしていた。そして現れたのは虫とも動物ともつかないモンスターたち。ナオミはジリウスと呼んでいるモビルスーツを起動し、周辺に散らばっている無数の破片のようなものを操ってモンスターたちにぶつけ、シャトルが発進する時間を稼ごうとする。


 高木による濃密で迫力たっぷりの作画が、ポール・バーホーベンのSF映画『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)で無数のバグズを相手に兵士たちが戦っているシーンを思い出させる。それが地球に残ったわずかな人類を守っての戦いだということが、地球や人類に何が起こったのか、そして孤軍奮闘を続けるナオミはどうなってしまうのかといった想像をかき立てる。その答えがおそらく、「第2話」以降の物語で描かれていくことになるのだろう。


 悲惨で壮絶な戦いの描写から一変して、「第2話」は外宇宙探査船アトランティスの周辺でモビルスーツ同士が模擬戦をしている様子から始まる。「第1話」で戦っていたナオミもその中にいるが、どうやらあまり強くないらしい。模擬戦を終えて休憩しているナオミに、マリアネラという名の少女が近づいてナオミの成績を指摘する。それがどうにも奇妙だ。


 「審査項目6種のうち5種で25位だなんてすごい偶然ね」。どうやらナオミやマリアネラは、外宇宙探査計画で船外に出て作業するモビルスーツ乗りを選ぶ試験に臨んでいるらしい。そこでナオミは26人中のブービーばかり取るという”離れ業”を見せていた。なおかつ模擬戦闘だけは最下位というチグハグぶり。マリアネラはそこに何かあると感じてナオミに接触したようだ。


 ボーイ・ミーツ・ガール。やがてナオミの“本気”が明かされる展開となって、マリアネラをオペレーターにナオミたちがモビルスーツを駆るチームが出来上がっていくが、そこからどうして「第1話」のような人類の危機になるかは見えない。第1巻を読み終えてもはっきりしたことは分からないが、描かれている様々なシーンから想像できることが幾つかある。


 ナオミやマリアネラたちが「エイト」と呼ばれる遺伝子操作によって生み出されたエリートであること。その結果、普通の人類との間に軋轢が生じていること。そこから憎しみの連鎖生まれて戦いに発展したのだとしたら、『機動戦士ガンダムSEED』でコーディネーターとナチュラルが対立して宇宙を戦場に変えた展開と重なり、融和へと向かうストーリーが思い浮かぶ。


 もっとも、『ガンダムエイト』には別の要素が物語に違った雰囲気を与えている。外宇宙にいるらしい「マザー・スワン」という存在。アトランティスはその捕獲のために外宇宙へと向かって飛び立とうとしている。作中に登場する「マザー・スワン」の外観と、「第1話」で人類に迫るモンスターの関係を想像し、「第2話」から「第1話」までの4年の間に何かとんでもないことが起こったのかもしれないと考えてみたくなる。


 思い浮かぶのは、ガンダムシリーズでは劇場版『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』に描かれた「ELS」の再来のような存在との対立だが、そこにどのような設定が盛り込まれていて、どのような展開になるのかは気になるところ。なぜなら、鴨志田一がシナリオを書いているからだ。


 鴨志田の小説「青春ブタ野郎」シリーズのTVアニメ第2期『青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない』で、桜島麻衣がネットで噂になっていたミュージシャンの霧島透子は自分だと言い出す驚きの展開を繰り出して、アニメを観ていた人を驚かせたことは記憶に新しい。『ガンダムエイト』でも鴨志田は、そうした驚きから感動へと至るストーリー上の仕掛けをいろいろと仕込んでいるはずだ。


 鴨志田が設定考証と脚本を担当した長井龍雪監督の『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』で見せたような設定上の妙も期待したいところだ。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ コンプリーション』(ホビージャパン)というムックで、長井監督と対談した鴨志田は、「エイハブ・リアクター」というオーパーツ的な動力源に根拠を持たせようとして、「あるSFネタを取り入れて、現在の設定に落ち着きました」と振り返っている。


 モビルスーツとパイロットを繋げる「阿頼耶識(アラヤシキ)システム」についても、「モビルスーツと神経接続するという設定度の土台はありました。ビジュアルとして背中のヒレが加わったのは後になりますが、『これは絶対必要』という部分はすでに決まっていて、そこに僕が理由をつけていったわけです」と話して、『オルフェンズ』をSFとしてガチなものへと仕上げたことを明かしている。そうした手腕が『ガンダムエイト』でも発揮されていたとしたら、地球の人類が滅亡寸前なことも、「マザー・スワン」の正体にも、そして「ガンダムジリウス」という人類に残されたガンダムにも深い秘密が仕込まれていそうだ。


 「第1話」で無数の破片をファンネルなり『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の「GUNDビット」のように操っていたことにも、何か技術的な理由付けがあるのだろう。その際に輝いたように見えた背中に何本も生えている「フェザーエクステンション」と名づけられたパーツが、どのような原理を持っていて、どのような働きをするのかも気になる。


 あとはやはり、SFでは『スターシップ・トゥルーパーズ』の原作になったロバート・A・ハインライン『宇宙の戦士』(早川書房)も含めた多くの作品で描かれてきたような展開が、劇場版『00』やこやま基夫による外伝『Gの影忍』(KADOKAWA)にも増して本格的に用いられて、全面的な対決として描かれていることだ。これからのガンダムシリーズにとっても今後の可能性を示唆する先駆的な試みと言えるからだ。


 それだけに、ガンダムファンもSFファンも展開や結末が気になって仕方がない。そんなガンダムコミックだ。


(文=タニグチリウイチ)



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  • 鴨志田一先生はSF的なガジェットや設定を出すのは上手い。個人的には、そこからもう一つ踏み込んで、どんでん返し欲しい。
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