「名古屋のお土産弁当で呑む」―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは名古屋のお土産弁当。果たして、お味はいかに?
◆孤独のファイナル弁当 vol.11 「名古屋のお土産弁当で呑む」
帰り仕事で名古屋に行った。仕事先で弁当が出たが、食べる時間がないので、開けずに持って帰ってきた。
自宅に戻ったのは大相撲の千秋楽が終わった後だった。残念。生中継を見ながら、ビールでも飲みながらのんびり食べたかった。
しかもビールは帰りの新幹線で飲んでしまった。あらためて缶ビールを開けてもよいが、それも何かつまらない。全然期待しないで冷蔵庫を開けたら、なんと八海山の一合瓶があるではないか! 忘れていた。棚からぼた酒。
で、テーブルに弁当を置き、八海山を小ぶりの茶碗に厳かに注いだ。何か、思わぬ展開になった気分。突如、ファイナル気分高まる。俺の最後の弁当は、意外にも名古屋めしだったか。それもよかろう。
さて、能書きを読まず、封を解く。さてさてぇ〜?
おお!
これは一人なのにどよめく。3×3の9部屋に分けられたレイアウトが眩い。
まず目を引くのが仕切りからはみ出したカツだ。よく見ると丸いカツが2ケ。そうきたか。そして小袋に入った「松浦商店」の味みそ。「八丁味噌使用」と書いてある。もちろん味噌カツ用だろう。心が弾む。
その下には天むすだ。よーし名古屋。カツの上段にあるのは……きしめんだ! きしめん大好物! しかしつゆがない。これいかに食うべきや。
あとは、煮物、焼き鯖、卵焼き、カマボコと、まあ普通の幕内弁当的。
一番右端の白いのはなんだ。よく見るとビニールがかかっていて、そこに小さな文字で「しろ」と連続して書いてある。なにそれ? しろ?
我慢できず原材料名確認。
……ういろう。ういろうかぁ。これいらないなぁ。誰かにあげる。その誰かがいない。残すしか。ファイナル弁当でういろう残すしか。なんか無念だ。まあいい、ほかを食べてから考えよう。保留。
ついでに見ちゃった。きしめんは「きしめんサラダ」と書いてある。ふーん。それから食べてみる。……あ、ごま油。ああね。そうか。まあね、汁入れるわけにもいかないし、名古屋と言ったらきしめんは外せない、という気持ちがここに着地したか。うむ。すごくうまい、とは言えないが、悪くもない。作り手の工夫、苦渋の選択に、まず乾杯だ。その名古屋人の心意気をいただく。
あ、冷えた八海山うまい! 名古屋の地酒でなくて申し訳ないが、やはりうまい。こうなると「全てのおかずが酒の肴として立ち上がってくる」。味の染みた煮物も、塩っぱい鯖も実にいいアテだ。真ん中は「鶏だし炊き込みご飯」だった。これでフィニッシュだな。
味噌カツ天むす、文句なし。充実晩餐の弁当酒だった。大満足。思い残すことはない。ういろう? 現在経過観察中。
―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi