
シャープが発表した2025年度上期(2025年4月〜9月)の連結業績は、デバイス事業のアセットライト化の影響があり減収となったものの、営業利益は大幅に増加した。中期経営計画の最初の半年は、好調な出足となったといえるだろう。
さらに、この好調ぶりを受けて、2025年度通期見通しを上方修正してみせた。代表取締役 社長執行役員 CEO 沖津雅浩さんは、「中期経営計画は順調に進ちょくしており、営業利益は想定を大きく上回るペースで改善するなど、さまざまな成果が表れている」と出足に自信をみせる。
実は、この成長を下支えしたのが、DynabookによるPC事業の好調ぶりだ。インタビュー後編では、PC事業への取り組みやシャープのDXへの取り組み、そして、「新産業領域」と呼ぶ、EVやAIサーバといった新規事業への取り組みなどについて聞いた。
●営業利益が想定超え 好調シャープを支える「Dynabook」の底力
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―― 中期経営計画のスタートとなる2025年度上期業績は、好調な結果となりましたね。
沖津 減収増益の結果となりました。減収については、デバイス事業のアセットライト化を進めていますから、その点は織り込み済みですが、営業利益は想定を大きく上回るペースで改善しました。
白物家電などのスマートライフについては、市場環境の厳しさや為替の影響、競合が増えている状況にありますが、下期には付加価値の高い空気清浄機などの販売が増加すること、モデルミックスやルートミックスの改善が進むことから、上期比では増益を見込んでいます。
上期に特に大きく成長したのが、DynabookによるPC事業です。PC事業では、国内のB2BおよびB2Cが共に好調で、中でもB2BではGIGAスクール向けPCが大きく伸長しました。また、Windows 10のサポート終了に伴う買い替え需要もあり、官公庁や自治体向け、大企業向けなども引き続き堅調でした。B2Cはスタイリッシュなデザインが好評で、積極的に販促を実施した効果がありました。
―― シャープにとって、Dynabookはどういう存在なのですか。一度撤退したPC事業を東芝から買収する形で再参入し、その事業が今の業績を支えているという構図です。
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沖津 Dynabookは、当社にとって重要な事業であることに間違いはありません。ご指摘のように当社は一度、PC事業を撤退していますが、かつてのシャープのPC事業と今のDynabookによるPC事業とは全く異なるものです。例えば、Dynabookは官公庁や大手企業から高い評価を得ており、これはかつてのシャープのPC事業にはなかった部分です。
そして、この販路は当社全体としても、もっと積極的に活用していくことができるといえます。またDynabookはPCだけで収まる事業ではなく、もっと広げていくことが必要だと思っています。
当社はスマートワークプレイスという切り口で、Dynabookとシャープブランドのスマホや電子黒板、ディスプレイ、XRグラスなどを組み合わせた提案もできます。当社におけるPC事業の考え方は、Dynabookと共にシャープブランドの周辺事業も拡大していくことです。
PCそのものに投資をするのではなく、PCと連携する領域に投資をし、新たな事業を育てていきたいと考えています。Dynabookの社員には、シャープグループの一員としての意識を高めてもらい、連携の幅を広げていきたいですね。
―― シャープでは、DXについてはどんな取り組みを進めていますか。
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沖津 残念ながら当社の社内DXへの投資には遅れがあり、ようやく動き始めたところです。ペーパーレス化が進展し、私の決裁にはハンコがなくなり、どこにいても決裁が可能になりました。
ただ、シャープのDXは、まだこのレベルです。新たにCDO(Chief Digital Officer)を設置し、DXに対する投資を積極化していきます。社内には設計や開発、品質に関して多くのデータが蓄積されていますから、これらをデジタル化して、設計者が効率的に開発したり、若い人たちが自由に活用できたりすることで、開発期間の短縮や業務の効率化につなげることを目指します。
2026年春には、本社を現在の大阪府堺市から大阪市内の堺筋本町に移転します。これが、社内DXを推進するいいきっかけになると考えています。書類をデジタル化し、新本社にはなるべく紙を持っていかないようにすることもその1つです。本社移転までに社内の紙を半減したいですね。当社の社員数は減っていますから、DXは待ったなしで取り組む必要があります。
また、AIを活用して鴻海の役員が話をしたことをリアルタイムで翻訳して情報を共有したり、コミュニケーションを活性化したりといったことも考えています。従来は、鴻海から出向しているメンバーを通じて董事長(日本の代表取締役や理事長、会長などに相当)や本社とやりとりしていたのですが、今は直接、鴻海の劉揚偉(ヤング・リウ)董事長ととやりとりするケースが増え、鴻海の戦略を正しく、深く、迅速に理解できるようになりました。ここにもAIの翻訳機能を活用し、それぞれが中国語と日本語を使ってやり取りができるようになっています。
DX戦略については、まだ対外的な公表はしていませんが、中期経営計画の中では重要な取り組みの1つに位置付けています。今後、CDOから当社のDX戦略について発信する機会を作りたいと思っています。
●シャープが提唱する“超大型家電”としてのEV
―― シャープではデバイス事業のアセットライト化、ブランド事業の成長戦略と共に、新産業領域に取り組む姿勢を示しています。新規事業の進ちょく状況はどうですか。
沖津 今、当社が取り組んでいる新産業領域は、「EV」「AIデータセンターソリューション」「インダストリーDXおよびロボティクス」「宇宙」という4分野になります。
