ソフトバンクは「純増にこだわらない」と宮川社長、長期利用者を重視 決算会見で語られたこと

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2025年11月05日 22:10  ITmedia Mobile

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全セグメント増益の好決算となった

 ソフトバンクは11月5日、2026年3月期第2四半期(2025年度上期)の決算説明会を開いた。売上高3兆4008億円(前年同期比7.9%増)、営業利益6289億円(同7.3%増)、純利益3488億円(同7.7%増)と、いずれも過去最高を更新した。


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 宮川潤一社長は、モバイル事業の戦略転換を表明し、「純増にこだわらない」として短期解約者より長期利用者を重視する方針を打ち出した。


●モバイルARPU微減も契約数増でカバー、「獲得より質」へ


 コンシューマー事業の売上高は1兆4757億円(3.4%増)、営業利益は3309億円(2.7%増)だった。モバイル売上は約100億円増の7984億円となった。


 スマートフォンの契約数は前年同期比3%増の3205.9万件に拡大した。ソフトバンクとY!mobileの両ブランドが共に増加している。一方、モバイルARPU(1契約あたりの月間平均収入)は3720円と、前年同期の3750円から30円減少した。


 宮川氏は「通信料の平均単価が安定基調にある中、スマートフォンの契約数がY!mobileを中心に伸びた」と説明した。ARPUの微減を契約数の増加でカバーする構図だ。


 課題も浮上した。解約率は1.36%と、前年同期の1.17%から悪化した。宮川氏は「短期解約者が見込みよりも多かった。獲得効率はもう少し上げなければいけない」と認めた。


●「優良顧客」とは何か でんき、PayPay利用者を重視


 こうした状況を受け、宮川氏は戦略の転換を表明した。「ブロードバンドやでんき、カードなどのセット利用でより長期にご利用いただいているお客さまに注力する」と述べ、短期で解約する顧客より長期利用者を重視する方針を打ち出した。


 「長く使っていただけるお客さま、でんきやPayPayを使っていただけるお客さまが私にとっては優良顧客だ」と宮川氏は説明した。「純増にこだわらない方がいいと社内でも話をした」とも述べ、獲得数を追わない姿勢を明確にした。


 MNPの状況については「キャリア同士の行ってこいは順調」としたが、超短期で解約になる顧客が課題だという。「意図せぬ契約になってしまうお客さまを同じような獲得インセンティブで取ってしまうのがおかしい」と指摘した。


 今後は獲得戦略と料金戦略の両面で変更を進める。獲得戦略は短期的に動き、料金戦略は「時期を見てアナウンスする」という。


●競合の値上げにどう対応するか


 ドコモとKDDIが値上げを実施する中、ソフトバンクの対応も注目される。宮川氏は「2社が値上げした中で値上げをせずに進むのか、どこかで動かなければいけない。一生懸命検討している段階だ」と述べた。


 9月にY!mobileで実施した値上げについては「上手にやった。ユーザーも受け入れている。トレンドに変化はなく、予定通りだ」と評価した。


 楽天モバイルが値上げしないと宣言していることについては、「構造が違うから値上げしませんという発言だ」と指摘した。全国キャリアが負担するエリア構築コストを負わず、ローミングで補完する構造で価格競争を主張するのは「アンフェアだ」との認識を示した。


●非通信事業が売上の63%に、AI事業も本格化


 ソフトバンクは通信以外の事業拡大を進めてきた。非通信事業の売上構成比は、2020年の47%から2025年度上期には63%まで拡大した。上期だけで約2兆円の非通信売上を計上している。


 特に好調なのがファイナンス事業だ。売上高は1897億円(24.3%増)、営業利益は385億円と倍増した。PayPayの決済取扱高(GMV)は9.2兆円(25%増)に達した。


 ディストリビューション事業も急成長している。売上高は5058億円(17.4%増)、営業利益は220億円(35.5%増)だった。AI関連商材の伸びとサブスク型への転換で、継続収入が1525億円に達した。通期で売上1兆円突破が見込まれる。


 エンタープライズ事業は売上高4820億円(8.1%増)、営業利益1041億円(10.2%増)だった。上期で営業利益1000億円を超えたのは初めてだ。ソリューション売上が好調で、デジタル化需要をとらえた。


●OpenAIと合弁でAIエージェント企業を設立


 AI事業も本格化する。ソフトバンクはOpenAIと合弁で「SB OAI JAPAN」を設立し、企業向けAIエージェントサービス「クリスタル・インテリジェンス」を2026年度に提供開始する。


 宮川氏は「ChatGPT Enterpriseの世界観で語れるものではない。仕事のやり方がガラリと変わる」と期待を示した。音声入力とワークフロー自動生成機能を持ち、営業体制1000人規模で展開する。


 AIスタートアップ向けには、GPU計算基盤を60日間無料で提供する支援プログラムも開始した。堺と苫小牧のデータセンターで、Blackwell 15万枚規模のGPUを導入する計画だ。


 宮川氏は「韓国が1兆円ぐらい補助金を出すという話だ。日本はその倍ぐらいはないものかと思う」と述べ、政府支援の必要性を訴えた。


●通期予想は据え置き、配当は来期以降に期待


 通期業績予想は売上高6兆7000億円、営業利益1兆円、親会社株主に帰属する純利益5400億円で据え置いた。上期の進捗(しんちょく)率は営業利益62.9%、純利益64.6%と順調だ。


 株主還元について宮川氏は「今期、下期はさらに期待している。数字が上がったからすぐに増配に踏み込むかは、今のところ何とも言えない」と述べた。来期からの中期経営計画で「描いている通りの数字が上がればどんどん還元していきたい」との考えを示した。


 モバイル事業は戦略転換期を迎え、AI事業は本格始動する。通信キャリアからテクノロジー企業への転換を掲げるソフトバンクは、2026年度のクリスタル・インテリジェンス提供開始と、法人事業での3兆円規模達成を次の中期経営計画の柱に据える。



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