「EdgeTech+ 2025」で生成AIと製造現場の関わりを見た モノ作りの現場で深刻な人手不足を解消する切り札となるか

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2025年11月25日 12:11  ITmedia PC USER

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ITmedia PC USER

パシフィコ横浜(横浜国際平和会議場)で開催された「EdgeTech+ 2025」

 神奈川県横浜市にあるパシフィコ横浜で、IoTの総合展示会「EdgeTech+ 2025」(11月19日〜11月21日)が開催された。


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 ともすれば否定的な文脈で語られることも増えつつある生成AIだが、人手不足に悩む製造現場の未来を切り開くものとしてどのように活用できるかを、さまざまな組み込み技術と融合させることで提案する展示会だ。


 いくつかのブースを訪問し、生成AIがモノ作りの現場でどのように作業効率を向上させられるのかを聞いてきたので、紹介したい。


●BTOを得意とする国産の組み込み用PCを提案――エプソンダイレクト


 エプソンダイレクトは、30年以上にわたってBTOで顧客の要望に応じたPCを販売してきた。コンセプトは「お客様のビジネスに寄り添う。エプソンPC」だ。


 そんなエプソンダイレクトのブースでは、ディスプレイの背面に取り付けられるような超小型PCから、グラフィックスカードを組み込んでエッジでAI処理を可能にするモデルまで展示をしていた。


 例えば「Endeavor JS60」は、約33(幅)×150(奥行き)×158.5(高さ)mmという小型ボディーに豊富なUSB端子に加え、有線LANポート、DisplayPort、HDMIといったインタフェースを備えている。


 一体型キットを使えば、ディスプレイの裏に取り付けて省スペースに利用することも可能だ。タッチディスプレイと組み合わせることで、製造現場でも利用しやすい。


 ペーパーレス化を実現するソリューションとして展示されていたのは、タブレットPC「Endeavor JT51」(10.1型)と「Endeavor JT70」(11.6型)だ。OSにWindowsを採用したタブレットPCを製造/販売し続ける理由を聞くと、「基幹システムの中には、iOSやAndroid OSでの接続を許可していないものが存在しているから」と説明する。


 タブレットタイプであっても、USB Standard-A端子を搭載し、マウスやキーボードなどを接続しやすいのが特徴だ。また、背面にさまざまなサイズのVESA規格のネジ穴を備え、本体を保護する役目を持つ「マルチジャケット」を利用すれば、現場に持ち出しやすい。図面や作業指示の確認、在庫管理などをペーパーレスで行える。


 エプソンダイレクトでは、ソリューションパートナーが、どのように自社製品を製造現場で生かしているのかといった内容の展示も行っていた。各社での活用方法も紹介しよう。


日本マイクロソフト


 日本マイクロソフトとの共同展示では、エプソンダイレクトで取り扱っているCopilot+ PC「Endeavor NL3000E」を使って、Copilotの生成AIが、どのように企業の生産性を高めるかということを展示していた。


 例えば、「何か、ロボットに関係したPowerPointの資料を作ったと思うんだけど、いつ作ったのか、どんなファイル名で保存したのか、どのフォルダーに保存したのかも覚えていない」といった際に、リコール機能を使って「ロボット」という覚えている単語で検索するだけで、ファイルを見つけることができる。


 また、ECショップで見かけて購入しようと思ったものの、お気に入りに入れるのを忘れてしまったような場合あっても、ディスプレイに表示したことがあるものであれば、リコール機能で検索して呼び出し、すぐに欲しい情報にたどり着ける。


 検索する手間や時間を大幅に削減できるため、生産性を高められるというわけだ。


 また、サードパーティー製ではあるが、AI Edge Hubの「スピーチコネクト」を紹介していた。


 スピーチコネクトとCopilot+ PCの組み合わせであれば、オフラインでも同時通訳した日本語を(字幕としてではないが)表示させられる。Copilotのライブキャプション機能は日本語への翻訳に未対応のため、同アプリで補完できることになる。


 製造業や銀行など、秘匿性の高い情報をオンプレミスで日本語に翻訳可能なため、時間をかけて翻訳し、テキスト化するといった手間を省くことができる。


Airion(エアリオン)


 Airionが提供しているのは「ナレッジ活用AIシステム 技術継承くん」だ。製造現場でベテランがどんどん少なくなり、後任育成がままならないという場合でも、ベテラン職人がAIとの対話を通じて、簡単にナレッジベースを作成し、新人があいまいな自然言語で検索できるようにするというシステムだ


 一般的に、社内wikiなどのナレッジデータベースは、「何について」「どんな項目で」「どんな内容を」入力するかといったことを事前に考える必要があり、ナレッジを残すための下準備に手間がかかってしまい面倒な場合もある。


 しかし、技術継承くんであれば「異臭がしたら継ぎ目をチェック」といった言葉をナレッジに登録するだけで、「どのような異臭ですか」「どの継ぎ目ですか」「どのトピックと関連していますか」などといった質問をAIが投げかけるため、情報がそろったナレッジを作成しやすい。


 このソリューションだけでも問題なさそうだが、Airionでは「先にAIから質問を投げかけるようにしてほしい」「デスクトップの隅の方にボタンを常駐するようにしてほしい」「UIにコーポレートカラーを使ってほしい」といったカスタマイズにも応じる。


HACARUS(ハカルス)


 HACARUSでは、外観検査AIソリューションを展示していた。工業製品の不良チェックなどは、今でも人の目に頼っている部分があるが、それを省人化/省力化しようというソリューションである。


 一例として、ある特定の継ぎ目金具の外観検査の様子をデモ展示していたが、1画角1.8秒/60の画角で撮影した画像をAI処理により良品/不良品に分類する。仕分けのために学習させるのは20〜60個の良品だけだ。熟練者の目でチェックしていたものを、短時間で仕分けられるようになる。


 「熟練者であれば、HACARUSより短時間でチェックできるかもしれないが、今はその熟練者の数が減り、さらに後継者を育てる時間も取れなくなっている。後継者がいないという課題もある。HACARUSであれば、その課題を解決する」と担当者は説明してくれた。


 なお、良品モデルの登録学習をする際に、人の手を加えることも可能だ。これにより、より熟練工のような良品チェックを行える。


フツパー


 フツパーでは、さらに難易度の高い外観検査AIソリューション「メキキバイト」を展示していた。デモ展示に用いられていたのは、カップケーキといった食品だ。


 金属や樹脂などの工業製品と異なり、食品ではトッピングの量や位置にばらつきが生じてしまうが、それらが適正量、欠損なくトッピングされているかを検査して良品/不良品をチェックする。企業規模や経営者の采配などで適正量に幅がある場合でも、カスタマイズできる。例えば、トッピングのココナッツの量が90%以上であればOKとするか、85%以上であれば問題ないとするか、といったまるで人間の検査技師のような柔軟さをAIに与えられるようになっている。


 フツパー(Hutzper)では、ソフトウェアとそのカスタマイズだけでなく、必要な画角を撮影するためのカメラ、チェック後の仕分け方法(弾き落とす、NGのブザーで警告するだけなど)、チェック速度に応じたPCなどの選定も行い、オールインワンパッケージとして納品する。


 「こういうソリューションがあるのは知っているけど、何を使えばできるようになるのか分からない、宝の持ち腐れになるほどのスペックはいらない、といった相談に対して、課題を解決しつつ現場にぴったり合うカスタマイズしたパッケージを提供している」と、オールインワンパッケージであることのメリットを担当者が教えてくれた。


 エプソンダイレクトではさまざまカスタマイズPCを提供しているが、それは中小企業に対してもソリューションパートナーに対しても同様だ。注文を受けてから最短3日で、しかも1台から出荷する。


 「すぐに欲しいというニーズに答えられるのが、我が社の強みだ」とエプソンダイレクト事業推進部部長 福田克稔氏は語る。


 「保証期間が7年と長期であること、また中身は最新でも形やサイズ、インタフェースの位置を変えないPCを作り続けることで、弊社製品にぴったりなサイズの設置場所を作ってくださっている現場で使い続けてもらえている。これからも、中小企業に寄り添える製品を作り続けていきたい」(福田氏)


●小さく始めて必要を感じたらシステムを大きくする――日本HP


 日本HPでは、ディスプレイ裏に取り付けられるようなコンパクトなものから複数のグラフィックスカードを搭載できるモデルまで、各種ワークステーションを展示していた。


 「生成AIを使いたくても、製造業や研究所、開発をしている部署などでは、入力した情報をAIの学習に使わせるわけにはいかない。そのため、ローカルで企業オリジナルのAIモデルを構築して活用する必要がある」と、エッジソリューションの必要性について担当者は解説する。


 とはいえ、どれだけの規模のものが必要なのか、ローカルAIがマッチするのかといった手探り状態の企業も多い。そのようなわけで、まずは小さいものを導入して“勘所”をつかんだり、使えると感じたりした場合に大きいものへと乗り換えるという方法を、日本HPでは提案している。


 生成AIという言葉を聞くと、著作権のある画像を学習に使われたなどの話題に事欠かないが、エッジAIであれば、そういった問題は生じない。国家機密レベルのナレッジをエッジAIで運用しているという航空自衛隊横田基地の事例を担当者は紹介してくれた。


 「覚えないといけないことがたくさんあるが、新任者ではすぐに対応できないこともある。自然言語で質問し、必要な情報を引き出すナレッジデータベースをエッジAIで運用しており、業務効率化に役立っている」とのことだ。


 日本HPが取り組んでいる「バーチャルヒューマン」の展示も行っていた。2分間の実在する日本HP社員の動画から、会話するときの口の動き、瞬きや表情などを取り込み、質問に対して音声で回答するというものだ。「企業によって使いどころはさまざまだと思うが、ヒントを得てもらえれば」と担当者は話していた。


●開発を加速するインテルのオープン・エッジ・プラットフォーム


 インテルでは、最新エッジAI戦略「Open Edge Platform」(以下、オープン・エッジ・プラットフォーム)の業界別AIデモを展示していた。


 運輸/小売/製造/ロボットといった業界別に最適化されたAI Suiteがどのように働くのか、空間を移動するものをどのように追跡していくのか、モノをどのように認識するのかといった情報を動画で展示することで、活用のヒントとなっていた。


 インテルのオープン・エッジ・プラットフォームには用途別SDKが用意されており、全て無料である。担当者は「“インテル ソリューションハブ”で検索してもらえれば、業界別に最適化されたAI Suiteを簡単に見つけて試してもらうことができる。開発速度を加速させるのにきっと役立つはずだ」と語っていた。


 インテルのパートナー企業が提供するさまざまなハードウェアも展示されていた。例えば、第4世代Intel Xeonプロセッサを組み込んだリコーPFUコンピューティングの「RICOH AR8300 モデル 320P」、Core i7-14700Eを搭載したNEC「FC-S13G」シリーズ、Intel Core Ultra(シリーズ2)を搭載したASUS JAPAN「NUC 15 Pro+」などだ。


 さらに同ブース内でパートナー企業がデモ展示を行っていた。そのいくつかを紹介する。


東京エレクトロン デバイス


 東京エレクトロン デバイスでは、インテルが提供するオープン・エッジ・プラットフォームのSDKの1つ「OpenVINO」などを併用することで、ハードウェアを変えることなくインテルプロセッサの性能を最大限に引き出すという実証的デモを展示していた。


 「YOLO11n」(ヨロイレブンエヌ)という物体検出ソリューションのオリジナルのフレームワーク「PyTorch」を使うと、CPU性能が4FPSだったものが、OpenVINOへフレームワークを変えるだけで、CPUの性能が5倍に引き上げられていた。また、CPU内蔵GPUも使われるようになっていた。


 さらに、トラッキングに「ByteTrack」(バイトトラック)を併用することで、CPU性能が10倍の40FPSに、CPU内蔵GPUは17倍の68FPSという処理速度になっていた。


 担当者は「処理速度が遅いならハードウェアを換装しよう、と考えがちだが、適切なアルゴリズムを当てるだけで、CPUの持つパワーを最大限に引き出せる。しかも、グラフィックスカードを交換するより、はるかに低消費電力で済む。そういう手法もあることを知ってもらいたい」と話していた。


岡谷エレクトロニクス


 岡谷エレクトロニクスは、顔認識ソリューションを展示していた。最大10万人の顔を登録することができ、約0.1秒で認識して認証を行う。


 担当者は「指紋認証のように何かにタッチする必要がなく、しかも指紋認証より高速だ。入館時の認証や、工場内の装置のログインなどに活用してもらいたい」と話していた。


●組み込み技術の高さをアピールする瑞起


 瑞起ブースでは、ミニPC「X68000 Zシリーズ」をはじめ、組み込みSoCに合わせたハードウェア設計もできる技術力の高さをアピールする展示していた。


 X68000 Zは、発売時に高価でなかなか手の出しづらかったシャープ製のコンパクトなワークステーション「X68000」を、さらにコンパクトにして現代によみがえらせたミニPCで、小さくても当時のレトロゲームをプレイしたり、現代の環境に合わせてさまざまな用途で活用したりできる。シリーズで2度のクラウドファンディングで合計約6億9000万円の支援が集まった。


 展示していたX68000 Zでは実際にゲーム画面を表示しており、接続したコントローラーでプレイもできるようにしていた。


 その他、アーケードゲームとして人気の高かった「DanceDanceRevolution」(コナミ)や、「EGRET II」(タイトー)などを卓上サイズに再現して実際に遊べるようにした「DanceDanceRevolution Classic Mini」と「EGRET II mini」など、受託された機体なども展示していた。


 担当者は「ソフトだけ、OSだけ、基板だけを作ることができる企業は多いが、瑞起ではオリジナルの金型作りからOS開発まで一手に引き受けられる。その開発力に注目してもらえれば」と語っていた。



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