写真 みなさんこんにちは! ファッションスタイリスト&ライターの角佑宇子(すみゆうこ)です。以前の記事で、若い女性の間で下着のチラ見せや腰パンが流行していることを紹介しました。しかし、実は女性だけでなく、若い男性の間でも腰パンの流行が復活しています。
40代女性にとって男性の腰パンといえば、高校時代にクラスの男子たちが好んでいた腰パンスタイルを思い出しますよね。そうなんです、その男子高校生の腰パンスタイルが令和の今、返り咲いているというわけです。そもそもなぜ、若い世代は今、腰パンを好んでいるのか。
今回は服装から読み解く! Z世代の腰パン流儀について解説したいと思います。
◆腰パンってダサい。なのにどうして流行るのか
正直なところ、腰パンって……ダサいですよね? 私たちの学生時代に腰パンをしていた男子高校生を思い出してみても、筆者は当時も今も変わらず「パンツが見えててだらしないなぁ」としか思いません。皆さんはどんな印象をお持ちですか?
ファッショントレンドというのは、たとえそれがどんなに不思議なスタイルであっても、流行が加熱している間は「おしゃれ!」「かわいい!」という目線で見てしまうものです。しかし、腰パンに関してだけは不思議なもので、20年前の流行当時も今の再ブームも相変わらず「ダサいな……」という印象にしか映りません。
それなのに、時代を経てまた再び流行する。それはなぜなのでしょうか。
◆腰パンの起源は、米刑務所の囚人服?
そもそも腰パンの流行の起源については諸説ありますが、米刑務所の囚人服から来ているという説が有名です。囚人たちは凶器の所持や自殺を防止するため、ベルト着用が禁止されていました。そのため自然と囚人服がずり落ちて、腰パンスタイルというものになったといわれています。
そんな反社会的な反骨精神から着想を得たヒップホップ系アーティストたちが腰パンスタイルを踏襲し、ストリートファッションとして昇華されはじめました。
90年代のヒップホップ・ストリートカルチャーブームから続々と増え始めた腰パンファッションは2000年代に入ると、その勢いが加熱しました。国内では当時、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』『ごくせん』『野ブタ。をプロデュース』が話題となり、作中に登場するヤンキーやギャル系のメンズファッションが支持されていました。
当時のメンズファッションといえば、とにかく襟足を長めに腰パンをはき、ワイルドかつ男の色気を感じさせるものがウケていたので、腰パンスタイルもルーズでかっこいいと人気に火がついたのでしょう。
◆腰パンの流行は、10代の社会への反骨精神だった
前回腰パンが流行した1990年代後半から2000年代初期を思い返してみると、「キレる17歳」という言葉が話題となっていた当時、「援交(援助交際)」や「おやじ狩り」といった、若者の犯罪の多発が深刻な社会問題化していました。
音楽カルチャーでいえば、若者の抱える不安や恐れ、孤独を代弁した浜崎あゆみが音楽界を席巻していた時代ですね。10代の葛藤が目に見えて表現されていた時代であり、その反骨精神がファッションにも反映されていたのではないかと推察します。
◆若者が主張する時代は、20年サイクルでやってくる
思えば、この反骨精神は時代を経て繰り返されているのではないでしょうか。90〜00年代は腰パンという形で、それより前の80年代は暴走族の流行によって学生服は短ラン・ボンタンスタイルが流行しました。さらに遡った60年代は服装での主義主張というのは目立ったものがありませんが、学生運動が非常に加熱していた時代ですよね。
このように今を生きる社会に対して、若者の主義主張が強くなる時代は20年サイクルでやってくる傾向にあります。
それに伴い、意識的か無意識的かは定かではありませんが、ファッションによる主義主張も強くなり、時代に反発するかのごとく着崩すスタイルが横行します。2025年の現在、若者の間でおよそ20年ぶりに腰パンが流行しているというのは、Z世代の目には見えない社会に対する意見や主義主張の証なのではないかと感じます。
◆社会問題への意識が高く、意見を言える世代
今のZ世代は、少なくとも筆者の世代であるミレニアル世代に比べて、社会問題に対する意識が高いです。SDGs問題にも積極的に関心を持ち、政治への意見も発信できる。「個人主義」「多様性」を謳われる時代で育っているからこそ、私たち30〜40代に比べて、自発的な意見を持っている傾向が非常に強いなと、その世代と接していて個人的に感じています。
少なくとも筆者は20代前半ではコミュニティからの仲間外れを恐れて、長いものにしっかり巻かれていくような人間でした。そして反骨精神を持った人間を「面倒な人」とラベリングをしつつ、次は自分が“そっち側”に行かないように終始ヒヤヒヤしながら生きていたものです。
到底、今の20代の子たちのような「私はこう思う!」「それは違うんじゃないんですか?」といったNOを言えるような若者ではなかったですね。そういう意味では、今の20代は本当に正義感が強く、大人な意見を持っている方が多いので頭が上がりません。
◆平成回帰は単なるムーブメントにあらず
昨今やたらと「平成レトロ」「Y2K」といった2000年代カルチャーへのオマージュが増えたのも、平成のギャルマインドや反骨精神が今のZ世代と共鳴しているからなのではないかと思うのです。
もちろん当の本人たちは、幼少期の時代を懐かしんだり、逆に青春時代にはなかったカラフルファッションを新鮮に思ったりしているだけかもしれませんが……。挑発的なほどに肌を見せる服が流行しているのも、腰パンが流行しているのも、「私は人目を気にしない」「制限をかけずにボーダーレスに生きる」という主義主張を示すかのごとく身につけているようにも感じるのです。
◆令和の腰パンは「楽にいこうよ」
平成の腰パンは「斜に構えてこそカッコいい」といった尖りがあるのに対し、令和の腰パンは男女ともになんとなく「堅苦しくなく楽にいこうよ」といった、着こなしの違いを感じます。
平成は服から小物に至るまでゴリゴリに盛っていて攻めた印象なのですが、令和はシンプルなデザインを選ぶ。その代わりに服装でゆるっと着こなすといった何ともZ世代らしい着こなしを感じます。
腰パンスタイルという同じ着こなし方が再流行しているにしても、世代によって捉え方もメッセージ性も全く違うものになっているのが、やはりファッションの面白いところではないでしょうか。
<文&イラスト/角佑宇子>
【角 佑宇子】
(すみゆうこ)ファッションライター・スタイリスト。スタイリストアシスタントを経て2012年に独立。過去のオシャレ失敗経験を活かし、日常で使える、ちょっとタメになる情報を配信中。2023年9月、NHK『あさイチ』に出演。インスタグラムは@sumi.1105