
【写真】カッコいいモノクロのメイキングカット(ほか5枚)
本作は、吉行淳之介による芸術選奨文部大臣受賞作品を映画化したR18+指定の異色作。過去の離婚経験から女性を愛することを恐れる一方、愛されたい願望をこじらせる40代小説家の日常を、エロティシズムとペーソスを交えて描き出す。
主人公の矢添克二を演じるのは、荒井と『花腐し』でもタッグを組んだ綾野剛。これまでに見せたことのない枯れかけた男の色気を発露し、過去のトラウマから、女を愛することを恐れながらも求めてしまう、心と体の矛盾に揺れる滑稽で切ないキャラクターを生み出した。
矢添を取り巻く女たち―女子大生の紀子を演じるのは咲耶。女性を拒む矢添の心に無邪気に足を踏み入れる。矢添のなじみの娼婦・千枝子を演じるのは、荒井作品3作目の出演となる田中麗奈。綾野演じる矢添との駆け引きは絶妙で、俳優としての新境地を切り開く。さらには、柄本佑、岬あかり、MINAMO、宮下順子らが脇を固める。
今回一挙解禁となるのは、“荒井組”の撮影風景をとらえたメイキング写真6点だ。
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本作のプロデューサーの1人、清水真由美は「監督は『昭和40年代の小説だから古いかな』とおっしゃったんですけど、主人公の男は愛をこじらせ、逆にヒロインはそんな男にヅケヅケと踏み込んでいく。むしろすごく今っぽいと思いました」と原作の印象を語っている。
荒井監督は当初、時代設定を現代へ移して脚本を書いてみたという。しかし、原作当時の価値観やシチュエーション、セリフが「今」とはそぐわず、物語そのものが成立しなくなると判断。そこで時代を原作が書かれた1966年に戻そうとしたが、『星と月は天の穴』というタイトルにオチを付けたい意図もあり、最終的にアポロ11号が月面着陸した1969年に設定した。他の要素は原作に忠実に描かれている。
本作は、1969年という時代の空気や質感をスクリーンに転写したいという監督の意図から、全編モノクロで撮影されている。濃淡と陰影で構築された映像は、単なるノスタルジーにとどまらず、活字の行間を読み取るかのように“余白の美”をも映し出す。ときおり差し込まれるパートカラーの赤には、吉行原作の映画『砂の上の植物群』へのオマージュ的な意味も込められているという。
矢添の愛車BMW2002シリーズは、吉行が実際に乗っていた車種である。車のみならず信号機なども昭和年代のものが稼働している地域まで素材を撮りに行くなど、ディテールへのこだわりは徹底している。
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しかし、一番難航したのは、矢添が住んでいる部屋のロケーションだったという。矢添の部屋の書斎の窓からブランコが設置された小さな公園が見える。ところが、この眺めを抱いた建物がなかなか見つからない。昭和の雰囲気があり、座ったまま窓から公園が見える部屋を探しても、公園には現代的な遊具が置かれているところが多く、荒井監督はマンションと公園をそれぞれ撮り分けることも考えたという。しかし、助監督ら荒井組のスタッフが執念で理想の部屋を発見、台本に忠実なシチュエーションを実現させた。
そんな情熱に溢れた撮影現場。矢添を演じた主演の綾野剛は『花腐し』に続き2度目とあって、荒井監督との信頼関係も強固に。また、オーディションで“発見”された紀子役の咲耶も笑顔が弾けており、“荒井組”のチームワークの良さ、映画への真剣なこだわりが伝わってくる写真の数々となっている。
アポロ11号による人類月面初着陸のほか、東大・安田講堂の攻防戦で学生運動がピークを迎え、「ウッドストック・フェスティバル」といった国内外で大きなトピックが続いた1969年という激動期を背景に映し出されるのは、1人の男の私的な物語。この“いつの時代も愛をこじらせる”男の本質を描いた滋味深き日本映画に温故知新を感じることだろう。
映画『星と月は天の穴』は、12月19日より全国公開。
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