「財務省解体デモ」が排外主義運動へと変貌するまで。人々の“あやふやな不安”を後押しに

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2025年12月02日 09:20  日刊SPA!

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10月26日、名古屋駅前で行われた「移民政策反対デモ」
◆「財務省解体」から「移民反対」へ
 今年の前半、「財務省解体デモ」なる社会運動が話題となったことを覚えているだろうか。東京・霞ヶ関の財務省庁舎をはじめ各地の財務局周辺に「財務省解体」を主張する人々が集まり、街宣活動が行われた。3月14日の「全国一斉財務省解体デモ」は千人単位の参加者を数え、複数の大手メディアでも報道された。

 前回は、今年前半に話題となった「財務省解体デモ」の陰謀論にまみれた実態と、その盛衰について論じた。今や見向きもされなくなった「財務省解体デモ」であるが、この運動はその後思わぬ方向へと繋がってゆく。実は、最近各地で行われている「移民反対」の街宣やデモは、そのほとんどが「財務省解体デモ」を源流としているのである。本稿では引き続き、11月28日の発売以降大反響となっている『陰謀論と排外主義 分断社会を読み解く7つの視点』の執筆者の1人である山崎リュウキチ氏にその経緯について振り返ってもらった。

◆自民党本部を「呪殺」

 5月25日、永田町の自民党本部前に200人ほどが集合し「自民党解体」を訴える街宣が行われた。主催者はもともと「財務省解体デモ」に参加していたYouTuberで、前編で紹介した反ワクチン団体「日本列島100万人プロジェクト」も協力していた。ある男性は「自民党はディープステートに忠誠を誓うニセ日本人!仮面ライダーのショッカーと同じだ!」と絶叫し、またある女性は「自民党はワクチンで大量に人殺しをしている!」と気炎を上げた。どちらも「財務省解体デモ」に初期から参加している人物だ。

 参加者に目立ったのは「自民党は中国を優遇している」という主張であった。ある女性は「岩屋(毅)は死刑だよ!殺すんだよ!」と叫んだ。当時石破政権下で外務大臣を務めていた岩屋は、昨年12月に中国人向けビザの取得要件の緩和を表明したことから「中国寄り」とみなす向きがあり、「65歳以上の中国人をビザなしで入国させる」などの誤情報も飛び交った(緩和措置自体も現時点で実施されていない)。ちなみにこの女性はその後、自民党本部ビルに向かって「呪詛」のようなものを唱えると、人差し指と中指を揃え「自民党を焼き尽くせ!エーイッ!」と叫びながら突き出していた。

「財務省解体デモ」には元々排外主義的言説が飛び交っていたが、「自民党解体デモ」以降は「財務省」というクッションが取り払われたことで急速に先鋭化していった。8月31日には同じ主催者が首相官邸前で「石破やめろデモ」を行う。街宣の先頭には「財務省解体」系の団体と「日本列島100万人プロジェクト」の幟が見られた。参加者の列は国会記者会館周辺のブロックを半周以上する距離まで伸び、1000人単位の参加者を集め、「財務省解体」からのトレンドの移り変わりを如実に表していた。

 名目こそ「石破やめろ」であったが、街宣の後半では列の中から口々に「岩屋もやめろ!」との声が飛び交い、「自民党解体デモ」と地続きの運動であることが明らかだった。先述の「自民党はショッカー」の男性は今回も参加しており、「不正選挙の証拠」なるチラシを配布していた。また「製薬会社(DS)のコロナワクチン詐欺から日本を守ろう」というプラカードを持参した男性は、隣の参加者と「日航123便事故の真相」について語り合っていた。参院選での自民党の大敗を受けた石破政権の動向が注目されていた時期であり、大手メディアも取材に訪れていたが、こうした背景に触れたものはなかった。

◆あやふやな不安

 この「自民党解体デモ」の流れを引き継いで生まれた「JICA解体デモ」(8月27〜29日)や「東京都エジプト合意撤回デモ」(9月12日〜)などが、その後の排外主義運動を形作ってゆく。一見様々なテーマについて別々にデモや街宣が行われているように見えても、それらのほとんどは「財務省解体デモ」を源流とする一連の流れの中にあり、その影響を受けた人々が看板を改めながら運動を繰り返しているのが実態である。そして、その中心にあるのが、反ワクチン・陰謀論コミュニティで活動するインフルエンサーだ。

 SNS上で排外主義を煽るインフルエンサーは、過去には「財務省解体デモ」の動画を投稿していたり、さらにその前にはワクチンに関する誤情報を拡散していたりするケースが多い。また、後述の「全国一斉移民政策反対デモ」の企画が行われたLINEのオープンチャットは、もともと「財務省解体デモ」の情報を集約するために政治系インフルエンサーが開設したものが流用されている。バラバラにも見えるテーマを結びつけているのは「日本政府は国民の代表者ではなく、何らかの勢力の走狗として動いている」という漠然としたナラティブであり、現実と乖離した世界観を共有する、一種の「オルタナティブな政治空間」が形成されているのである。

 その一つの帰結といえるのが、10月10日に行われた「全省庁解体デモ」である。字面だけ見ると極めてアナーキーな印象を受けるが、ここでいう「全省庁」は「何らかの勢力に支配された政治」の言い換えであり、国会議事堂に向かって各々の政治不満を叫ぶ催しとなっていた。主催者は「自民党解体デモ」のボランティアを務めていた人物で、反ワクチン・反移民を訴えていた。「全省庁が解体されれば入国管理制度も崩壊するのでは」といった疑問は、前提を共有している参加者の間には存在しないのである。

 参院選前後より、移民排斥的な言説を支持する声に対し「素朴な不安」と表現する論評がしばしば見られるが、少し物事を綺麗に捉えすぎているように感じる。先述の「東京都エジプト合意反対デモ」にて、筆者に対し「モラルの通じない(外国の)方が来るのは嫌」と述べた参加者に「今回の合意はむしろ外国人に日本で働く際のモラルを学んでもらうための政策なのではないですか」と問うてみたことがある。参加者は一瞬固まった後、「説明不足だと思います」と繰り返し、筆者の見解に対する賛否を述べなかった。政策について直接調べたり議論したりせず、インフルエンサーの発信をそのままなぞっているように感じた。これは「素朴」というよりも「あやふや」と表現するべきではないだろうか。

◆背景を理解することの重要性

 10月26日に全国各地で行われた「全国一斉移民政策反対デモ」のうち、筆者は名古屋駅前で行われた街宣を観察した。「移民反対」に並んで「財政の民主化」という幟が掲げられ、反ワクチン活動家の街宣車から「日本列島100万人プロジェクト」のメンバーが緊急事態条項反対を訴えていた。緊急事態条項も反ワクチン・陰謀論コミュニティで「ワクチン強制が行われる」として槍玉に上がるテーマだ。反ワクチン、反財務省、反移民の一体性が視覚的にも明らかだった。

 現場には「カウンター」や「プロテスター」と呼ばれる、街宣に対し野次を飛ばしたり音を鳴らして対抗する集団が詰めかけており、主催側の「挑発に乗るな」との呼びかけも虚しく参加者の中からは飛びかからん勢いで反撃しようとする者が次々現れ、警察官に引き剥がされるなど混沌とした状態となっていた。その一方で、街宣を中心からやや離れた場所で聞いている参加者に対しては説得を試みる人々もいた。

 そのうちの一人は筆者に「まだ引き戻せそうな人とは対話をしている。だが、10年前のヘイト運動とは明らかに層が違う。陰謀論者が多くて会話が通じないことが多い」とため息混じりに語っていた。実際、激しく罵声を浴びせ合っていた参加者の男性と話をしたところ「挑発に乗っちゃいけないのはわかっているんだけどね。分断を煽って漁夫の利を得るのがユダヤ資本、ディープステートのやり方だから」と真剣な顔で述べていた。

 排外主義運動について、メディアにおいては「不安への寄り添い」を軸に、参加者個人のライフヒストリーに焦点を当てた報道が多く見られる。だが、デモは決して自然発生するものではなく、必ずそこに「煽る」側の存在がある。寄り添うにせよ立ち向かうにせよ、その両側面についての理解がなければ的外れな見解を生みかねない。『陰謀論と排外主義』は、報道が軽視しがちな「煽る」側の歴史や実態について網羅的に論じられている。本書が、社会の分断を食い止めるための助けとなることを願う。

<取材・文・撮影/山崎リュウキチ>

【山崎リュウキチ】
90年代後半生まれ。オウム真理教事件に興味を持ったことをきっかけに、高校時代よりカルトや過激思想についての情報を収集。コロナ禍以降は陰謀論関係の社会運動を中心に観察し、ネット上での発信を行う。共著書に『陰謀論と排外主義 分断社会を読み解く7つの視点』(扶桑社新書)。Xアカウントは@y_ryukichi

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