
50代女性向けファッション雑誌『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)が主催する「更年期川柳」が、年々共感の輪を広げている。
今年11月18日に行われた第3回授賞式には、審査員長のアン ミカと30名の読者が参加。アンミカ節のトークが炸裂するポジティブで華やかな雰囲気の中、金賞の「旦那より AIある励まし 目が潤む」(けんちゃん/女性・62歳)をはじめとするユーモアあふれる川柳が次々と詠み上げられた。
思わず共感せずにはいられないものから、クスッとわらってしまうものまで。あるいは、ちょっぴり心がジーンとする場面も。共通しているのは、川柳を通じて更年期をポジティブに乗り切ろうとする前向きさだ。
そんな「更年期川柳」が、どのようにして生まれたのか。改めて、『大人のおしゃれ手帖』の橘真子編集長にインタビュー。「更年期川柳」に込められた思いから、雑誌として実現していきたい今後のビジョンについて聞いた。
――授賞式に参加させていただきましたが、とても楽しい会でした。「更年期川柳」は2023年にスタートし、応募数が年々2倍のペースで増えていると伺いました。今年は昨年の倍となる5307通、過去最多の応募が寄せられたそうですね。
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橘:これほどの反響をいただくとは、私たちも驚きっぱなしです。本当にありがたいことです。かねてより『大人のおしゃれ手帖』では、読者の皆さんがどんなことに関心を持っているのかを知るため、定期的に座談会を行なってきました。その中で、いつも話題の中心になるのがヘルスケアでした。
雑誌ではファッション、メイク、グルメなども特集していますが、やはり健康でなければおしゃれも家事、旅行もする気にならないもの。しかし「女性には人生のなかで心身が揺らぎやすい時期がある」という大前提が、社会全体にまだ浸透していないと感じていました。
「更年期」への理解を広げ、家庭内や社会での摩擦、生きづらさを少しでも減らすにはどうすればいいか。そこでヒントになったのが「川柳」です。五・七・五の17文字という手軽さ。思わず「あるある」と共感してしまう視点や、「うまい!」と唸る言葉選びの奥深さ。これを「更年期」というテーマで募集すれば、面白くて広がりのあるムーブメントになるのではと考えたんです。ちょうどその年に『大人のおしゃれ手帖』WEBが立ち上がったことも大きな後押しになりましたね。
――「川柳」と聞くと古風な印象もありますが、短い言葉でインパクトを残す点では、現代のネット社会とも相性が良さそうですね。
橘:そうですね。「更年期にはこんな症状があって……」と長々と説明しても、なかなか読まれにくいもの。ですが、思わず笑ってしまうような面白い川柳なら、多くの人が楽しんで自然と目を向けてくれる。「イライラ」「気分の揺らぎ」「ホットフラッシュ」といったワードも、この3年間の「更年期川柳」を通じて随分と話題にしやすくなったように思います。
もちろん、更年期の重い症状は「更年期障害」という病気として扱われるものですので、茶化すものではないという意識は強く持っています。あくまで「知ってもらう」「会話のきっかけを作る」ための催しであることを大切にしてきました。
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――男性からの作品も多く、昨年は受賞作品もあったそうですね。
金賞 旦那より AIある励まし 目が潤む けんちゃん(女性・62歳)
銀賞 初期化したい アプデもしたい わが体調 ちゃぴこ(女性・42歳)
銅賞 症状は 万博共通 博覧会 ひさきち(女性・47歳)
特別賞 古古古米? いいえ私は てんてこまい ラベンダー(女性・50歳)
編集長賞 揺れ動く 心の声を 聞き管理 ああ言えばこう裕子(女性・75歳)
パナソニック賞 一時すぎ 寝られず二時越え もう惨事 りっくん(女性・43歳)
※2025年11月18日に発表された第3回「更年期川柳」入賞作品
橘:応募の際に性別の制限はないので、男性の方にも応募していただけるものではあるんですが、女性誌という点を踏まえるとその多さに編集部としても驚きました。ただ、もともと川柳は男性の愛好者が多いですし、昨年は「男性更年期」というテーマが世の中でも広まったフェーズと重なったのも大きかったように思います。
「自分が更年期になって、妻の大変さを初めて理解した」という発見や、「男性更年期ってどうすれば?」という戸惑いを詠んだ作品が多かったですね。こうして3年間続けていると、その年ごとの傾向が見えてきて本当に興味深いです。
今年、特に感じたのは女性たちの生活にAIが浸透してきたこと。「体調が悪いけど、これって更年期の症状?」「様子を見ていて大丈夫? すぐに病院に行ったほうがいい?」といった疑問や不安を、パートナーや家族より先に、まずAIに聞きやすいという現状がよく表れた年でした。