これらの新産業領域では、鴻海が持つ資産を有効に活用しながら推進していくことになります。例えば、AIサーバ事業は世界で最も多くのAIサーバを生産しているという鴻海の強みを生かして、日本での事業を検討していきます。液晶パネル生産を行っている亀山第2工場は、2026年8月までに鴻海への譲渡が完了します。鴻海は、亀山第2工場にAIサーバの生産ラインを設置する計画で、2027年度にはAIサーバの生産が本格化することになりそうです。
当社はこの動きに合わせて、AIデータセンター事業者に対する販売事業の立ち上げを検討していきます。当社は、AIサーバに関してはプロフェッショナルではありませんから、準備には2年程度を要するでしょう。AIサーバの生産が本格化する2027年度には、日本におけるAIサーバの販売事業を立ち上げたいと考えています。
もう1つ、新産業領域で動いている取り組みがEVです。
―― 2025年10月に開催された「Japan Mobility Show 2025」では、EVコンセプトモデル「LDK+」の第2弾を公開しましたね。
沖津 私は、「LDK+」を超大型家電だと位置付けています。クルマは95%の時間が停車しています。クルマは移動しているときに価値を生みますが、停まっている時間には全く価値を生みませんでした。この停まっている時間に着目したのが、当社が実現するEVです。
LDK+の名称からも分かるように、ガレージに置いておけば狭い日本の家庭に部屋を1つ増やせるというのが当社の提案です。トヨタや日産、ホンダ、三菱自動車が作っているクルマとは異なり、家につながるクルマという提案をしていくことになります。ガレージに停車しているときには車内の家電や空調を活用でき、バッテリーは非常時にも利用できます。
ここでも鴻海の資産を活用します。LDK+は、鴻海のEVプラットフォームをベースにし、そこに内装や機能を追加します。そのため、モノ作りに向けた大規模な投資が必要ありません。日本の市場だけを対象に、当面はB2Bで販売します。価格は現時点では決めていませんが、数千万円のクルマにすることは考えていません。一般の人に買ってもらう価格設定とします。
また、販売ルートについてはクルマの販売実績を持つヤマダ電機などの家電量販店や、エネルギー関連事業で関係が深い住宅メーカーとも話をしています。LDK+を購入すれば、住宅用蓄電池を購入しなくても済むという提案も可能になります。当社の社用車に採用する計画もあります。
このように、新産業領域においては鴻海の資産を活用していく考えです。また、鴻海は、いい技術があれば買収したり、人を採用したりする力があります。新産業分野では、そういったことも活用できると考えています。
当社に対しては、新規事業の取り組みが遅れているのではないかとの指摘があります。コロナ禍では部品が入手できないため新たな製品開発ができず、従来モデルを維持するのが精一杯という状況もあり、これが開発の遅れにつながったり、新産業領域に踏み出しにくい状況を生んだりしていました。
ただ、焦って新産業領域に取り組むことは考えていません。まずは、既存のブランド事業をしっかりと固める必要があります。その上で新規事業をやっていくことが大切です。複数の新規事業のうち、1つうまくいかなくても土台が崩れない体制を作ることが肝要です。
●かつての「元気なシャープ」を取り戻すための自問自答
―― 2027年度を最終年度とする3カ年の中期経営計画では、営業利益で800億円、ブランド事業での営業利益率7.0%以上を経営指標に掲げ、再成長のフェーズと位置付けています。しかしアセットライト化の影響もあり、売上高は2024年度比では減少することになります。「再成長」と言い切るフェーズではないように感じます。
沖津 確かに、デバイス事業のマイナスがありますから、2027年度の売上高は2024年度に比べて減少することになります。今やっていることは、既存のブランド事業の地盤をしっかりと固めて利益を出し、新規事業の種まきをするということです。
AIサーバやEVなどの新産業領域は、次の中期経営計画で成長させることになりますが、既存事業は、この中期経営計画でしっかりと成長させます。そこに再成長の意味があります。私の最大のミッションは中期経営計画をやりきることです。計画達成に向けて、しっかりと手を打っていきます
―― 社員にはどんなことを言っていますか。
沖津 かつての当社は8割ぐらい固まったら、製品化に踏み出していました。当時は、それぐらいやらないと、当社の存在感が発揮できないという危機感を社員全員が共有していたからです。
社員に言っているのは、もっと危機感を持つということです。これは、会社の業績が悪いということに対する危機感ではなく、自分たちがやっている事業には多くの強力なライバルがいることを認識してほしいということなんです。日本メーカーだけでなく、中国を始めとする海外メーカーもたくさんいる中で、ちょっと油断をしたらメジャーからマイナーへ転落する立場にいる。そうした危機感を感じながら仕事をしてほしい。
コロナ禍のときにサプライチェーンが混乱し、部品が足りなくてモノを作ることができない状況が発生しました。しかし、これであきらめてしまったらそれで終わりです。工場を止めたら一気に業績は悪化する。必死になって部品を集めて、工場を回して市場に商品を供給しました。その結果、営業利益率は10%に到達し、大きな利益を上げることができた。
今、35歳以下の当社の社員たちは、当社の社員でありながらも、「シャープらしさとは何か」という自問自答から入っていると思います。36歳以上の社員が、若い社員に対して「シャープらしさ」をしっかりと伝えなくてはならないといえます。
社員エンゲージメントスコアは上昇してきていますが、まだBランクの水準であり、「まともなシャープ」になっているとはいえません。そして「シャープらしさ」の浸透も、まだまだであり、中でも「シャープらしさ」を知らない課長たちに、「シャープらしさ」を理解してもらうことが大切だと思っています。
若い人たちの「やりたい!」という気持ちをしっかりと受け止め、若い人たちに仕事の面白さを肌で感じてほしいと思っています。
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