「iPhone Pocket」に結実したイッセイ ミヤケとAppleのジョブズ時代から続く縁

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2025年11月11日 18:11  ITmedia PC USER

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11月14日、イッセイ ミヤケとAppleの協業による「iPhone Pocket」が登場する

 2025年、iPhoneはウェアラブルコンピュータに進化しようとしている。9月発表の「iPhone Air」や「iPhone 17」「iPhone 17 Pro」シリーズにはクロスボディーストラップという純正ケースに通して身につけるApple純正のストラップが別売りされていたが、Appleのデザイナーたちは彼らが敬愛する世界的ファッションブランドにも、iPhoneを身に付ける方法の模索を依頼していた。


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 その頼まれていたブランドというのが、日本のイッセイ ミヤケグループのデザインディレクターでもある宮前義之氏が率いるチームだ。


 こうして出来上がったのは、見ているだけでも楽しくなってくる8つのカラーバリエーションと2つのサイズバリエーションがある「iPhone Pocket」だ。


●iPhoneのために作られた新しいポケット


 iPhone Pocketは、iPhoneをこれまで以上に身近に感じるための新しいポケットだ。世界中の人々がイッセイ ミヤケと聞けば連想するプリーツ加工(衣服に立体感を出すためなどに施される「ひだ」や「折り目」)が施された細長いニットのポケットで2種類のサイズが用意されている。


 iPhoneの高さの2.5倍ほどの長さのショートストラップデザイン(2万5800円)は鞄の持ち手に巻き付けたり、手に巻き付けてハンドバッグのように持ったりすることもできる。


 ショートストラップのちょうど倍の長さのロングストラップデザイン(3万9800円)は肩に斜めがけにすると、ちょうどiPhoneが腰のあたりにくる。


 もちろん、あえて結び目を大きくしてロングストラップをカバンに巻きつけたり、ショートストラップをそのまま腕にかけたりして持ち歩くといった使い方をしても構わず、使い方はユーザー次第だ。


 製品の特徴をいくつか挙げると、


・モデルを選ばない設計:素材が伸縮するため、小さなサイズのiPhoneから大きなサイズのものまで全モデルに単一の製品で対応


・スクリーンの変化を感じとれる透過性:生地の隙間からディスプレイが透けて見えるので着信やメッセージ通知が届いたことが分かる


・衝撃吸収:3D構造により適度な厚みを持ち衝撃をやわらげる


 実際に手に取ると非常に軽く、触り心地も良く、伸縮性は楽しく、色展開も美しく身に付けると心も軽やかになる。


 一見単純な製品に見えるかもしれないが、実は非常によく考えられ、非常に高品質な作りになっている。単純にこれと同じような形の布を切ったり縫い合わせたりするだけで作れるか想像してほしい。


 同様の形状を作ろうとしても、おそらく真ん中に穴を開けると、そこから製品が裂けて穴が広がってしまうだろうし、素材選びを間違えれば熱がこもってしまう。そもそもこれだけ軽やかで柔軟性があり、発色のきれいな製品はなかなか作れない。


 そして特筆すべきは、製品の横についた「issey miyake」と書かれたタグの根っこにすら縫い目が見当たらない。本来、製品のこんな中腹のあたりとなると、通常のミシンでは縫製が困難な箇所である。


 こういった部分の実現には、イッセイ ミヤケの3Dニットの製造技術と、今日の技術では難しい加工も諦めず、場合によっては加工をする道具の開発までして形にしてしまうAppleの技術力が結びつくことで実現している。


 世界トップクラスのデザイン力を持つテクノロジーブランド「Apple」と日本でトップクラスのデザイン力を持つブランド「イッセイ ミヤケ」のコラボレーションは、世界のデザイン業界にとっても大きな衝撃を与えるはずだ。


 iPhone Pocketは、11月14日から世界の8つの国と地域で限定品として提供される。日本ではApple Ginza、海外ではApple SoHo(ニューヨーク) 、Apple Regent Street(ロンドン)、Apple Marche Saint-Germain(パリ)、Apple Piazza Liberty(ミラノ)、Apple Orchard Road(シンガポール)、Apple Jing'an(上海)、Apple Canton Road(香港)、Apple Xinyi A13(台北)、そしてApple Myeongdong(ソウル)といったAppleとイッセイ ミヤケの両方のブランドが強い地域の旗艦店と、その国のオンラインストアで販売する(イッセイ ミヤケの店舗では販売しない)。


 なお、実際にどの程度の数量が提供されるかは不明だが、イッセイ ミヤケの製品に精通している人なら分かると思うが、同社の各ブランドの商品は毎月、予告されている通りのカラー展開が決められた日に発売されると人気色は数日中に売り切れになる。


 iPhone Pocketも同様になるかは不明だが、ファッションアイテムはあまりにも全員が同じものを持ってしまうと特別感がなくなってしまうこともあるため、やはり量はある程度は絞られるのではないかと筆者は想像している。


●日本が世界に誇るデザイン×テクノロジー企業


 ここでAppleは知っていても、イッセイ ミヤケというブランドについては知らないという人のために一般的な情報源では得られない、筆者の視点から見たイッセイ ミヤケというブランドについて簡単に紹介したい。


 創業者は2022年に惜しまれつつ亡くなった三宅一生氏であることは知らない人がいないだろう。


 ファッションを、ただ装飾表現の違いだけで捉えるのではなく、そもそも形としてどうあるべきか、一本の糸にいたるまで研究し、オリジナル素材の開発も行い、その後の服の作り方や展示のされ方、店舗の設計、店舗で配られる水のアルミボトルのデザインまで、常にモノがどうあるべきかまで徹底的に探求し、貪欲に最新のテクノロジーも採用してデザインをしている会社だ。また、ファッションブランドでありながら「エンジニアリングチーム」と名乗る人たちもいる点で、他のファッションブランドとは大きく異なっている。


 日本のデザイナーも含め、世界中の多くのファッションブランドは、シャツ、ジャケット、パンツ、スカート、ロングドレスなどいくつかの形の決まったアイテムの文法に沿って、その装飾方法を変えているだけだが、そうしたものを「西洋服」と捉え、それとは異なる服作りを探求してきた。


 西洋服の多くは、布をいくつものパーツに裁断し、人の形に合わせて縫い合わせることで立体的な形状を作ってきたが、イッセイ ミヤケは身体との間に余白や隙間を持たせても軽やかで動きやすく身に付けても心地よい服が作れることを実際の製品製作で証明してきた。


 人の身体を覆う衣服としておそらく最もシンプルでミニマルな形であり、着物を作る際の基本単位でもある「一枚の布(a piece of cloth)」を理想の形として、ファッションのあらゆる可能性を追求し、その中で世界に衝撃を与える数々のイノベーションも起こしてきた。


 中でもファッション業界に激震を走らせたのが、Appleが初代iMacを発表した1998年に発表されたA-POC(a piece of clothの頭文字)と言う技術だ。


 それまでのファッションアイテムの多くは、デザイナーが描いたイラストを元にパタンナーと呼ばれる人がそれを立体的に作るために必要な布パーツの形を考え、それを切り取るための型紙を作成していた。これをテキスタイル(布など)メーカーから仕入れてきたテキスタイルに、この型紙を当ててその形のパーツを切り取って服を作っていた。


 これに対して、A-POCは糸からあらかじめ切り取るパーツの設計図が組み込まれたテキスタイルを製造してしまう技術だ。あらかじめ服の形やパーツに関するデータをコンピュータに入れておくと、設計図の組み込まれたテキスタイルが出来上がるので、その設計図通りに切り取って縫製すれば、意図していた通りの服が出来上がる。


 これは21世紀になってファッション業界で話題になった「裁断ロス」(布の端材を大量に余らせてしまう環境問題)を大幅に減らす画期的な技術でもあり、21世紀に入ってから話題になった「ファッションテクノロジー」を10年以上も前に先取りしていた極めて先進的な技術だ。


 今回のiPhone Pocketで中心的役割を担った宮前義之氏も、この技術に衝撃を受けてイッセイ ミヤケの入社を決めた。


 宮前氏はイッセイ ミヤケの4代目デザイナーとして、パリコレで発表する衣服のデザインなども手掛けたが、新しい素材や新しい製法を研究する研究者気質を生かして、現在はテクノロジー企業やアーティスト、クリエイターなど他社とのコラボを続ける2021年設立の新ブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」を率いている。


 ソニーが開発したお米のもみ殻で作った天然素材トリポーラスで、これまでの衣服では表現できなかった「黒」を表現した「TYPE-I(ワン)」と呼ばれるシリーズや、3Dプリンタを用いて靴作りをするフットウェアブランド「Magarimono」と組んで作った「TYPE-III Magarimono project」、蒸気を当てると変形する素材スチームストレッチを使って立体的な服を少ない縫製で作れるように東大発ベンチャー「Nature Architect」の最新メタマテリアル設計技術を活用して作った「TYPE-V Nature Architects project」、衣服の製造過程における課題の1つである、テキスタイルの廃棄を減らすため、幾何学やアルゴリズムを応用した新たなデザインのシステム「Algorithmic Couture」を開発するSynfluxと共に作った「TYPE-IX Synflux project」など、技術的に見ても面白いファッションアイテムを非常に多く手掛けている。


