仕事のやらされ感、「年収・学歴」より幸福度に直結 “転職せず”に環境を変える方法とは

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2025年11月20日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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筑波大学 池田めぐみ助教

 従業員のエンゲージメント(会社への愛着心、信頼感、貢献意欲)低迷に悩む企業は少なくない。こうした中、注目されているアプローチが、自身の仕事を再定義する「ジョブ・クラフティング」だ。筑波大学で組織行動論、人材開発論を研究する池田めぐみ助教は、ジョブ・クラフティングの意義と具体的な実践法について講演した。


【画像】仕事を再定義する? 「ジョブ・クラフティング」の種類


 本稿は、従業員体験(EX)管理ソフトウェアなどを提供するクアルトリクス(東京都千代田区)が11月10日に開催したイベント「Qualtrics EX Conference 2025」の講演内容を、一部抜粋して紹介する。


●「きれいごと」は従業員には響かない


 企業がエンゲージメント向上に注力すべき理由は明確だ。エンゲージメントの高い従業員は、組織の成長に直結する行動を示すからである。エンゲージメントが高い層は、低い層に比べてハイパフォーマー比率や生産性が高い。他者支援行動も活発で、組織全体の活力向上に寄与するという調査結果もある。


 しかしクアルトリクスの調査によると、日本企業の多くが「エンゲージメントのスコアが停滞している」という。同社の市川幹人氏は、キャリア開発やパーパス経営といった施策は確かに重要であるものの、明確なエンゲージメント向上にはつながっていないと指摘する。


 「会社の上層部がどんなに素晴らしい施策を打ち出したとしても、従業員の一人一人が向き合っている日々の仕事に対して、面白さ、関心、やりがいが感じられなければ響かないのではないか」(市川氏)


●「やらされ感」から抜け出し、仕事に価値を見いだすこと


 エンゲージメント停滞の背景には、従業員が自分の仕事を「つまらない、やらされているだけ」と感じる現状がある。池田氏は、この“やらされ感”からの脱却が鍵だと指摘する。


 心理学では、人間は報酬よりも「価値の実感」や「仕事そのものの楽しさ」によってモチベーションや幸福感が高まるという研究がある。また、人材紹介会社パーソルホールディングスの調査によると「仕事を自分で決められている」人は、仕事の満足度が高いという傾向が確認されている。


 この考え方を象徴するのが「3人のレンガ職人」の逸話である。これは、大聖堂を建設している3人の職人に何をしているのか聞いたところ、1人目は「見れば分かるように、ただレンガを積んでいるだけだ」と答え、2人目は「家族を養うためにレンガを積んでいる」と答え、3人目だけが「歴史に残る偉大な大聖堂を建てている」と語ったという。


 これは、同じ作業でも「仕事にどんな意味を見いだすか」によって、やりがいや動機づけが大きく変わることを示す寓話として知られている。


 池田氏は、この逸話を引用し「目の前のレンガ積みに『最高に意味があり楽しい』と感じる人ほど、エンゲージメント高く働ける」と説明する。


●仕事を「再定義」するジョブ・クラフティング


 ジョブ・クラフティングとは、従業員が自らの業務範囲や関係性を再設計し、やりがいや楽しさを高めるアプローチである。池田氏は、その主な次元を3つに分類する。


タスク次元ジョブ・クラフティング


 タスク次元ジョブ・クラフティングは「仕事の内容」や「やり方」を自分好みに変えることだ。


 例えば、出版社の編集者が上司に任された本の編集の仕事をするだけでなく、「未来のベストセラー作家」を発掘するために新人コンテストを企画することなどが挙げられる。


人間関係次元ジョブ・クラフティング


 人間関係次元ジョブ・クラフティングでは、「誰と」「どのように関わるか」を再設計する。


 例えばアパレル販売員が「服を売る」だけでなく「お客のファッションの悩み相談に乗ること」に価値を見いだし、仕事に取り入れることがあてはまる。


認知次元ジョブ・クラフティング


 認知次元ジョブ・クラフティングとは、仕事の捉え方や意味付けを変える取り組みだ。例えば製薬企業の経理担当者が、一見単調に思える自分の作業も「患者の幸せにつながる」と認識し、価値を再定義することなどがこれに相当する。


 池田氏は上記に加え、疲弊してしまった従業員には「縮小的ジョブ・クラフティング」も有効だと話す。これは、重要だが必須ではないタスクや、ストレスを与える人間関係を最小限に抑える工夫である。必要な会議だけに参加する、苦手な人との接触を減らすなどが例として挙げられる。


●成功の鍵は上司・チームとの協同


 ジョブ・クラフティングを組織に広げるには、従業員の努力だけでは不十分である。上司や同僚の理解と協力が不可欠だ。池田氏の調査では、「相談相手がいる従業員」ほどジョブ・クラフティングの実践度が高いことが示された。


 一方で「ジョブ・クラフティングは“一人前”になってから行うべき」という価値観が、若手の工夫を阻害する現状もある。しかし、上司自身が生き生きとジョブ・クラフティングをしている職場では、その姿勢が部下にも伝わると池田氏は強調する。


 ジョブ・クラフティングの成果としては「パフォーマンス向上」「ウェルビーイング向上」「他者支援行動の増加」などが科学的に確認されている。一人のパフォーマンスがジョブ・クラフティングによって向上すると、他者の仕事が楽になることがある。このように、組織全体の利益に直結する取り組みとして理解されることが重要だ。


 ジョブ・クラフティングは、従業員が転職せずに「自分らしいやりがい」と「高い成果」を両立させる手法だ。池田氏は、多様性が増し従来施策が“刺さりにくい”時代だからこそ、「個人に合わせてカスタムできる」ジョブ・クラフティングが重要だと結論づける。従業員が主体的に仕事へ向き合える環境づくりこそ、硬直化したエンゲージメントを動かし、企業価値向上の鍵となるかもしれない。



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  • 昔はお父ちゃん1人が9時5時で働いて一家4人を食わせてた。毎日夕方6時には一家団欒が有ったのに今では家族全員が働いても幸福感が全然無い。国家運営側のミスを追求する国民も居ずで奴隷社会化。
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