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年初の箱根駅伝では、選手たちが箱根路を駆け抜ける姿が印象的でしたね。ただ、激しい戦いが繰り広げられていたのは、駅伝そのものだけではありません。選手の足元、シューズの世界でも、スポーツメーカー同士の競争が激化しています。
ナイキやアディダスなどの欧米メーカーはもちろん、アジアの新興メーカーまで参入し、群雄割拠の様相を呈しているスポーツシューズ市場。日本を代表するスポーツメーカーであるアシックスとミズノも、それぞれの戦略を掲げ、この市場でしのぎを削っています。サッカースパイクも有名で、私自身も子どものころ、アシックスの「インジェクター」と、ミズノの「モレリアII」に強いあこがれを抱いたものです。
こうしたさまざまなスポーツ用品を扱うアシックスとミズノですが、両社の業績には大きな差が生まれています。何がこの違いを生んだのか。本記事では、アシックスとミズノの業績と戦略の違いを振り返るとともに、今後の展望を考察していきます。
●苦境から脱却するも
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アシックスの転機は、2000年代前半にありました。子どもの減少により、野球人口は2005年の約1250万人から10年で680万人へと半減し、ゴルフ人口も3分の2へと大幅に縮小。業績が厳しくなる中、アシックスは大きな決断を下します。ゴルフ、水泳、学校体育用品といった事業から撤退し、ランニングに経営資源を集中する戦略を採用したのです。
この選択と集中が、功を奏しました。2024年12月期の売上高は6785億円に達し、営業利益は1001億円と過去最高水準を記録しています。ランニングという単一の領域に集中した戦略が、大きな成長をもたらしました。
一方、ミズノも同じ時期に苦しい状況にありました。2016年の決算時に、ミズノは業務改善を宣言し、米州(北米と南米)の在庫圧縮や事業再編などに取り組みました。その結果、2018年3月期には営業利益を前年同期比5.5倍に増やすことに成功しています。
ただ、この「5.5倍」という数字には注意が必要です。2017年3月期の売上高は約1800億円あるにもかかわらず、営業利益はわずか14億円ほど。その5.5倍になったとはいえ、営業利益は80億円をかろうじて超えた程度です。
同時期のアシックスの売上高は4001億円で、ミズノの約2倍に達しました。営業利益は195億円であったことからも、売上規模と営業利益の両面で、両社には大きな差がついていました。
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●粗利改善とスポーツスタイル市場への挑戦
アシックスとミズノは2000年代に苦境に陥りましたが、「粗利の改善」に取り組んだという点では同じでした。
アシックスはランニングに絞った商品展開とともに、それまでの安売り戦略から脱却し、「良いものを高く売る」ことを重視。そのために在庫を抑制し、顧客がセールでの安売りを待って購入することを避けるようにしました。
つまり、「工場の稼働率を維持するために商品を大量生産し、最終的に安売りで処分する」という、従来の商習慣からの脱却を図ったのです。こうした取り組みが奏功し、アシックスの粗利率は2016年12月期の44.2%から、2024年12月期には55.8%へと劇的に改善しました。
ミズノも同様に、在庫管理の徹底と価格戦略の見直しを進めたことで、粗利率は2017年3月期の37.5%から2025年3月期には41.0%まで向上しています。両社とも、単なるコストダウンにとどまらず、過度な値引きを抑制し適正価格で販売する体制を確立したことが、大幅な粗利改善につながりました。
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また、両社に共通する取り組みとして、消費者に直接販売する「ダイレクト・トゥ・コンシューマー(DTC)」の強化と、ファッション性を意識した「スポーツスタイル市場への展開」があります。
アシックスは「オニツカタイガー」で、ファッション市場での成功を収めました。2025年には、パリのシャンゼリゼに旗艦店を出店するなど、欧州での存在感を高めています。
ミズノも「M-LINE」や「RB-LINE」といったスポーツスタイルのフットウェアを展開し、セレクトショップとのコラボレーションも実施しています。2025年には、大阪・関西万博の「ミャクミャクスニーカー」を高価格で販売し、即完売させました。決算説明資料でも、フットウェア事業が堅調に伸びていることを強調しています。
このように、粗利改善やDTCといった取り組みに大きな違いはないにもかかわらず、なぜアシックスとミズノの売上高や営業利益率に差が生じたのでしょうか。
●決定的な違いを生みだしたのは?