 作っているのは衣服だけでなく、同社のデザインやエンジニアリングの技術を、さまざまな形に応用しているのも魅力だ。現在、東京ミッドタウン六本木にある「21_21 DESIGN SIGHT」(創立者は三宅一生氏)のギャラリー3にて、「一枚の布」と「一本のワイヤー」を融合させた新たな照明器具のプロジェクト「TYPE-XIII Atelier Oi project」の展示も11月24日まで行われている。


 これは、スイスを拠点とするデザインスタジオ「atelier oi」(アトリエ・オイ)と「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」との協業で生み出したものだ。


●イッセイ ミヤケとAppleの接点


 イッセイ ミヤケは、Appleと非常に接点が多かったブランドでもある。


 イッセイ ミヤケとAppleのおそらく最初の接点は1983年頃、まだ28歳前後のスティーブ・ジョブズ氏がソニーの工場を訪れたことにさかのぼる。そこでジョブズ氏が作業員が皆、同じ制服を着ている理由をソニー共同創業者の盛田昭夫氏に「職位、職種を問わず心を1つに仕事に取り組む」という目的があることを聞き感動したという有名な逸話がある。


 実はこの時、ソニーの工場が採用していたユニフォームが、「誇りを持って着られるデザインを」と、1981年から採用が決まった三宅一生デザインのユニフォームだった。


 ジョブズ氏は、この影響でAppleでも制服を採用しようと三宅一生氏にベストを作ってもらうが、Apple社員からは大不評で、結局、Appleでユニフォームを採用するアイデアはボツになってしまった。


 その後、一度Appleを追い出されたジョブズ氏が1996年末にAppleに戻り、1997年に会社の経営トップに返り咲くと、真っ先に行ったのが「Think different」というジョブズ氏を含むApple社員がヒーローとして讃える人物を、世界を変えたクレイジーな人たちとして称えたCMキャンペーンを展開した。


 世界展開されたCMに出てきたのはアインシュタインやピカソ、ガンジーなどだが、それに加えて国ごとに展開したシリーズもあり、日本で展開したThink differentのポスターには三宅一生氏が選ばれており、渋谷の街中などにもビルボード広告が掲げられていた。


 その後もジョブズ氏はたまに日本で行われた製品発表会や盛田昭夫氏を追悼した製品発表会などで、イッセイ ミヤケ(正確には2020年で休止したブランドのイッセイ ミヤケ メン)のものと思われるシャツやジャケットを着用している。


 イッセイ ミヤケ メンが出したハイネックの長袖シャツが「スティーブ・ジョブズのタートルネック」として世界的に有名になった(ただし、実際にはタートルネックは襟が首全体を覆う長さがあるので、正確には首への締め付けがキツくないモックネックまたはハーフタートルに分類される)。


 ジョブズ氏が愛用していたシャツは1997年秋冬コレクションのものだと言われており、イッセイ ミヤケ メンではシーズンの終わったものは基本的に再生産をしないが、ジョブズ氏が愛用していたものに関してはイッセイ ミヤケのニューヨーク支店にジョブズから直接、数十着単位でオーダーが入ったこともあり、特別に再生産をすることが決まった、という(プロジェクトにはiMacやジョブズ氏の当時の肩書きのiCEOにちなんで「iShirt」と言うコード名が付けられたという)。


 最初の数十着は三宅一生氏からジョブズ氏へのギフトとして無償で提供されたが、ジョブズはその後も年間数十着をオーダーし続けたと言われている。


 そんな三宅一生氏の魅力を知る創業者、スティーブ・ジョブズ氏の死後は、Appleとイッセイ ミヤケも少し縁遠くなっていたように感じていたが、コロナ禍の前後からイッセイ ミヤケの「Pleats Please」や「Homme Plisse」といったブランドが、(元々、ヨーロッパでは強かったが)突然、米国でも高感度層の間で人気が高まり、Appleの新製品発表会に登壇する重役の中にも、Pleasts Pleaseを着て登壇する人が何人か出始めた。


 さらにAppleのデザイン部門、Design Studioでは、よりイッセイ ミヤケ率が高まるという。


 筆者は、株式会社イッセイ ミヤケについて日本で最も先進的なデザインの企業であり、テクノロジー企業だと思っており、同じくデザインを主軸に素晴らしいテクノロジー製品を生み出し続けるAppleとの協業を心からうれしく思っており、これを機に日本を代表するブランド、イッセイ ミヤケの素晴らしさがより多くの日本人にも広まることを期待している。



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  • 今のスマホが大きすぎる。アップルがガラケー作らないかな?
    • イイネ!5
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