
業界最大手のNTTドコモが、次なる「ファン作り」のフェーズへとかじを切っている。
総務省が9月に発表した「移動系通信の契約数における事業者別シェア」によると、ドコモが33.6%、KDDIグループが26.4%、ソフトバンクが19.2%だった。
そんな中ドコモが手掛けるのは、子どもたちがプロの世界を体験できる機会を創出し、学びや夢を見つけてもらうプロジェクト「ドコモ未来フィールド」だ。9月に名古屋市で開催した大橋ボクシングジム(横浜市)との協業では、現役選手によるボクシング体験、井上尚弥選手による世界タイトルマッチの公開計量と試合を観るプログラムを組んだ。
業界で圧倒的なシェアを持つドコモが、あえて「すぐには利益につながらない」投資を加速させる狙いはどこにあるのか? 同社ブランドコミュニケーション部の嶋本由紀子コーポレートブランド担当部長にインタビューした。見えてきたのは、ブランド価値向上から顧客の囲い込みまでを見据えた、長期的な「一石四鳥」の戦略だ。
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●「プロと触れ合う機会」提供 体験格差を埋めてドコモのファンに
「(物事を継続するには)楽しむことと、感謝することが大事です。実際に亡くなった方も見てきた自分としては、生きていること自体が奇跡ですし、その一方で、重く考えずに楽しむという意味でもあります。どうやって立ち直るのか。僕は最近、世界タイトル戦で負けました。挑戦することによって、時には失敗することもあります。でも、その体験もお金では買えない価値があると考えています。その気持ちを持てば、その後もポジティブに行けると思います」
プロボクシング前東洋太平洋(OPBF)ウェルター級王者の佐々木尽選手は、子どもたちに向かって、言葉を選びながら丁寧に語りかけていた。現役選手ならではの実感とコメントに、参加した家族は深くうなずき、充実した表情を見せている。
これは9月に開催されたドコモ未来フィールドの中での一場面だ。
未来フィールドの中でも、大橋ボクシングジムとのコラボは実に4回目となる。以前は井上尚弥選手もボクシングを教えた。今回は全国244組・488人の応募から選ばれた小学5年生〜中学3年生と、その親の20組・40人が参加した。
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大橋ジム所属の4人のプロボクサーに加え、八王子中屋ボクシングジム所属の佐々木選手もゲストとして参加。子どもたちにプロの指導によるミット打ちなど、ボクシングを体験してもらった。
体験後には佐々木選手などへの質問コーナーも開催。「物事を継続するコツや挫折した時にどうやって立ち直ったのか?」という質問に対し、佐々木選手が丁寧に説明する印象的だ。
ドコモは、未来へ歩き出す子どもたちに経験の場をつくる「ドコモ未来プロジェクト」を推進している。「ドコモ未来フィールド」は「ドコモ未来ミュージアム」「ドコモ未来ラボ」という3つの舞台の1つだ。
これまでに野球の阪神タイガース、オーケストラのNHK交響楽団(N響)、ラグビーの浦安D-Rocksなど多数のパートナーの協力を得て、体験イベントを開催してきた。
毎回、子どもたちからたくさんの応募があるという未来フィールド。同プロジェクトを始めた経緯について嶋本担当部長は「ドコモは2002年から、未来ミュージアムという子ども向けの絵画コンクールを開催してきました。こうしたコンクールとは別に、協賛先のパートナーさまと一緒に、子ども向けで特別な取り組みとして『何かできることがありそうだ』と考えたのが発端です。その話が出たのは2023年のことでしたね」と振り返る。
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2023年8月には、N響と大宮アルディージャの2つの体験イベントを開催。間近で演奏者がどんな風に弾いているのかを見せたり、サッカー選手と触れ合ってもらったりするなど、普段の生活では体験できないプロの技に触れられる機会を提供した。
「YouTubeや動画によって単に見るだけではなく、実際に体験し、話を聞き、質問する。体験によって、自分の好きなことに、より関心や憧れを持ってもらうことを期待しました」
この背景には、もちろんドコモを好きになってもらいたい狙いもある。加えて、体験格差を埋める意図もあるという。
「2024年の出生数が、70万人を切りました。文部科学省の全国学力・学習状況調査では、夢や目標を持つ子が減り、経済格差による体験格差も生まれてきています。私たちが協賛をしているパートナーさまと、子どもたちの体験格差を少しでも埋め、夢を持つことの後押しができればと考えています」
協賛先の関係もあり、未来フィールドの取り組みにはスポーツ関係のイベントが多い。他のプロの世界をどのように紹介していくのか。
「国立科学博物館筑波研究施設では、人骨の標本を使ったワークショップを開催しました。人骨を直接触ることができて、子どもは目を輝かせていました。保護者の方も研究所の先生を捕まえて、質問責めにしていました」