最も決定的な違いは、海外売上比率の差です。
アシックスの海外売上比率は、80%を超えています。2024年12月期の地域別の売り上げを見ると、為替の影響はあるものの、日本が1247億円、米州が1350億円、欧州が1793億円となっています。米州や欧州は、日本より売り上げが大きくなっています。
「オニツカタイガーは、インバウンド需要で売れている」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、インバウンド客が日本で商品を購入した場合、日本の売り上げに計上されます。海外の売り上げが日本を上回っているということは、現地の消費者からもきちんと支持を集められていることを意味しています。
セグメント別の営業利益率を見ると、その好調ぶりがより明確に分かります。日本は9.4%から16.6%へと改善しており、これはインバウンドの影響も大きいでしょう。注目すべきは海外市場です。米州では、2019年12月期や2020年12月期にはマイナスだったものが、現在は8.3%にまで回復しています。欧州に至っては14.1%と、日本よりも高い営業利益率を実現しているのです。
これはオニツカタイガーが、単に「日本に来て、円安の影響で安く買えるブランド」ではなく、欧米でもきちんとブランドとして認知され、高い収益性を実現していることを示しています。
一方、ミズノの海外売上比率は、39%にとどまっています。2025年3月期の売上高を見ると、日本が1472億円に対し、米州・欧州ともに350億円前後。日本での売り上げはアシックスと大きく変わらないものの、海外の売り上げはアシックスの5分の1程度しかないことが分かります。
ミズノの営業利益率を見ても、その国内依存度の高さがうかがえます。2025年3月期のセグメント利益率は、日本では8.6%、アジアでは10.7%と健闘しています。ただ、欧州はわずか2.9%で、ミズノ全体の営業利益率も8.6%と、2017年3月期の0.8%から大きく改善したものの、アシックスの14.7%には遠く及びません。
こうした海外展開の成否が、両社の業績に大きな差をもたらしていると考えられます。
●ブランド戦略にも大きな違いが
また、広告宣伝費などの「販管費」の使い方や、それによるブランド認知の向上も、アシックスとミズノの業績の差に大きな影響を与えています。
アシックスとミズノの成長率の差は、コロナ禍前における「先行投資」への姿勢の違いに起因しています。
アシックスはブランド再構築のために広告宣伝費等を積み増し、販管費率は2016年の37.9%から、2019年には47.5%へと約10ポイントも上昇しました。対照的に、ミズノは同期間も37%程度の水準を維持する堅実な運営を続けました。
この時期にアシックスが敢行した積極的な投資が、現在のブランド力向上として結実しています。その結果、ミズノの売上高成長率が平均3%程度にとどまるのに対し、アシックスはコロナ後、年率20%近い急成長を遂げており、過去の投資判断がその後の成長軌道に決定的な影響を与えたと考えられます。
また、両社のブランド戦略にも、明確な違いがあります。アシックスは、機能性重視のランニング用のブランドと、ファッション性の高いオニツカタイガーという2つの軸で展開しています。ランニングを軸にフットウエアを展開するという、明確な戦略を採用しています。
一方のミズノは、最近こそファッションにも力を入れていますが、基本的には競技用品が中心です。前述のように、事業の「選択と集中」を行い、野球用のバットやグローブの生産終了を発表したアシックスに対し、ミズノはこれらの事業を維持。手作業にこだわった日本製の野球グローブやバットを生産し、その様子をWebサイトで紹介するなど、日本の職人技を打ち出しています。
選択と集中を行い、ランニングを軸にブランド力を向上させたアシックスと、さまざまなスポーツに対応するミズノ。このブランド戦略の差が、現在の売り上げと利益の差につながっています。
●スポーツスタイル市場への依存も危ない?
アシックスもミズノも、現在はスポーツスタイル市場に力を入れており、アシックスのオニツカタイガーはもちろん、ミズノのフットウェアも着実に成長しています。
ただ、私自身はこの流れに一抹の不安を感じています。スポーツスタイルという「普段着としてのスポーツウエア」は、あくまで流行に支えられている市場です。ナイキやアディダス、ニューバランス、新興ブランドがひしめくレッドオーシャンの中で、アシックスもミズノも継続的な差別化が求められています。
特に、厳しい状況にあるのはミズノです。アシックスには、オニツカタイガーという確立されたブランドと、すでに定着したランニング文化という明確な軸があります。一方のミズノには、そのような軸がまだ見えていません。仮にスポーツスタイルの流行が一段落したとき、後追いで参入したミズノが失速する可能性は否定できません。
スポーツスタイルのブームが去った後も、競争力を維持し、成長を描けるのか。この問いに両社がどう向き合うのか、今後も注目していきたいと思います。
(カタリスト投資顧問株式会社 取締役共同社長/ポートフォリオ・マネージャー、草刈 貴弘)
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