限定公開( 25 )

東京圏には、日常的に混雑する駅が数多くある。一方で、都心・郊外を問わず、イベント時には驚くほど混雑するものの、平常時は人影もまばらという駅も。
こうした駅は、普段は閑散としていながらも、いざイベントとなると一気に大人数を受け入れなければならない。
利用者数に大きな振れ幅のある駅は、どのように対応しているのだろうか。本稿では、実際に足を運び、考察した内容をお伝えしたい。
●人があふれても大丈夫な千駄ヶ谷駅
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JR中央・総武緩行線の千駄ヶ谷駅は、国立競技場や東京体育館の最寄り駅として知られている。住宅街で企業の大規模オフィスが立ち並ぶ場所ではないため、普段はそれほど混雑しない。
しかし、スポーツの試合や大規模コンサートが開催される日になると、駅は一転して人であふれ返る。これをどうさばくのかが大きな課題だ。
実際に千駄ヶ谷駅に足を運んでみた。
駅は2面2線のホーム構造。もともと島式ホーム1つに加え、混雑時のみ使う補助ホームが1つある形だった。しかし東京オリンピック・パラリンピックに向けた改良工事で、この補助ホームを常時使うホームに変更し、上り・下りを完全に分離。さらにホームドアを設置し、島式ホームの下り側には大きな柵も設けられた。これにより、1つのホームに集中しない動線が確保され、混雑時でも多くの利用者を受け入れられる構造となっている。
上りホームは、改札階へ向かう動線が2カ所に分かれており、階段で降りるルートと、エスカレーター・エレベーターを利用するルートがある。一方、下りホームは改札階と行き来する階段スペースにゆとりを持たせ、多くの人が流れやすい構造となっている。
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改札口も広く確保されており、自動改札機が多数並ぶほか、混雑時には簡易型の自動改札機を追加設置できるスペースも用意されている。
また、改札外には大きな広場が設けられており、国立競技場や東京体育館など、神宮外苑エリアへ向かう人が滞留しないよう工夫されている。
さらに、千駄ヶ谷駅周辺には都営地下鉄大江戸線の国立競技場駅があり、こちらを利用する来場者も多い。加えて、同じ中央・総武緩行線の信濃町駅や、東京メトロ銀座線の外苑前駅など、複数の駅からアクセス可能で、大規模イベント時でも人が分散しやすい環境が整っている。
●やや心配な、水道橋駅
JR中央・総武緩行線の水道橋駅は、東京ドームの最寄り駅だ。プロ野球の試合はもちろん、大規模コンサートも頻繁に開催される。海外アーティストの来日公演や国内アーティストの大規模ライブでは、東京ドームが選ばれることが多い。
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水道橋駅の西口で降りてみた。階段にはエスカレーターが設置されておらず、臨時の簡易自動改札機を置けるスペースはあるものの、自動改札機の数は決して多くない。周辺には飲食店やオフィスビルが立ち並び、駅を出てすぐの場所には、段差を無理やりスロープ化したような箇所もある。そこから東京ドーム方面へ向かうと、急勾配のスロープやその先の階段のせいで、真っすぐ進むことができない。動線が分かりづらく、人が滞留しやすい印象を受けた。
ここが東京ドームの敷地であり、JR東日本が自由に変更できない点も、人の滞留を解消しづらい要因の一つだ。また、水道橋駅自体が古く、周囲に十分なスペースがないため、大規模な設備改良が難しいという現実もある。
それでも致命的な混雑を避けられているのは、このエリアが鉄道ネットワークに恵まれているからだ。
水道橋駅には、JRのほかにも都営地下鉄三田線が乗り入れ、さらに東京ドームの最寄り駅としては、東京メトロ丸ノ内線・南北線の後楽園駅、都営大江戸線・三田線の春日駅など、多数の選択肢がある。複数路線・複数駅が受け皿となることで、イベント時の大量の観客を分散できている。
こうした鉄道アクセスが充実していることが、東京ドームが大規模イベント会場として機能し続けている大きな理由といえる。
●出口の分散で混雑を回避する九段下駅
オフィス街の中心にありながら大規模イベントを開催できる会場といえば、日本武道館が有名だ。武道の大会や国の式典に加え、コンサート会場としても幅広く利用されている。
日本武道館へのアクセスに最も便利なのが、九段下駅である。東京メトロ東西線・半蔵門線、そして都営新宿線が乗り入れており、複数路線からのアクセスが可能だ。
実際に九段下駅を訪れると、日本武道館へのルートを案内する表示が随所に見られる。地下鉄駅ではあるものの、都営新宿線と東京メトロ半蔵門線の境界をなくす構造変更や改札位置の移設により、地下駅ながら広々とした空間が確保されている。
出口方面へ向かうと、広い階段と上り・下りのエスカレーターが並ぶ。しかし、地上近くになると上りエスカレーターと比較的狭い階段のみとなり、一般的な地下鉄の出口と同じ構造になる。
武道館へ向かう際に多くの人が利用するのは、「2番出口」だ。日本武道館の公式Webサイトでは、九段下駅の混雑時は4番出口を利用するよう呼び掛けている。そして、帰りは歩道橋を渡り、1番または3番出口が便利であることが書かれている。駅周辺の複数の出口を使い分けることで、混雑を分散させる意図があると読み取れる。
幸い、日本武道館の収容人数は約1万4000人。コンサートや式典ではステージ設営などで座席が減るため、実際の来場者数は1万人前後となる。東京ドームのように5万人規模の観客が一度に駅へ押し寄せることはなく、九段下駅は武道館のキャパシティによって救われている面が大きい。
●味の素スタジアム利用者が集中する飛田給駅
東京の郊外には、日本武道館を大きく上回る収容人数を持つ会場がある。約5万人を収容できる味の素スタジアムである。
調布市の京王線・飛田給駅近くに位置する味の素スタジアムは、サッカーの試合やコンサートなど、多くの大規模イベントが開催される会場だ。
飛田給駅は、普段は10分に1本程度の各駅停車しか停まらない小さな駅である。大規模イベント時には特急などが臨時停車するものの、それでも列車本数は通常の倍程度にとどまる。西武多摩川線の多磨駅も利用できるが、スタジアムから距離があり、アクセス面では飛田給駅に及ばない。
飛田給駅からスタジアムまでのルートは歩行者向けに整備されており、駅構内も多くの来場者を受け入れられるよう広く確保されている。改札機の台数も十分で、周辺駅よりも早期にホームドアが導入されるなど、安全対策も進んでいる。
それでも、イベント終了時は一気に人が集中し、さばききれない場面もある。このため、調布駅から臨時バスが運行されるなどの対応が行われている。
興味深いのは、サッカーの試合後、スタジアムから調布駅まで徒歩で移動するサポーターが多いことだ。スタジアムから調布駅までは徒歩で30分ほど。調布中心部の飲食店で祝杯をあげるためという理由もあるのだろうが、混雑を避けるためにあえて駅を利用しない来場者が一定数いる点は興味深い。おそらく、駅の混雑ぶりを知るユーザーが、自主的に徒歩移動を選んだ結果であろう。
●鉄道側と利用者側、双方の工夫が必要
このように、平常時は閑散としていながらも、イベント時には人でごった返す駅では、状況に応じた柔軟な運用を実施している。今回、実際に現地を歩いてみたことで、駅そのものが積極的に混雑緩和に取り組んでいるケース、周辺環境により自然と分散が生まれているケース、そして利用者が自主的に混雑を回避しているケースなど、各駅の特徴が見えてきた。
環境次第では、駅だけで混雑を完全に解消することは難しく、利用者側にも柔軟な行動や時間調整が求められる。イベントと日常が共存する場所では、鉄道と利用者双方の工夫があって初めて、スムーズな移動が実現するのかもしれない。
(小林拓矢)
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