増加する“おひとりさま”の終活事情…任意後見契約の“見守り”で一命を取りとめたケースも

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2025年12月08日 07:10  週刊女性PRIME

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 総務省の調べによると、2050年には単独世帯が4割を占め、高齢者世帯がその半分にもなるといわれている日本。自身の病気や認知症、果ては死後の“取り扱い”をどうするかが、「独り身」の悩みになっている昨今。6つのケースで考える人生の終え方とは─。

正常な判断ができなくなっても本人の尊厳を守る

 国勢調査によると2010年以降、核家族の典型である「夫婦と子どもからなる世帯」を追い抜き、「単独世帯」がトップとなって今や4割近くになった。

 「家族の“ひとり”化」が増加して、未婚者、離婚者、死別者、さらに夫婦であっても墓を同じにしないで、一方が死ねば最後は「ひとり」と覚悟しているシングル予備軍など、多くの人が「おひとりさま」として死と葬送を迎える時代になっている。

 死と葬送に関しては一般人も著名人もすべて平等だ。’22年7月に大腸がんによる多臓器不全で他界した女優の島田陽子さんが「孤独死」と報じられ、墓をめぐって紆余曲折があったことはまだ記憶に新しい。

 島田さんはお嬢様役でブレイクし、昭和を代表する女優の一人。’80年には米ドラマ『将軍 SHOGUN』で日本人女優として初のゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞。「国際派女優」と呼ばれるも、その後はスキャンダルが絶えず、晩年は身寄りのないおひとりさまだった。

 自分で墓を準備していたがその墓には入れず、島田さんの遺体は渋谷区により火葬され、無縁仏として合葬されるところだった。

 だがさまざまな経緯を経て2か月後に都内のお墓に納骨されたという。島田さんの墓をめぐる問題は、一般人にとっても決して遠い話ではない。

 そんな、家族に頼らずに、自分の老後とその先の死を迎えようとする人を、弁護士や行政書士などとタッグを組んで支援する株式会社OAGウェルビーR代表取締役の黒澤史津乃さんは、次のように語る。

ご本人が元気なうちに公正証書によって契約を結びます。家族の代わりにさまざまな支援を行う権限をいただき、正常な判断ができなくなってもご本人の尊厳を守って、ご希望を実現するお手伝いをしています

 病気や認知症になったとき、また亡くなった後は、自動的に意思決定の主役が家族になる。だが家族がいなかったり、家族がいても頼りたくない人が、生前に葬儀や納骨の役割を選任する。実際にどのような人たちが活用しているのだろうか。

事例1 

母の死後、財産相続をめぐって妹と決裂。おひとりさまとして終活を決めた女性会社員

 東京都内の会社で営業事務を担っている汐里さん(仮名・65歳)は、4年前に同居していた母を看取ると、関西に住む妹と絶縁状態になった。理由は母の遺産相続のことでもめて、調停に至ったからだ。

汐里さんは生前の母と一緒に、10年以上前に他界した父の介護も担いました。3歳年下の妹は結婚してから関西に住み、子育てや仕事を理由に、両親の介護に非協力的だったそうです」(黒澤さん、以下同)

委任契約では身元保証人の役割をお引き受けも

 母が亡くなったときに汐里さんは実家の家を相続し、母の遺産の半分をもらえると思っていた。ところが─。

汐里さんの妹は、同居する姉が両親を介護するのは当たり前という態度でした。家の相続を含めて財産は半分ずつの相続を求める妹さんに対して汐里さんは反発し、やがて調停は決裂しました

 調停によって姉妹の間に禍根が残ってしまった。シングルの汐里さんは、一生懸命に築いた財産が、自分の死後に法定相続人である妹や妹の子どもに相続されると思うと身震いがした。

 そこで汐里さんは、死後の財産を妹らに残さず、さらに老後や死後、世話にならずにすむようにOAGウェルビーRと次のような契約を結んだ。

(1)委任契約(2)任意後見契約(3)死後事務委任契約。

(1)の委任契約には元気なときからの“見守り”が含まれます。内容は週2回、こちらからショートメールを送信し、クリックしていただくことで安否確認がとれるというもの。もうひとつはセンサーを使用した安否確認。在宅中の冷蔵庫の開け閉めやトイレに10時間以上行かなかった場合に“異常”の連絡が入り、スタッフが駆けつけて安否確認をします

