
映像配信サービスや電子書籍配信といったメディアから、通信販売、オンライン診療、果ては水族館の経営まで幅広い事業を手掛けるDMM.comだが、かつてはMVNOとしてもその名を知られていた。同社が運営していたDMM mobileは、2019年に楽天モバイルへと事業を承継。新規受付は終了したものの、現在もサービスは継続しており、少数ではあるがユーザーも残っている。
そんなDMMが、「DMMモバイルPlus」と銘打った新サービスを2025年1月に開始した。当初タッグを組んでいたのはKDDI傘下のKDDI Digital Lifeが運営するpovo2.0。DMM側から契約ができるようになっており、DMMポイントをセットにしたトッピングや、「DMM TV」のデータ通信が使い放題になるゼロレーティングのサービスを提供した。
povoのホワイトレーベルを使ったサービスかと思いきや、2025年10月にはIIJとタッグを組み、「DMMモバイルPlus Powered by IIJ」の提供を開始。こちらでもDMMポイントと500MBのデータ容量をセットにしたオプションを提供する。また、DMMモバイルPlusのブランドで、海外旅行用eSIMも展開。提供する回線の幅を広げている。DMMが再びモバイルに取り組むのはなぜか。DMM.comの事業執行役員 プラットフォーム事業 アライアンス統括 佐藤祐介氏に狙いを聞いた。
●経済圏の基盤となるサービスの1つにモバイルがある 回線は複数の選択肢を用意
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―― 以前、DMM mobileをやられていたと思いますが、DMMモバイルPlusという形でモバイルを再び手掛けることになったのか、その理由を教えてください。Plusにはどういう意味があるのでしょうか。
佐藤氏 名前は(DMM mobileから)変えなければいけなかったので、あまり深い意味はないというのが正直なところです。弊社としては一度やめていますからね。DMMは何でもやっている会社で、大きな目標を掲げてそこに向かっていくというより、もうかるなら何でもやろうということで各事業が独立して成長し、採算を取ってきました。私も、この会社に3年前に入っています。
入社の理由にもなりますが、全体で売り上げが3000億円超ぐらいあり、事業も60以上ある中で、経済圏を作り、ユーザーにその中で回遊していただきたい。DMMは創業以来28年増収増益でここまで来ていますが、ほとんどが都度課金のエンタメサービスです。それでずっと増収増益しているのもすごいことだと思いますが、もう一段上げるには何が必要か。エンタメサービスなので、日常生活に余裕がある人が余裕のある分で楽しんでいますが、その前段となるサービスがほぼありませんでした。
かつ、これまではお客さまのことを理解し、適切なサービスを提供するということがあまりやれていませんでした。お客さまの行動や趣味嗜好(しこう)を理解し、経済圏のクロスセリングをしていくには継続的なつながりを持ち、お客さまを正しく理解する必要があります。そのために、「DMM Lifestyle」という看板を作り、日常生活に関わるサービスを作っていくことにしました。
衣食住、電気ガス水道、通信の一環として、モバイルがあります。僕らはMVNOをやりたいわけでも、モバイルでもうけたいわけではなく、経済圏作りをするための基盤となるサービスの1つとしてモバイルをやっています。弊社の会員も、もともとPCユーザーが多かったのですが、さすがにモバイルユーザーが多くなってきました。また、足元ではDMMプレミアムの新規会員獲得がうまくいっていますが、これもモバイルとの親和性があるからです。
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そういったこともあり、DMMモバイルPlusをローンチしました。どちらかと言うと、僕らの商品をお客さまにプッシュしていくというよりも、いろいろな選択肢をそろえて選ぶのはあくまでお客さまという考えです。組んでいるところが少しずつ違うのも、そういった意図があります。
―― 最初に組んだのがpovoだったのは、なぜでしょうか。
佐藤氏 僕自身、通信業界が長かったこともありますが、DMMは30代、40代の男性が多い一方で、DMM TVは女性も多く、動画配信を見たいがギガが足りないという方が結構な数いました。営業側からも「何とかならないのか」という話がありました。povoであれば、今日明日のギガはトッピングで買うことができます。(トッピングの金額がそのままDMMポイントになる)実質0円で作るときにも、povoは最適でした。逆に、povo側もパートナーをちょうど探していました。
実はDMMでは、ソフトバンク回線やSoftBank Airの取り次ぎもしています。音声付きサービスで格安SIMでというものはなかったので、IIJさんとそれもローンチしました。また、われわれはOTA(Online Travel Agency)として旅行ビジネスのテストマーケティングもしており、11月からもう少し大々的に展開する予定です(※インタビューは10月上旬に実施。10月31日から「DMM旅行予約」を提供)。それもあり、海外需要に応えるために、海外eSIMを先に用意しました。
