
是枝裕和監督(63)が、24年にアニメ映画化され興行収入(興収)20億4000万円を記録した、藤本タツキ氏(33)の漫画「ルックバック」を脚本・編集も担当し実写映画化することが2日、分かった。興収92億8000万円を突破した「レゼ篇」原作の「チェンソーマン」含め、同氏の作品の実写化は初めて。秋田県にかほ市を中心に四季を通じて行った撮影を終え、編集作業に入っており26年に公開。韓国・台湾での公開も決定し、全世界公開に向けて準備を進めている。
「ルックバック」は、藤本氏が21年に「少年ジャンプ+」(集英社)で発表した読み切り漫画。学年新聞で4コマ漫画を連載し、クラスメートから絶賛を受ける小学4年生の藤野が、先生から突然、不登校の同級生・京本の4コマ漫画を掲載したいと告げられ、その存在を知り画力の高さに驚く。その後、ともに漫画を描き始め、ひたむきな思いを貫く2人の成長を追いながら、ある日に起きた全てを打ち砕く衝撃的な出来事を描く。胸を突き刺す青春物語が多くの感動を呼んだ。
是枝監督が「ルックバック」と出会ったのは偶然だった。「京都からの新幹線の帰り、品川駅の本屋に平積みされていた表紙の『背中』に引かれて、思わず手に取ったのが、『ルックバック』との出会いでした。その晩、一気に読みました」と当時を振り返った。「漫画と映画でジャンルは違いますが、同じ作り手として、覚悟が切実に伝わってくる作品で、きっと藤本タツキさんはこの作品を描かないと先に進めなかったのだろうなと、そんな気持ちが痛いほど伝わってきました」と深く共感したという。「自分にとっては、『誰も知らない』がそんな作品でした」と、柳楽優弥がカンヌ映画祭(フランス)で日本人初の男優賞を受賞した、自身の04年の代表作の1つと重ねた。
是枝監督を藤本氏とつなげたのは「学生の頃に受けていた授業の先生として出会い、教室の席からその背中をみつめていました」と口にする、企画の小出大樹プロデューサーだった。原作を「ジャンプ+で公開された日に何度も読み返しました。衝撃でした。すごいものを読んでしまったと思いました」と愛し、同氏にあいさつした。その際に「藤本さんに読んだ直後の感想を伝えたいと思っていたのですが、ぼくは、間際になって、この漫画を、是枝監督による実写映画にさせていただけないかと伝えたいと思っていることに気がつきました」と同監督による映画化を考えたという。
小出プロデューサーは「『誰も知らない』で、1年をかけて四季をめぐりながら子どもたちの成長を撮影したこと、『海街diary』(15年)や『奇跡』(11年)で、子役の方に台本を渡さずにセリフを口伝えで演出されたことなど、これまで見聞きした話が思い出されました」と、是枝監督の映画作りを脳内で顧みたと振り返った。そして「なによりも、『誰も知らない』を観た際に抱いた強い感情が呼び起こされ、考えれば考えるほど、この実写映画化に際しては、是枝監督しかいないのではないかと思い、お声がけしました」と語った。
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是枝監督は「小出プロデューサーから『ルックバック』を実写映画に、という誘いを受け、藤本さんにお会いする機会をいただきました」と、藤本氏と対面したと明かした。「まずは、このような作品を世に産み落としていただいたこと、その作品に同時代に出会うことができたことへの感謝をお伝えできればと思っていたのですが、その帰り道、『やらないわけにはいかない』と覚悟を決めたことを覚えています」と、対面したその日に実写化映画を決意したと明かした。
藤本氏は「是枝監督作品で初めて見たのは『海街diary』です。主人公が新しく住む事になる家の中や、町の食堂の中の家具などがとても生活感があって物語に説得力を持たせるものになっていました」と、是枝監督が吉田秋生氏の漫画を実写化した「海街diary」を見た印象を語った。そして「物語に関わらない細かい演技なども、キャラクターが日々、僕達の見えない所で生きていると思わせるもので感動しました。是枝監督がルックバックを撮ってくれるなら僕はもう何も言う事はないです。楽しみにしています!」と期待を寄せた。
アニメ映画版は、原作の再現度の高さと、ディティールを高め、映像として動きのあるアニメで表現の幅を広げたところで圧倒的な支持と評価を得た。一方で、原作が読み切りの短編のため、全体の尺が58分しかない短編となった。キャスト、詳細は今回、明らかになっていないが、実写映画として、どのようなものになるか注目だ。是枝監督は「撮影は終了し、現在、編集中ではありますが、とても豊かなものが映し出される作品になるのではないかと思います」と手応えを口にした。
◆アニメ映画版「ルックバック」 庵野秀明監督の09年「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」や、スタジオジブリの10年「借りぐらしのアリエッティ」、13年「風立ちぬ」など、劇場アニメの人気作に主要スタッフとして参加してきた押山清高監督が監督・脚本・キャラクターデザインを務め、河合優実(24)が藤野、吉田美月喜(21)が京本役で声優に初挑戦。24年6月28日の公開後、作品性の高さから話題を呼び、興行収入(興収)20億円、国内動員100万人を突破した。
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