 60代の汐里さんはショートメールだけを選択したが、70代以降のほとんどがセンサー確認を利用しているという。

また委任契約では、“見守り”以外にも入院や施設入居など支援が必要になったときの手続きや身元保証人の役割をお引き受けします。特に急な病気になると医療の意思決定ができなくなりますので、契約時に本人が想定した方法を記録しておき、その意思を本人に代わって医師に伝達します。それを踏まえて医師が本人にとって、いちばんよい治療法を行う。いわば“本人の意思の推定材料”を私たちが医師に伝えるということです

 (2)の任意後見契約は、本人が元気なうちに将来、判断能力が低下したときに備えて、信頼できる人に財産管理などを任せる旨を定めた公正証書で作成する契約のことだ。

公証役場に申し込んで作成します。本人から聞き取っている事前の意思や希望を、認知症になった後にも実現して差し上げるには、お金の管理をする役割も必要です。任意後見契約は、横領などができないように家庭裁判所と監督人のダブルの監督を受けながら、認知症になった後の本人の財産管理を行う仕組みです

 もちろん認知症にならずに生涯を終える人もいるが、汐里さんはもしもの場合を想定しての契約だという。この任意後見契約は掛け捨てとなっている。

(3)の死後事務委任契約というのは、亡くなった後のさまざまな弔いの手配です。葬儀や埋葬の手配、行政手続き、住居の整理などですね

 汐里さんは黒澤さんの会社と(1)〜(3)までの契約を結んだ。費用は契約時の手数料が3つセットで66万円。ほかに死後事務の費用として葬儀代実費を含む120万円の預託料が必要。

 この金額はもし契約した会社に倒産などのトラブルが生じたとしても、信託制度の適用で守られているという。汐里さんはほかに遺言のサポートも依頼した。

事例2 「見守り」で一命を取りとめ、任意後見契約で入居をサポートの80歳女性

 任意後見契約にある“見守り”で助かった高齢者もいる。賃貸住宅に1人で住んでいた80歳の美子さん(仮名)はトイレの中で、脳梗塞で倒れた。

 センサーからの緊急通報を受けた黒澤さんが駆けつけると美子さんの意識がなく、救急車で搬送されたところ、一命を取りとめたが後遺症が残ったという。猛暑の日の午後、外出前にクーラーを消した直後だったため、あと少し遅れたら手遅れになっていた。

 任意後見契約によって財産管理を任されていた黒澤さんは賃貸物件を解約し、荷物を処分して施設を探す。美子さんは年金で入居できた。

元気なときに自分で将来を想定して、契約することも終活のひとつですね

事例3

夫の前妻の子どもと相続でもめたくない70代女性の選択

 主婦の靖子さん(仮名・73歳)は10歳年上の夫と結婚。年上の夫を頼りにしていたが、夫が高齢になると、立場が逆転していった。

子どもがいないご夫婦で、夫には前妻との間に50代の息子さんがいたそうです。夫が70代になったころ、夫婦それぞれがお互いに財産を相続させる遺言を作成しました。80歳を超えたころに夫の物忘れが増えてくると、靖子さんは夫を看取った後で1人になる準備をしましたが、気になることもありました

 自分が元気ならいいが、もし自分のほうが先に倒れてしまったら、夫が相続する靖子さんの財産も、夫の子どもが法定相続人となる。複雑な心境だった。

 またもし夫が先に他界した場合は、いくら遺言を書いていても、それ以外の死後の事務手続きのことで、前妻の子どもと相続人として協力しなければならない。それも避けたかった。

そこで靖子さんは夫と自分もそれぞれ死後事務委任契約を結び、死後のことはすべて私たちが仕切ることにしました。煩わしいことから解放された靖子さんは、ホッと安堵した表情でしたね

事例4

独身男性が、がんに罹患。兄嫁から言われたある一言で決めたこと

 おひとりさまの場合、血のつながりのない親族との関係に悩まされる人もいる。病気や事故に遭ったときは、特に顕著となる場合もある。

65歳の技術職の独身男性は、定年後に再雇用で働き出したときにがんを宣告され、面倒を見てもらうつもりはないものの、身内ですでに亡くなった兄の妻に報告したそうです。ところが兄嫁から“申し訳ないけど迷惑かけてほしくないし、お金もいらないから、面倒を見られない”と言われてショックを受けてしまいました

 男性は、長患いをした兄が亡くなるまで兄嫁が看病で大変だったことも知っていた。そのためほんの報告のつもりが、誤解されたことにショックを受けたのだ。

見事な生きざまだった独身男性

 そこで「人に頼らず、自分のお金を老後に使おう」と決めて黒澤さんの会社と死後事務委任契約を結んだ。

男性の住まいのアパートが入院中に建て替えが予定されていたので、私たちは引っ越しの手伝いをしました。また緊急連絡先が弊社になりました

 入院の際、男性から看護師にその旨を伝えていたおかげで、容体が急変したときに黒澤さんらが本人の尊厳を守り、希望どおりにサポートした。

お葬式のときには、いとこなどが集まりました。見事な生きざまだと最期まで立ち会った私たちは感じましたね

事例5 

60代男性の突然の事故。遺産は幼少時に1回会っただけの甥に

 遺言を残していなかったために、思わぬ財産相続が起こることもある。

時には病院から依頼されることもあります。千葉県の急性期病院から、60代男性が事故に遭い、重傷で身体は一切動かせないが、意識はしっかりしているため来てもらいたいという依頼でした。事故から半年経過していましたが、入院費が支払われていなかったのです。病院側は治療費の請求に困っていました

 黒澤さんは病院を訪れ、身体は思うように動かせないが意識ははっきりしている男性に、全面的な支援の提案を。すると頷き、意思表示を確認できた。そこで公証人を病院に呼び契約を交わしたのだ。

配送員だった男性の事故当時の着衣のポケットから、キャッシュカードで現金を引き出した際に受け取った、口座の残高が記された紙が見つかりました。そこから支払いできる能力を確認できたため、病院が弊社に連絡をしたそうです

 契約締結後、黒澤さんは事故の加害者からの示談金や保険会社との交渉を依頼する弁護士に引き合わせるなど、滞っていた事故処理も病院対応も一手に引き受けた。その後、間もなく男性が息を引き取ったという。

残された遺産を相続人に引き渡す義務もあります。すると病死した兄と離婚した元妻との間に息子がいて、男性にとって甥にあたるため、甥がすべて相続しました

 60代はまだ元気だからと遺言書を用意しなかったおひとりさまの男性。こつこつと貯めた財産が幼少のときに会ったきり、その後、縁もなく存在すら記憶になかった甥に相続させることになった。

 男性には、ひょっとしたらもっと縁の深い人がいたかもしれない。もしもの場合に備えておくことも大事だ。

事例6 おひとりさまの叔母を看取った30代女性。遺言書に驚愕

 遺言を書き換えたほうが良かったというケースもある。

70代の母親をがんで亡くし、子育てをしながら働いている30代女性が、母を看取ったあとに、今度は母の妹を看取ったそうです。60代の叔母さんもがんに罹患。バリキャリだった叔母さんは子どもがいなかったので、姪である女性は一生懸命に看病。ところが死後に遺言が見つかると、叔母さんの財産がすべて、ある団体に寄付されたそうです。姪は“お金目的で看病したわけじゃないから”と言いましたが、親族の間にやるせない気持ちが残ったそうです

 この場合は、看病してくれた姪にも遺産の一部が渡るように、元気なうちに遺言を書き換えるべきだったと黒澤さん。

自分の人生のデザインをつくっていくことが大事です。自分にとっても、そして身近な人のためにも

 人生100年時代といわれるが、寿命が延びたものの、長生きするにつれて認知症の発症率が高くなる。元気で自分で判断できる時期に、死後のことも含めて備えることも人生100年時代を生きる知恵といえるだろう。

取材・文/夏目かをる

黒澤史津乃さん 行政書士、消費生活アドバイザー、OAGウェルビーR代表取締役。家族に頼らない老後と死について、高齢者の法務問題に携わっている

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