モバイルの中でも、役割が少しずつ違うものをそろえるようにしています。povoは動画ユーザーのニーズに合っている、海外eSIMは旅行事業に力を入れるときのオプションとしている一方で、通常のスマホで通話にも使いたいときにはソフトバンク、もっと安い方がいいというときにはIIJがあります。キャリアにこだわっているわけではなく、会員に向けて少しずつ穴を埋めていったらこのようになりました。
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povoもIIJもDMMポイントをバンドルしていますが、それがフックになって契約していただけます。ポイントが付与され、それを日常サービスで使える。あくまでやりたいことは、経済圏を作り上げていくことです。
●povoのトッピングは自由に作れる ゼロレーティングは再検討
―― povoは当初、ゼロレーティングも入っていました。こういったサービスは他の回線にも広げていきたいのでしょうか。
佐藤氏 povoは今、プランを再検討するためにいったん(ゼロレーティングの入った)トッピングを下げています。ラインアップとして、お客さまの利用に耐えられるもの、かつポイントをフックにしたものを継続していきたいと考えています。
―― もっとバリエーションを増やしてほしいというニーズもありそうですね。
佐藤氏 僕らとしても、もう少し増やしたいと思っています。かつ、現状ではDMM TVとのコラボトッピングに踏み込めていません。60以上の事業があるので、いろいろなものとダイレクトにつながるものも考えていきたいですね。急激にこれで売り上げを高めていこうという感じではないのと、povo側にも開発にそこまで余裕があるわけではないので、優先順位をつけながらやっていきます。
―― 契約が取れて、継続して使ってもらえるのであれば、povo側にもメリットはありそうです。
佐藤氏 これだけで5万、10万とすぐに取れるわけではありませんが、(コラボレーションを重視する)povo側の戦略上の話としては大きいと思っています。
―― povoのトッピングは、ある程度DMM側が自由にプランを作れるのでしょうか。
佐藤氏 はい。そこは自由ですね。(シンガポール企業でKDDI Digital Lifeとプラットフォームを共同開発した)Circlesのプラットフォームが、柔軟に対応できるプラットフォームになっています。KDDI Digital Lifeとは毎週定例でミーティングもしていますが、カジュアルに相談しながら考えていきたいですね。
―― 現状だと、povoのユーザーはどこから入ってくることが多いのでしょうか。
佐藤氏 povoの場合は定期的にトッピングを変えていますが、povo側に訴求してもらうと通信に親和性のあるユーザーがものすごく来ます。逆に僕らのプッシュでも売れますね。一番売れていたときでは、半々ぐらいです。povoは利用するのに一定のリテラシーも必要なので、アプリを使っている人はそこをクリアしています。トッピングを載せてもらうと、必ず一定量の売り上げがあります。お互いにとって、プラスになるものをやっていこうとオープンにやっています。
●継続課金を狙ってIIJともタッグ DMM TVも評価してもらい相互送客を目指す
―― IIJと始めたサービスはいかがですか。
佐藤氏 まだほとんどプロモーションをかけていませんが、初日から普通に加入がありました。さすがIIJさんと思っています。これから少しずつプロモーションをかけていこうと思っていますが、やってよかったですね。IIJさんとリリースを出したら、いろいろなところから連絡が来ていますし、こうやって取材にも来てもらえました(笑)。
―― 経済圏にとどめておくという意味だと、月額課金のIIJの方が目的には合っているような気がします。
佐藤氏 povoはあくまで都度課金なので、僕らとしても継続型は欲しかったというのがあります。年末には電気もやりますが、固定回線もあり、10月からはセゾンさんと組んで新しいクレジットカードも出しています。電気ガス水道や通信、交通は1つ1つがもうかるサービスではありませんが、継続的にお客さまとつながれる基盤が作れることが、DMMにとってプラスになります。DMM全体を押し上げる基盤にしたいという思いでやっているので、ここは薄利でいいと思っています。
―― MVNOも数多くありますが、IIJを選んだ理由はありますか。
佐藤氏 IIJさんはMVNOではトップシェアです。最初のころは、他のMVNOとも話をしていましたが、動画配信サービスをフックにしていることもあり、MVNOのユーザーにどうしてもそれが合いませんでした。ギガをあまり使いたくないから入っているのに、ギガを使うサービスをバンドルすることになってしまいますからね(笑)。IIJさんとも最初はそういう感じでしたが、時代も変わってきました。DMM TVも動画配信の中で一番新規獲得が取れるようになり、そこを改めて評価いただき、もう一度話すことになりました。僕らの商品を売ってもらうだけでなく、IIJさんにも貢献したいということでこのような形になっています。
―― DMMポイントが付くオプションは、DMM経由で契約したユーザーだけでなく、既存のIIJmioのユーザーも買えるんですね。
佐藤氏 povoと同じです。povoでは、あちら側で売ってもらうのと、僕ら側で訴求するのを両方やったら、相乗効果がありました。IIJさんにも、povoでこういう形で両面でやって数が上がったというお話をしました。新規契約に限定してしまうと、どうしても数が少なくなってしまうこともあります。ですので、既存のユーザーがポイントを買える仕組みを作りました。
―― 料金プランもそのままですが、DMM用に何か変えようということにはならなかったのでしょうか。
佐藤氏 既存のプランにポイントを絡めて、まずは相互送客からというレベル感で考えています。利用動向を見ながらヒアリングをした上で、追加の改善をしていきたいと思っています。
―― povoとIIJは並行して話を進めていたのでしょうか。
佐藤氏 最初はそうでしたが、今回実現したのはpovoをやって一段落した後にもう1回話を始めてできました。
―― ということは、数カ月でできたということですね。
佐藤氏 そんなに複雑な開発が必要ではないモデルでやっているので、割と短い期間でできました。ガッツリMVNOをやるわけではないので、こちら側の開発も割とライトでした。われわれのページからIIJさんに飛ばして、あとは通常のフローです。自分もいたから分かりますが、通信会社は常に開発がパンパンなので(苦笑)。軽くできるところからスタートしました。
●20点ぐらいからスタートして改善していく
―― povo、海外eSIM、IIJでモバイルは一通りやり終えた形でしょうか。
佐藤氏 一通りそろいましたが、追加、追加でここまで来たので、今はまだバラバラに並んでいる状態です(インタビューしたのは、DMM Lifestyleオープン前日)。これからDMM Lifestyleのサイトをオープンするので、その中でこういうサービスがあって、これはこういうものということは分かりやすくしていきたいですし、プロモーションにも力を入れていきます。
特にアウトバウンドの海外eSIMは、質素なサイトを作っただけになっているので、旅行サイトを立ち上げるのを待ってこれから改善します。100点にしてスタートするタイプではなく、20点ぐらいからスタートして改善していくタイプなので、これで終わりとは全然思っていません。
DMMには「Apple Rewards Store」もオープンしたので、他事業で親和性のあるものと組み合わせると座組もあります。自分自身、モバイルには15年以上関わっているので、その仕事は続けていきたいですね。
―― それで言うと、モバイルと光をもっと組み合わせることもやった方がいいのではないでしょうか。
佐藤氏 今はありますが、バラバラに脈絡なく並んでいます。光回線はNUROベースのものと、BIGLOBE光、あとはSoftBank Airの三段構えになっていますが、よほどの人じゃないと分からない。これも整理して、こういう特典があるというのを一目で分かるようにしていきたいと考えています。
―― 独自で回線を引いているNUROと、NTT東西の回線を使うBIGLOBE、あとはモバイル回線のSoftBank Airという形で、固定回線側もモバイルのようにそろえているサービスのキャラクターがはっきりしていますね。
佐藤氏 NUROはDMM光でやっていますが、エリアが狭いのと、マンションがどうしても苦手です。それをカバーできるBIGLOBE光を入れています。それも面倒という形には、SoftBank Airの三段構えになっています。ここまで用意しておけば、何かが引っ掛かります。定期的に変えるようにはしていますが、その中でもDMMポイントは基盤として使えると思います。
また、通信だけでなく、他のサービスも同じような考え方でやっていこうと思っています。今はぽつぽつと点のように見えるかもしれませんが、コンセプトに向かってそろえ始めています。完成したら、どんなユーザーが見ても刺さるものがある、そういうものを作っていきたいですね。
●取材を終えて:経済圏を作るためのモバイルサービスがさらに増えそう
DMMモバイルPlusは、DMMのモバイルサービスというよりも、DMM経済圏を作るための商材の1つという側面が強いようだ。povoやエックスモバイル、最近ではIIJがホワイトレーベル的に回線を提供し、それぞれの企業が持つ経済圏と組み合わせてサービスを作り上げているが、立ち位置としてはそれに近い。仕組みとしてはMVNOではないものの、各企業のブランドを冠しているという点では、ライトMVNOよりさらに軽いスーパーライトMVNOともいえそうだ。
IIJと組んでJALモバイルを手掛ける日本航空しかり、DMMしかりで、最近ではライフスタイルサービスとホワイトレーベル的なモバイル回線を組み合わせる動きが目立つにようになってきた。ライトMVNOとはいえ、MVNOになるのは設備投資がかかり、技術力も必要になってくるが、このような座組であればより気軽かつ身軽に参入できる。経済圏を作りたい企業のニーズとマッチしていることもあり、DMMモバイルPlusのようなサービスは、今後も増えていく可能性がありそうだ。
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