写真 もし「パートナーがアンニュイな表情で頬杖をつく姿」を何度も目撃してしまったら……何を想像しますか?
今回はそんな経験をした女性のエピソードをご紹介しましょう。
◆彼からのプロポーズを夢見る31歳女性
井上遥香さん(仮名・31歳/契約社員)は、大樹さん(仮名・32歳/会社員)とお付き合いを始めて3年目になります。
「最近、私の学生時代からの親友が結婚したんですよ。彼女の式があまりに良くて幸せが溢れ出ていたので、なんだか私も焦ってきて。『とにかく1日でもはやくプロポーズしてくれないかな』という心境になってしまって」
ですが大樹さんは男友達と釣りに行くことに夢中で、デートさえままならない状態が続いており、遥香さんはため息をついていたそう。
「ですがそんなある日、『そういえば最近、大樹がよく物思いにふけっているな』と気がついたんですよね」
頬杖をつき真剣な表情をしている大樹さんを、ついかっこいいなと思ってしまった遥香さんは『どうか私との結婚のことを真剣に考えていますように』と祈っていました。
「そんなときに、大樹が男友達と電話で話しているのを偶然聞いてしまって。彼が『そろそろ覚悟を決めようと思っているんだ』って言っていたんですよ! えー! これってもしかしてプロポーズフラグ? と相当浮かれてしまって」
◆ついに念願の瞬間が訪れるのか
その数日後、大樹さんの部屋に行くと、置き時計の陰に隠すように小箱が置いてあるのが目に入りました。
「この中身は絶対に指輪に違いない! 絶対にプロポーズ! 決まった!! と叫んで踊りだしたい衝動にかられました。でもグッと我慢して、いつも通りに振る舞ったんですよ」
そわそわして大樹さんの話も頭に入ってこないまま数時間が過ぎ、ついにその待ちに待った瞬間がやってきました。
「大樹に小箱をポンと渡されて、ドキドキしながら開けてみたら……」
◆箱の中身は指輪じゃなかった!
「なんと、その箱の中身は指輪じゃなく、歯だったんですよね」
実は数日前に親知らずを抜いていた大樹さん。その歯をもらって帰ってきて、遥香さんに見せるのを楽しみにしていたそう。
「頬杖をついていたのも、『覚悟を決める』って言っていたのもこのせいか! とガッカリしてしまいました。
とにかく大樹は歯医者が怖くて大嫌いで、何度か私が手を引っ張って無理やり連れて行ったこともありました。だから今回、ちゃんと自分で歯医者に行ったことを自慢したかったみたいなんです」
てっきり指輪を渡されると思い込んでいたのに、根っこの部分がグロテスクな歯をいきなり見せられた遥香さん。そのショックで、ついに我慢できず泣いてしまいました。
いきなり泣き崩れる遥香さんに驚いた大樹さんは、狼狽(ろうばい)しながら「なに? どうしたの大丈夫? 俺にできることある?」と言ってくれたそう。
◆まさかの結果! 抜歯が最強エピソードに
「すかさず『今すぐプロポーズしてほしい……』と答えたら、『えっ?』て顔をされました」
遥香さんは、思わず涙を流すに至った今までの経緯を丁寧に話しました。
「そしたら、大樹は笑ってプロポーズしてくれたんですよね」
プロポーズされたことでやっと心に余裕のできた遥香さんは、大樹さんの歯を再び手に取ると、その勇気を讃えました。
「大樹はまるで未開の地を冒険してきた体験でも話すように、抜歯の大変さを事細かに聞かせてくれました。
そして『抜くのに30分以上かかって辛かったし、その後もしばらく痛くてたまらなかったけど、きっと遥香がこうやって褒めてくれるだろうなって想像したら不思議と耐えられたんだよね』と言ってもらえて本当に嬉しかったんですよね」
◆親知らずを抜いたことで思わぬ“副産物”も
そう思うと、初見では「グロい」と思った親知らずも、今はプロポーズの記念品という名の大切な思い出の品になったそう。
「後日大樹からもらった小箱には、ちゃんと指輪が入っていてホッとしました(笑)。両親や友人にこのプロポーズの話をしたらみんな笑ってくれたので、今では『大樹にはいいネタをもらったな』と感謝してるんですよ」
そして大樹さんは親知らずを抜いたことで顔の輪郭がシャープになり、よりかっこよくなりました。
「決してロマンチックなプロポーズではありませんでしたが、結果オーライという感じで。私にとっては生涯忘れられないプロポーズになりましたね」と微笑む遥香さんなのでした。
<イラスト・文/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop