練習が中止になると子どもが怒る! 子ども達が野球に夢中になる少年野球チーム|パイラスアカデミー

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2025年11月29日 21:02  ベースボールキング

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2021年に取材した、川崎市高津区を拠点に活動するパイラスアカデミー。「野球を通じて『思考力』を育む」を標榜していたチームの4年後を追ってみました。







<子どもが聞きに来るまで教えない>



土曜日午前の多摩川河川敷は、数面ある野球グラウンドのほとんどが少年野球で埋め尽くされる。色んな少年野球チームの試合、練習を見ながら暫く歩くと、パイラスが練習をするグラウンドを見つけた。4年前と変わらず、揃いの水色のTシャツを着て練習しているので直ぐに分かった。



練習を見ているのは、アメリカの大学で学び、ドミニカでコーチ経験もある小林巧汰代表(子ども達からは「スティーブ」と呼ばれている)と、代表とは高校時代のチームメイトでもある今清太郎監督の2人。



基本的に練習メニューの指示はほとんど出さない。どんな練習をするのかは子ども達が決める。「守備練習がしたい」「バッティングがしたい」「紅白戦がしたい」と子ども達が求めてきたときに、2人がそれに応える。



大事にしているのは、子ども達が上手くなること、主体的に考えること、挑戦する心を育むことだ。



「正解はこれ」と教え込むのではなく、子ども達が正解に辿り着くように導く。だから子どもが聞きに来るまで技術的なことは教えない。小林代表はこう話す。



「例えば低学年の子がボールを怖がって外野フライが捕れないときがあります。そういうときは私ももの凄く教えたくなります。でもそれをぐっと我慢して、聞きに来るまで待ちます。あまりにも聞きに来ないときは、もどかしくて隣まで言って『俺はずっと外野を守っていたから外野フライ捕るのが上手だし、聞きにきたらそれなりに上手く教えてあげることができるんだけどなぁ』とか、ぼそっと言うこともありますけど(笑)」







だが、果たしてそれで上手くなるのだろうか? 捕る、投げる、打つなどの基礎は初めは指導者が丁寧に教えた方がいいのではないのか?



「教えなくても、(これまでの子達も)みんな勝手に上手くなっていきました。『教えて欲しい』と思ったときにだけ教えたら良いんじゃないかと思っています。5年生くらいになると自然に聞きに来る頻度が多くなりますから、端から見ると普通に野球を教えている普通のチームに見えるかもしれないですけどね」




子ども達が一番教えてもらいたがるのは、捕る、投げる、打つ以外の「野球のセオリー」の部分なのだという。



「そういう部分は口で教えるだけでなく、紅白戦の途中などでプレーを止めて意識して教えるようにしています。こちら発信で教えていることがあるとすると、その部分ですね」







<子どもに考えさえ、決めさせる>



紅白戦では試合途中に小林代表が、「作戦タイム」の時間を子ども達に与えた。



「勝つためには残りのイニングでどうしたらいいか? みんなで考えてみて」



5分ほどの時間だったが、子ども達だけでの作戦会議。すると、こんな提案が子どもから挙がった。
「スティーブ、次の回から打順を変えるのはアリ?」
子どもの柔軟な発想に驚く。小林さんの返答も奮っていた。
「きちんとした理由があるならいいよ。理由、説明できる?」
それを受け、子どもはこんな理由を説明した。

逆転するためには得点を取らないといけない

その確率を高めるには先頭バッターが塁に出ないといけない

だから打てる打者から攻撃をスタートさせたい

試合に勝つことを第一の目標にしているチームの子どもからは出てこない発想だと思った。小林代表はこの提案にOKを出した。



ここで大事なのは、野球のルールから逸脱しているとか、そんなことは試合ではありえないということではなく、子どもに考えるきっかけを与え、子どもの発想に蓋をしていないということだ。







このケースのように、パイラスでは子ども達に考えさせることが多い。「この投げ方だと怪我をするかも」と思った子に対しても、メリット、デメリットを説明して、どうするかの最後の判断は子どもに考えさせたり、試合のときは監督がサインを出す方が良いか、ノーサインで子ども達だけでやった方が良いのか、2時間半に渡って子ども達と議論したこともあったという。



そうやって子ども達は、大好きな野球を通じて、自分で考えること、自分で決めることを自然に覚えていく。







<まるで昭和の時代の「公園野球」>



楽しそうな紅白戦の様子を見ていて思ったのは、昭和の時代の「公園野球」に似ているということ。公園野球は子どもだけで集まり、子どもだけでルールを決めて試合を行い、大人の顔色など伺う必要がなかった。だから楽しかった。



前東北高校監督の佐藤洋氏が「子ども達に野球を返す」ということを言っていたが、それはこういうことなのかもしれないなと思った。少年野球も高校野球も、いつだって主役は子どもであるはずだ。本来大人はそれを見守り、困ったときに手を差し伸べる存在でなければならない。そんなことを考えさせられた。



ここまで書くと、「でも、どうせ弱いんでしょ? 下手なんでしょ?」「そんなチームでやっても次のカテゴリーで通用しないよ」といった、大人達の意地悪な声が聞こえてきそうだ。
個人のレベルは様々だが、上手い子は驚くほどに上手い。強豪チームでもレギュラーで出られるような子もいる。決して強いとまでは言わないが、市内大会優勝チームと5年生同士で対戦したときには勝ってもいる。子ども主体のチームだからといって、他のチームに歯が立たないということもない。







<練習が中止になると子どもが怒る>



グラウンドに背を向けて遊んでいる子がいるほど自由な空間だが、練習中に子ども達の声がよく出ている。上手い子は低学年の子に積極的に教えている姿もあった。緩いけれどだらけているという空気はなく、子どもを甘やかしているという空気でもない。



大人が厳しく管理・指導しなくても、子どもたちだけでこんなにも楽しく、しっかりと野球ができていることに、「子どもの可能性」について改めて考えてみたくなった。



最後にこのチームを象徴するエピソードを一つ紹介したい。
週に2回しかない練習が雨で中止になることもある。だが中止の連絡を保護者に入れると子どもから怒りの連絡が代表に来ることがあるそうだ。「子どもからこんなことを言われたんですよ」と嬉しそうに小林代表が話す。



「さっき、雨で中止だとお母さんに連絡が来ました。でも天気予報では○○時からは雨がやむと言っています。そのときにもう一度グラウンドの様子を見てから判断して貰えませんか?」




練習が中止になって子どもが(時に保護者も)喜ぶという話はよく聞くが、中止になって怒るという話はなかなか聞かない。子ども達が「野球が大好き」であることの何よりの証だろう。

練習が中止になったとき、あなたのチームの子どもは怒っているだろうか?
(取材・写真:永松欣也)

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