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2025年10月27日 06:00 ITmedia ビジネスオンライン

2025年にオープンした大型商業施設開発の中でも、ダントツの注目度だと筆者が感じているのが、9月12日に高輪ゲートウェイ駅前に誕生した「NEWoMan(ニュウマン)高輪」です。約180店舗(期間限定店を含む)が入居しており、2026年春にはさらにミレエリアに約20店舗が新たに加わる予定です。
以前はこのような施設がバンバン日本全国にできていましたが、最近は心なしか少なくなったような気がします。新規開業が減り、リニューアルが増えている、というのが今の日本の商業施設の現状です。
なぜ新規開業が減ってきたのでしょうか。これからのショッピングセンター(SC)はどうなっていくのでしょうか。小売り・サービス業のコンサルティングを30年以上続けているムガマエ代表の岩崎剛幸が分析していきます。
●日本のSCは減少傾向
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日本のSCは今、どのような状況にあるのでしょうか。
2024年時点で、国内には3037カ所のSCがあります。ピークだった2018年(3220カ所)と比較して、6年で200カ所弱が減少したことになり、SCが大幅に減少中だといっても過言ではありません。
ではSCの新規開発数はどうなっているのでしょうか。2007年には年間100カ所を超えていたSC開発数も徐々に減少し始め、2025年には年間17カ所と過去最少の開発数となりました。2024年には38カ所の開発でしたので、6割近い減少です。
2000年の大規模小売店舗立地法施行後、日本のSC数は一気に増加しました。しかし25年が経過し、SCを開発すればディベロッパーはもうかるし、テナントはSCに出店場所を確保しさえすれば成長できるというモデルは崩れ始めているというのが現状です。
●店舗数が減って、売り上げはどうなった?
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では、売り上げはどうなっているのでしょうか。チャネル別に見ると、SC売り上げの大きさが目立ちます。
2024年における日本の小売業販売額はおよそ167兆円と前年比102.5%です。百貨店はインバウンドの追い風もあり同106.5%ですが、年間売上高は6兆円を割っています。チェーンストアは13兆円の売り上げですが、同96.1%と前年割れしています。
CVS(コンビニ)は13兆円弱まで売り上げを伸ばしていますが、同101.2%と伸び悩んでいます。この中では、B2CのEC売り上げが24兆円を超えていることと、SC売上高が32兆1250億円となり、前年比104.2%という数字が目立ちます。つまり、SCは店舗数、新規開業数は減少傾向にあるものの、実は売上高は伸びているのです。
日本のSC数と売上高の相関を見てみると、状況がはっきり分かります。
SC数は減少を続けていますが、コロナ禍での落ち込み以降は売り上げを回復させ、施設数が過去最多だった2018年当時の水準に迫る勢いです。店舗数が減少する一方で売り上げが成長しているということは、SC当たりの規模が大型化していることを意味しています。中途半端な規模のSCが淘汰され、大型のSCがシェアを高めているのです。
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つまり、SCを新規に開発する際は広域から集客できる、「リージョナル型SC」を作らない限り、もうけることが難しくなっています。SCはまさに“戦国時代”に突入しています。
●SCに適した立地がどんどん減っている
今後、SC開発をする場合のポイントは「市場性があるかどうか」「優位性を確保できるか」です。これらのポイントを押さえれば、戦略的優位性を確保でき、SC開発の成功確率は高まります。
しかし、今の日本で市場性がある立地、優位性を確保するのは、そう簡単ではありません。
そもそも、市場性のある立地がなくなってきています。2024年時点で、2020年比で5000人以上の増加があった市は12市しかありません。
人口が多く、増え続けているところが市場性のある立地であり、このデータからは非常に限られた土地しか残されていないことが分かります。それに、これらの地域にはすでにSCや大型商業施設が出店済みであり、今の日本では、SC開発にぴったりの市場性をもった立地がなくなっているということです。
そうなると、もう一つの可能性としては「広域から継続して集客できるような超大型SCを開発すること」が挙げられます。立地が多少悪くても、市場性のありそうな街の郊外に大型の施設を開発することで、広域から集客し、足元の人口の少なさをカバーするやり方です。
『「ららぽーと門真」、アウトレットと禁断の合体!? 大型商業施設の“二刀流”戦略』という記事で紹介したような事例や、冒頭で紹介したニュウマン高輪のような斬新さを持ち合わせないと、消費者からの支持を得られない時代なのです。
●建築費もどんどん高騰している
「建築費の高騰」も見逃せません。近年、建設業界の人手不足が顕著であり、その上で2024年の能登半島地震により大規模なインフラ整備や住宅建設などが必要となりました。また、熊本に半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)の新工場建設が決まり、大阪・関西万博のパビリオン建設など、各地で建築工事や大型プロジェクトが進み、全国的に建築関係の人手が一気に足りなくなりました。2024年4月からは残業時間の上限規制が適用されたこともあり、建設業界では深刻な人手不足が進んでおり、今もなお進行中です。
資材価格も高騰しています。建設物価調査会のデータによると、2020年と比較してあらゆる建設資材の物価指数が140%を超え、今も上昇し続けていることが分かります。これらに加えて土地などの不動産取得にかかるコストも上昇中です。
SC新規開発は利用する土地が広く、建物も大型であることから、建築資材もさまざまなものが必要です。投資コストは少なくとも数十億円から数百億円規模となります。ゼロから作って投資回収できるだけの収益も上げづらくなっている今、開発に躊躇(ちゅうちょ)するディベロッパーが増えるのも当然です。
例えばイオンモールですら、2024年度の新規開業がゼロでした。これは26年ぶりのことです。一方で改装投資に多額をかけて、リニューアルを進める再投資にかじを切っています。2024年3月には、国内最大級のSC「イオンレイクタウン」の大規模リニューアルとともに増床を行いました。
イオンモールの中でリニューアルを実施した施設は前期比109.8%の売り上げであり、特にレイクタウンOUTLETは同139.3%、イオンモール太田は150.4%の通期実績です(いずれも2024年度)。今後、国内ではリニューアルに注力し、海外の成長市場では新規開発投資を行う、といった形に分かれていくでしょう。
●さらに追い打ちをかける事情も
「慢性的な小売り・サービス業での人手不足」も、SC開発が減る要因です。日本ショッピングセンター協会の調査では、ディベロッパーのうち84%が従業員不足(「やや不足」と「不足」の合計)と回答しました。
SCを新規開業しても、出店するテナントが店頭スタッフを集められないのです。やむを得ず既存店のスタッフが兼務したり、本部社員が応援に入ったり、スキマバイトで埋めるなどギリギリの対応を迫られています。人手不足が原因で、テナントによっては出店後3カ月程度で退店するケースも珍しくありません。
このような状況が続いているため、今の日本では新規開発はとりやめ、既存施設のリニューアルや増床によって売り上げを拡大していくことが常態化してきました。日本のSCは当面の間、既存の不動産価値を高めて、資産価値の向上を目指すという動きが中心になりそうです。
(岩崎 剛幸)
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