
Googleが10月9日に発売した最新スマートウォッチ「Google Pixel Watch 4」。私の手元に届き、実際に日々の生活で使用し始めてからおよそ1カ月が経過した。この1カ月間の体験を通じて強く感じたのは、これまでのPixel Watchシリーズで最も不便に感じていた課題がついに解消されたという喜びだ。それが、生成AI「Gemini」による高度な情報検索への対応だ。
もちろん、従来モデルで評価されていた便利なヘルスケア機能も引き続き搭載されている。脈拍喪失の検出機能をはじめ、血中酸素濃度の測定、皮膚温度の計測、そして心電図アプリなど、これまでのPixel Watchが培ってきた安心感のある機能群はそのまましっかりと継承されている。
ハードウェア面での大きな新機能として注目されるのは、Apple Watch Ultra 3と同様に搭載された衛星通信機能だ。ただし、Googleはこの機能を緊急時のみの使用に制限していることに加え、現時点では日本国内での提供について公式なアナウンスを行っていない。残念ながら今回の試用期間中にこの機能を試すことはできなかったが、もし日本でも利用可能になれば、電波の届かない山岳地帯での登山など、アクティビティーの際に非常に心強い機能となるはずだ。
●「腕を上げるだけ」で完結する、AIアシスタントとの新たな付き合い方
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さて、ここからはPixel Watch 4で私が最も気に入り、1人のユーザーとしても長く待ち望んでいた機能について詳しく触れていきたい。Pixel Watch 4は、従来のGoogle アシスタントに代わり、最新の「Gemini」がアシスタント体験の中核を担うスマートウォッチへと進化を遂げた。サムスン電子によれば、先行してこの機能を搭載したのは「Galaxy Watch 8/Ultra」などの機種だという。Pixel Watchシリーズでは、今回の最新機種以外にも、旧機種においてGemini機能が解放されており、アップデートなどの所定の条件を満たせば利用可能となっている。
日頃からPCやスマートフォンでGeminiを愛用している身からすれば、計算やとっさに思いついたメモの整理など、生活のさまざまな用途においてGeminiはなくてはならない存在だ。もはや依存していると言っても過言ではない。以前のPixel WatchではこのGeminiが全く利用できなかったため、手元ですぐにGeminiを呼び出して検索したり、困りごとについてアドバイスをもらったりといったシームレスな体験ができず、そこに少なからずストレスを感じていた。
「外出先での利用ならば、ポケットやカバンからスマートフォンを取り出してGeminiを起動すれば済む話ではないか?」という疑問の声も聞こえてきそうだ。しかし、Geminiのヘビーユーザーにとっては、わざわざスマホを取り出さずに「手元だけで」簡単にGeminiが使えるか否かの違いは、体験の質を左右する極めて重要なポイントなのである。
特にPixel WatchにおけるGeminiは、日常のちょっとした疑問に答えてくれるだけでなく、例えば「ワークアウトを開始して」と頼んだり、「今の心拍数を見せて」と声で指示するだけで、即座に結果を画面に提示してくれる。これくらいの操作であれば、指でウォッチフェースをタップしたり、アプリ一覧から該当アプリを探して起動したりすれば済む話だが、声での直感的な操作はタッチ操作よりもはるかに楽で、思考を中断させない快適さがある。
一番気に入っているのは、そのGeminiへのアクセス方法だ。もちろん、リューズの上にあるボタンを長押しするか、「OK Google」と呼びかけることでも起動できる。だがそれだけでなく、Pixel Watchが装着された腕を顔の方に向かって自然に持ち上げ、話しかけることでも起動するのだ。ウォッチがこの「持ち上げる動作」を検知すると、約2秒間Geminiが待機状態となり、ユーザーが質問やコマンドを言おうとしているかどうかを判断して聞き取ってくれる。この体験は非常に未来的だ。
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●公共空間に「羞恥心」という壁アリ やはり相当な抵抗を感じる
ただし、この便利な機能にも弱点はある。使用するにはスマートフォンのインターネット接続が必須であり、オフライン環境では動作しないため、使用環境によっては不便に感じる人もいるだろう。Googleには今後、この機能をローカル処理でも使えるように進化させてほしいと願うばかりだ。
そして何より、最も高いハードルとなるのが「使う場所」の問題だ。「Geminiへの話しかけ」は機能としては便利だが、一歩外に出て使うとなると、心理的に少し抵抗がある。1人で道を歩きながらハンズフリーで使う分には確かに快適だが、電車の中のようなパブリックな空間では、どうしても気まずさが残ってしまう。たとえ発する言葉が恥ずかしい単語でなかったとしても、静かな車内で突然「人が時計に向かって話しかけている」姿を周囲に見せるのは、やはり相当な抵抗があるだろう。単語レベルの軽い音声検索でさえ、静寂な電車の中では急に恥ずかしく感じてしまうのが人間の心理だ。
イヤフォンをしていてもその恥ずかしさは変わらなかった。「Google Pixel Buds 2a」とPixel Watch 4をペアリングした状態で、Geminiと数回ほどやりとりを試みてみた。Geminiからの応答音声はイヤフォンから聞こえるため周囲には聞こえないという安心感はある。しかし、周囲の人間からすれば、私が無言の時計に向かってブツブツと話しかけている事実に変わりはなく、「この人はなぜ時計と話しているのだろう」という不信感や違和感を抱かせるはずだ。実際に電車の中で勇気を出して試してみたところ、数人からジロジロと見られている視線を感じた。
逆にいえば、自宅や人の少ない運動場、公園などの静かな環境であれば、ほとんど周囲の視線を気にせずに使える。電車内ほど「時計に話しかける」行為への心理的抵抗もなく、音声入力の利便性が素直に生きる。つまり、現状のGeminiの音声入力には「向いている環境」と「どうしても使いづらい環境」がはっきりと存在しているのだ。
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電車の中のような公共空間で、音声でデバイスに指示する使い方が広く社会に受け入れられるとは、現時点では思えない。街中の人々が手元の端末に向かって四六時中つぶやいているような光景が根付くまでには、まだもう少し時間がかかりそうだ。
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