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そんな現状を受けて、私が感じたのは当事者の不安解消にAIを使うのはもちろんですが、周囲の方にも、もっとAIを活用して「更年期」について知ってほしいということですね。「妻がこんなことを言っているんだけど、これって……?」といった具合に。
――たしかに。直接「更年期?」なんて聞きにくい場面もありますしね。
橘:個人的には、そんなデリケートな部分にこそ技術に頼っていくことも大切なのではないかなと思います。最近では、ヘルスケアに関するデバイスが次々と開発されているので、『大人のおしゃれ手帖』ではそうした情報も発信するように心がけています。
近年、女性は生理周期や妊娠期間中の体調変化を管理できるアプリを使う習慣がついてきているように思うんです。しかし、出産・子育て以降のせわしなさから、せっかく身についていた習慣を手放してしまう方が多かった印象ですが、今は選択肢が広がっています。
私自身、先日デバイスを通じて体調を相談したところ、病院に行かずとも看護師さんから専門的なアドバイスを受けられ「これは重い体を引きずって病院に行くよりも、心身ともに助かるものかもしれない、と新たな可能性を感じたばかり。技術的にも「更年期」を支える仕組みが本当に進化しているので、ぜひ注目してほしいです。
――それは心強いお話ですね。
橘:やっぱりこうして「更年期」というものへの認識が広まると、それに対処するものも生まれやすいのだと思います。今年の「更年期川柳」からも、社会制度に対する提言みたいなものも傾向として感じられました。
この数年で「更年期」にまつわる認知度は急激に高まりました。それに対して女性たちは社会からの「アンサー」を求めているのではないかと思います。例えば会社で、生理休暇のように「更年期休暇がほしい」「堂々と休める制度がないのか」といった法整備を呼びかける作品が増えたことも、今年ならではだと感じています。
――雑誌の発行と並行してリアルイベントを開催するのは大変ではありませんか?
橘:おっしゃるとおりです。でも、このイベントを開催することが「更年期川柳」の真髄だと思っていて。というのも、雑誌の中で募集して、「これが受賞作品です」と発表しているだけでは社会全体にはなかなか広まっていかなくて。こうしたリアルなイベントを通じて、メディアの方に取り上げていただいて広めていくことがやっぱり意義としては大きいんですよね。
ただ今後は、応募総数だけで「これだけ更年期について浸透していますよね」といったムードを測るだけではなく、新しい指標や形も模索しなければと感じています。
――授賞式以外のイベントも構想されているということでしょうか?
橘:そうですね。まだ具体的には決まっていませんが、何か次の一手を見つけていくタイミングなのかなと感じています。例えば、一緒に川柳を作るワークショップを実施しても面白そうですし、あえて男性だけに向けたイベントを行なって啓蒙していく……というのもアリかもしれません。
――橘編集長は、創刊当初から『大人のおしゃれ手帖』編集部に所属していらっしゃいますが、誌面を超えてリアルなイベントの展開は想定していましたか?
橘:全くしていなかったですね。ただ、ヘルスケアに力を入れるのは、編集長としてずっとこだわってきた部分です。おしゃれは「したい人/しなくてもいい人」がいると思いますが、「健康でいたい」というニーズは50代全員が共有しているもの。そこはちゃんと手厚くやっていかないと、そもそも雑誌を作っていくミッションとして成り立たないですし、より良い暮らし、より良い自己表現のためにもヘルスケアは軽く見ちゃいけないという思いを持っています。
――たしかに。健やかに年齢を重ねたくない人はいませんもんね。女性はライフステージの変化に伴って孤独を感じやすいところもありますが、「健康」という面では年齢を超えた連帯感が生まれますね。
橘:そうなんですよ。冒頭にもお話したとおり、読者座談会でも「あのサプリよかったよ」とか「この食材がいいらしいよ」とかっていう話題がめちゃくちゃ楽しそうなんですよね。
逆に「こんな症状があって!」「私も実はこんな感じで!」みたいな不調自慢になることも(笑)。みなさんきっとそのときはとてもしんどいと思うんですが、その辛さも誰かと共有して話題にすることができれば……という、ひとつの張り合いになっているのかなと。
そんな姿を見ていると、もはや50代以降の「健康管理」の話題は立派なエンタメといってもいいのかもしれません。これからも「更年期」が少しでも楽しく、ポジティブに過ごせますように。そして少しでも生きやすい世の中になるきっかけを作っていく、そんな雑誌を目指していきたいと思います。
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