他にも、吉本興業と協力して、公演前に芸人と一緒にネタを考えるお笑いの体験を提供した。北九州で開催した東京ガールズコレクションでも、ランウェイや舞台裏の体験をしてもらったという。ここから将来の研究者、芸人、モデルを輩出したり、裏方の仕事にも興味を持ってもらえたりできれば、ドコモとしては狙い以上だろう。
●ためたdポイントで「推しクラブ」応援 参加型のファンマーケ
子どもにいろいろな経験をさせたいと思うのは、親として自然なことだ。そう考えた場合、いかにして親の層を、ドコモ未来フィールドに巻き込むかがカギになる。そこでドコモは、未来フィールドに加え、パートナーシップを発展させる形で、別の取り組みも始めた。その1つが「チームになろう。」というJリーグとの協業だ。
「推しJクラブ応援キャンペーン」では、Jリーグ所属のクラブの中から、利用者が『dポイントクラブ』もしくは『d払いアプリ』のカードきせかえ機能で、推しクラブの画像に設定すると、自分がためたdポイントの5%をクラブの強化費として還元する仕組みにした。各スタジアムの通信環境を向上させる取り組みも進めている。
「dポイントカードの提示、『d払い』でのお支払い、『dカード』でのお支払いのいずれかでためたポイントが、当社の負担によって、選択したクラブに還元されるスキームです。(ファンのコミュニティである)ファンダムをドコモが応援する形ですね」
各クラブを応援する「d払い×クラブ応援店」は、全国に1万店以上ある。これをさらに拡大することで、ファンやサポーターが日常的にクラブとのつながりを感じられる機会を増やす。それが地域経済の活性化にもつながっていく。
「保護者の方にdポイントやd払いを利用していただき、dポイントをためる。ポイントをためると、ドコモがクラブの強化費に還元する。未来フィールドなら、子どもがプロの世界に触れるプレミアムな体験を提供する。当社は、お客さまの“好き”を全力で応援する存在でありたいと考えています」
●データ利用量無制限のプランで囲い込み
国の未来もビジネスの未来も、結局は子どもたちが担う。10年先、いや50年先を見据えた持続可能な取り組みが、ドコモの将来には不可欠だ。
「今までは本社のブランドコミュニケーション部だけで、いろいろなことをやってきました。ですが、それでは限界があることが分かりました。Jリーグとの協業のように、地域の拠点それぞれが協業・協賛先と手を取り合って、地域のチームやファンダムを盛り上げていくのが理想ですね」
確かに本社主導では、1回限りのイベントになってしまいかねない。全国にある各支社や支店が主導して取り組むほうが、地域に根付く形になるのは事実だ。
特にスポーツは、人を呼び寄せるのに最適なキラーコンテンツとなる。そこで「ドコモMAX」というデータ利用量無制限の料金プランを作った。
特典として、米プロバスケットボールのNBAやJリーグを配信するDAZNの見放題を、追加料金なしで提供する。コストパフォーマンスが高いことから、ドコモがスポーツを後押ししているというメッセージを発信しつつ、加入者の増加を狙う。
「本当にスポーツはキラーコンテンツだと思います。現場の熱狂や一体感というか……名古屋市での井上尚弥選手の試合は、参加者の方々が目をキラキラさせながら応援していました。自分事のようにドキドキしてしまうコンテンツの力があるのだと思います」
スマホをなりわいとしているからこそ、逆に子どもたちにいろいろな体験をしてもらう重要性を認識しているようだ。
●スローガン変更を主導 現場感覚を持ち続ける意味
ドコモグループは2024年11月、それまでのブランドスローガン「あなたと世界を変えていく。」を、「つなごう。驚きを。幸せを。」に変えた。グループの使命である「つなぐ」という原点に向き合い、「驚きと幸せ」に満ちた価値を、社会へ提供するという思いを込めているという。このスローガン変更を主導したのも、嶋本担当部長のチームだ。
嶋本担当部長はこれまで国際推進部、マーケティング部、ドコモショップ店長、国際事業部、総務人事部など多彩な職種を経験してきた。かつてドコモショップの現場で働いていた際の感覚は、現在の仕事にも生きている。
「未来フィールドの活動も、驚きや幸せにつながると考えています。ドコモショップは全国に約2000店舗あります。ドコモの支社や支店だけでなく、各ショップでも、一緒になって地域を応援する取り組みが始まっています」
協業先とユーザーをつなぐ。子どもと体験をつなぐ。この「つなぐ」の連鎖を起こせれば、未来フィールドが実現したいビジョンに近づく。子どもたちへの投資は、長期的な視点で見た際に、ドコモにとって究極のマーケティングともいえる。
未来フィールドの取り組みは、ドコモのブランド価値向上、顧客の囲い込み、社会貢献、地域経済活性化という「一石四鳥」の効果があると言えそうだ。
(武田信晃、アイティメディア今野大一)
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